上 下
32 / 44

一触即発

しおりを挟む
 せっかくメイド姿の(無表情だが)可愛い女の子と二人で川面を眺めていたのに、ガラの悪い男三人に絡まれるという嫌な展開。

「ショウ、早く薬草買いに行こう」

 ミクは、俺の右手を引っ張るように歩き出した。

「まあ、ちょっと待てよ!」

 頬に傷のある男が、ミクの前に立ちふさがった。

「せっかくいいところ教えてやろうと言ってるのに、そんな態度はないだろう?」

 ニヤけながらミクの体に触れようと手を伸ばしてくる。
 表情の変化に乏しいミクも、若干嫌悪感をにじませたように思えた。
 気が付くと、俺は男の手首をつかんでいた。

「……なんだキサマ。やろうってのか?」

 ドスの聞いた声で凄んでくる……どこの世界でも、こういう奴はいるようだ。

「いや……まだ警告だけだ。これ以上、俺たちにかかわるな。ケガだけじゃ済まなくなるぞ」

「……てめえ……」

 なんか、余計にキレたようだ。

「まあ、落ち着いてくれ……こんな街中でやり合ったって、お互いに損なだけだろう?」

 すでに、周囲からは怪訝な表情で見られている。
 行きかう人々は眉をひそめ、俺達から距離を取っている……若干、期待しているような眼をした者もいるが。

「……テメエが俺たちとやり合えるとでも思っているのか?」

「なぜやり合えないと思うんだ?」

 その俺の言葉に、男は眉をピクリと動かした。

「さっき言っただろう、ケガだけじゃ済まなくなるって……俺だって無暗に暴れたくないさ。けど、場合によっちゃそうせざるをえない時だってある」

「……俺らは三人いるんだぜ?」

「ああ、だからだよ。手加減できなくなる……一人も三人も関係ない。繰り返すが、ケガさせたくないんだ……いや、ケガだけじゃ済まないか」

 それだけ言うと、俺は男の手を離した。
 その後ろに控えていた、少し小柄な目つきの悪い男が、

「おい、やべえぜ……なんか全然怯んでないぞ……相当場慣れしてやがる」

 と小さく言葉にすると、その隣の小太りの男も、

「ああ、全然びびってねえ……腰に何か武器みたいなの持っているし、肩には変なもの付けてるし……魔道具でも持ってるんじゃねえか?」

 小声で話しているつもりかもしれないが、元々がでかい声のためなのか、ちゃんと聞こえている。

「……まあ、あんたらの言う通り便利な道具を持っているっちゃ持ってるけどな……そういう問題じゃないんだ。レベルが違う」

 俺は余裕の笑みを浮かべた。
 別にそっちからかかってくるなら仕方がない、という最終警告のつもりだった。

「……ちっ、興ざめしたぜ……こんなガキどもからかっても仕方ねえ。行くぞ」

 男たちは周囲にも悪態をつきながら帰っていった。
 それを見た多くの人たちは安堵の表情で、そして一部の者は不満そうにその場を立ち去っていき、また元の人々が行きかう繁華街の光景に戻っていた。

「……ショウ、ひょっとして強いの?」

 ミクが、少しだけ意外そうに聞いてきた。

「俺が? いや……多少ボクシング……拳闘を練習したことがある程度で、素人に毛が生えたようなものだよ。まあ、それでもあの酔っ払い一人ぐらいなら相手はできたかもしれないけど、三人一度に飛び掛かられたら絶対やられてたな」

 高校時代、ボクシングの映画を見て感動し、半年ほどジムに通って練習したことがあるが、その程度だ。
 ロードワークの代わりに、クロスバイクで毎日走っているのはその名残だ。

「……だったら、どうしてあんなに強気だったの?」

「うん? だって本当に戦いになったりしたら、ミクが魔法で黒コゲにしてただろう?」

「……なんだ……」

 ちょっとがっかりさせてしまったか?

「街中で攻撃魔法使ったら捕まる……結構重い罪」

 ミクは無表情でさらっと恐ろしいことを言った……そういうものなのか? いや、そうでないと確かに危険だ。
 今さらながら、ヤバイところだったって気づいてしまった。

「……でも、嬉しかった……ありがと」

 めずらしく、ミクが感謝の言葉を言ってくれた……ちょっと嬉しい。それだけで報われた気分だった。

 その後、アイゼンに指定された薬草は問題なく買うことができた。
 ちなみに、それは手さげ袋に入れて、俺が持ってあげている。
 ちょっとしたハプニングはあったけど、綺麗な景色は見れたし、後は帰るだけだ……と思っていたら、目の前に、20代後半ぐらいの、痩せた背の高い男が一人立っていて、俺たちの進路を塞いだ。

 夏の夜だというのに、黒いコートを羽織っている。
 やけに肌の色が白いのも気になった。
 また変な奴に絡まれたのか……と思った。

 こいつも、目つきが悪い……っていうか、獲物を狙う蛇のようで、気持ち悪い……いや、寒気すら感じてきた。

「……見つけたぞ……何度か残り香は感じていたが……夜にこの街に来たのは初めてじゃないのか?」

 その男は、ミクだけを見つめながら変なことを口走った。
 ひょっとして、ミクの知り合いなのかと思って彼女の様子を見て、ぎょっとした。

 表情の変化が乏しかったはずの彼女が目を見開き、ガタガタと震え……左手で俺の腕を掴んできた。

 そしてその右手には、バチバチと、魔法による雷撃の塊が生まれようとしていた――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

忘れられた元勇者~絶対記憶少女と歩む二度目の人生~

こげ丸
ファンタジー
世界を救った元勇者の青年が、激しい運命の荒波にさらされながらも飄々と生き抜いていく物語。 世の中から、そして固い絆で結ばれた仲間からも忘れ去られた元勇者。 強力無比な伝説の剣との契約に縛られながらも運命に抗い、それでもやはり翻弄されていく。 しかし、絶対記憶能力を持つ謎の少女と出会ったことで男の止まった時間はまた動き出す。 過去、世界の希望の為に立ち上がった男は、今度は自らの希望の為にもう一度立ち上がる。 ~ 皆様こんにちは。初めての方は、はじめまして。こげ丸と申します。<(_ _)> このお話は、優しくない世界の中でどこまでも人にやさしく生きる主人公の心温まるお話です。 ライトノベルの枠の中で真面目にファンタジーを書いてみましたので、お楽しみ頂ければ幸いです。 ※第15話で一区切りがつきます。そこまで読んで頂けるとこげ丸が泣いて喜びます(*ノωノ)

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

ボッチの高校生が異世界の少女にスカウトされて悪夢を救う魔道士に転職 -ナイトメア・ハンター-

nusuto
ファンタジー
ボッチの東条郁人は魔道士の少女によって異世界に招待される。異世界では黒魔術師や悪夢によって支配され、国民が安心して眠れない世界だった。主人公は転移したときに妖精から貰った魔法を駆使して、国を脅かす黒魔術師を倒す。そしてメイドや魔道士の仲間、女王様と一緒に世界を救うために戦い続ける。ハーレムや主人公最強、異世界ファンタジーが好きな方にオススメです。

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

おじさんが異世界転移してしまった。

月見ひろっさん
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...