5 / 44
メープルシロップ味
しおりを挟む
「おお、シルヴィよ、ちょうどよかった。そなたにも紹介しておこう。こちら、異世界からの訪問者、ショウ殿じゃ」
アイゼンがイヌ耳の少女に、俺のことを紹介してくれた。
「え、異世界……あの地下室の、伝説の見えない扉が開いたのですか!? 凄いじゃないですか……あの、私、シルヴィっていいます! この館のお手伝いさんをしています! お会いできて光栄です!」
まるで神様を前にしたように両手を組み、祈るように俺のことを尊敬のまなざしで見つめる彼女。
「いや、本当に俺は向こうの世界ではただの一般市民だから。賢者と称されるアイゼンさんの方がよっぽど尊い存在だと思うよ」
「あ、もちろんアイゼン様もすばらしいお方ですが、本当に異世界から来られるということは、神様に認められたお方のはずですから……」
うるうると憧れの眼差しで俺のことを見続けるイヌ耳の少女、シルヴィ。
小柄ではあるが、顔も小さいので8頭身ぐらいに見える。
だから決して子供っていうわけではなく、現代でいえば女子高生ぐらいの美少女だ……まあ、獣人の歳なんてわからないけど……そういう意味では、エルフのソフィアはもっと歳が分からないな。女子大生ぐらいに見えるが。
と、不意にシルヴィは目を閉じ、クンクンと匂いを嗅ぐようなしぐさを見せた。
すぐに目を開けて、そしてその目を輝かせ、
「……ショウ様、すごくおいしそうな匂いがします……」
ちょっと口を開けて、じっとこちらを見つめる……え? 獣人って……人間を食べるのか?
俺が怯えて後ずさりすると、こちらの考えに気づいたのか、
「いえ、もちろんショウ様がおいしそうっていう意味ではありませんよ? なにか甘い食べ物の香りがする、っていうことで……」
両手を左右に動かして、懸命に弁解する。
「……そうか、君は鼻がいいんだな……うん、こっちに来る前に、食事代わりにケロリーメルト……まあ、お菓子みたいなの食べたんだ。たしかにあれは結構甘い匂いがするから、それが残っていたんだな」
「へえ……異世界のお菓子、ですか……美味しいんでしょうね……」
うっ……そんなうるんだ瞳で見つめられると……しかも、耳をピコピコ動かし、しっぽもパタパタと大きく振っているではないか……これは……かわいい……。
「……えっと、今、俺が食べたメープルシロップ味のは持ってきていないんだ。荷物の中にプレーンは入れてきたけど、ちょっと味が薄いから……よかったら、メープルシロップ味もすぐに取りに戻るから、食べてみるかい?」
「本当ですか!? はい、是非食べてみたいですっ!」
パアッと分かりやすく嬉しそうな笑顔を浮かべるイヌ耳の美少女。
それを見たソフィアも、アイゼンも、ちょっとあきれ顔だったが、
「あ、いっぱいありますから、お二人の分も持ってきますよ」
と付け加えると、
「……そうじゃな、そう言ってもらえるならお言葉に甘えるとするかの。お菓子を食べながらみんなで異世界の話を聞くのもいいじゃろう……あ、もう一人、メイドのミクもおる。シルヴィと同じ年頃の、人間の娘じゃ。彼女にお茶を入れさせよう……すまんがショウ殿……」
「ええ、わかりました。その娘の分も持って来ますよ」
この異世界で人間のメイド、しかも若い女の子と聞けば、ちょっとどんな感じの子なのか気になる。
「では、儂らがお茶会の準備を始めておくとしよう……そうじゃな、ソフィアも手伝ってくれ。シルヴィはショウ殿を案内してあげなさい」
「はい、かしこまりました! ショウ様、行きましょう!」
イヌ耳のシルヴィはお菓子につられたのか、元々の性格なのか、ものすごくテンションが高いし話しやすい。
案内がエルフのソフィアだったら、二人だけだとちょっと気まずかっただろうから、アイゼンが気を使ってくれたのだろう。
今歩いて来た廊下を戻って、階段を下りて地下室に入り、例のゲートにたどり着くまで、シルヴィはずっと話しっぱなしだった。おかげで随分と打ち解けた。
彼女によると、ソフィアは相当な腕前の剣士で、人間の騎士にも負けないのだという。
そしてメイドのミクは、普段は無口だけど、すごく可愛い女の子らしい。
また、ミクはアイゼンから直々に魔法の指導も受けており、十八歳の若さでかなり強力な魔法が使えるのだという。
ちなみに、シルヴィも十八歳。ミクとは同じ歳ということもあり、仲がいいらしい。
あと、ソフィアの歳は知らないが、年上なのは間違いなく、頼りになるお姉さん的存在だということだった。
ちなみに、シルヴィは獣人だけあって、小柄な割に体力には自信があり、丸一日でも走っていられるらしい。
そんなことを話しているうちに、地下室のゲートにたどり着いたので、
「すぐ帰ってくるから」
とだけ彼女に伝えて、俺にしか見えない光り輝くそのゲートをくぐった。
「お帰りニャ、早かったニャ!」
現実世界の俺の部屋で、白ネコのトゥエルが俺を出迎えてくれる。
「ネコ……じゃなかった、トゥエル、すごいぞ! 本当に異世界だった! ほら、エルフだ!」
俺はそう言って、さっき撮影したソフィアの写真を見せた。
すると、トゥエルは食い入るようにその画像を見て、
「……これは本当にすごいニャ! 想定してなかったニャ!」
と驚いていた。
「ああ、すごいだろう……想定って?」
「この画像のことニャ! 異世界からはいかなるモノも持ってこられない……それは説明した通りだニャ。でも、この撮影した画像は持ってこられた……たぶん、モノじゃないからだニャ!」
「……そういや、そんな制限があること言ってたな……うん、このエルフの画像、俺だけが独占するのはもったいない! トゥエル、この画像、ネットにアップしても構わないか?」
「……まあ、ボクは構わないニャ。そもそも、向こうの世界のことをこちらの世界の人に広めてほしい、っていうのがボクの願いでもあったからね」
神の化身である白ネコの了解が得られたので、俺は急いでソフィアの画像を自分のトゥイッターにアップし、
「ただいま、異世界訪問中!」
とだけコメントをつけて投稿した。
そして買いだめしておいたケロリーメルトのメープルシロップ味をたくさんリュックに詰め、再びゲートをくぐって、シルヴィの待つ地下室に戻ったのだった。
アイゼンがイヌ耳の少女に、俺のことを紹介してくれた。
「え、異世界……あの地下室の、伝説の見えない扉が開いたのですか!? 凄いじゃないですか……あの、私、シルヴィっていいます! この館のお手伝いさんをしています! お会いできて光栄です!」
まるで神様を前にしたように両手を組み、祈るように俺のことを尊敬のまなざしで見つめる彼女。
「いや、本当に俺は向こうの世界ではただの一般市民だから。賢者と称されるアイゼンさんの方がよっぽど尊い存在だと思うよ」
「あ、もちろんアイゼン様もすばらしいお方ですが、本当に異世界から来られるということは、神様に認められたお方のはずですから……」
うるうると憧れの眼差しで俺のことを見続けるイヌ耳の少女、シルヴィ。
小柄ではあるが、顔も小さいので8頭身ぐらいに見える。
だから決して子供っていうわけではなく、現代でいえば女子高生ぐらいの美少女だ……まあ、獣人の歳なんてわからないけど……そういう意味では、エルフのソフィアはもっと歳が分からないな。女子大生ぐらいに見えるが。
と、不意にシルヴィは目を閉じ、クンクンと匂いを嗅ぐようなしぐさを見せた。
すぐに目を開けて、そしてその目を輝かせ、
「……ショウ様、すごくおいしそうな匂いがします……」
ちょっと口を開けて、じっとこちらを見つめる……え? 獣人って……人間を食べるのか?
俺が怯えて後ずさりすると、こちらの考えに気づいたのか、
「いえ、もちろんショウ様がおいしそうっていう意味ではありませんよ? なにか甘い食べ物の香りがする、っていうことで……」
両手を左右に動かして、懸命に弁解する。
「……そうか、君は鼻がいいんだな……うん、こっちに来る前に、食事代わりにケロリーメルト……まあ、お菓子みたいなの食べたんだ。たしかにあれは結構甘い匂いがするから、それが残っていたんだな」
「へえ……異世界のお菓子、ですか……美味しいんでしょうね……」
うっ……そんなうるんだ瞳で見つめられると……しかも、耳をピコピコ動かし、しっぽもパタパタと大きく振っているではないか……これは……かわいい……。
「……えっと、今、俺が食べたメープルシロップ味のは持ってきていないんだ。荷物の中にプレーンは入れてきたけど、ちょっと味が薄いから……よかったら、メープルシロップ味もすぐに取りに戻るから、食べてみるかい?」
「本当ですか!? はい、是非食べてみたいですっ!」
パアッと分かりやすく嬉しそうな笑顔を浮かべるイヌ耳の美少女。
それを見たソフィアも、アイゼンも、ちょっとあきれ顔だったが、
「あ、いっぱいありますから、お二人の分も持ってきますよ」
と付け加えると、
「……そうじゃな、そう言ってもらえるならお言葉に甘えるとするかの。お菓子を食べながらみんなで異世界の話を聞くのもいいじゃろう……あ、もう一人、メイドのミクもおる。シルヴィと同じ年頃の、人間の娘じゃ。彼女にお茶を入れさせよう……すまんがショウ殿……」
「ええ、わかりました。その娘の分も持って来ますよ」
この異世界で人間のメイド、しかも若い女の子と聞けば、ちょっとどんな感じの子なのか気になる。
「では、儂らがお茶会の準備を始めておくとしよう……そうじゃな、ソフィアも手伝ってくれ。シルヴィはショウ殿を案内してあげなさい」
「はい、かしこまりました! ショウ様、行きましょう!」
イヌ耳のシルヴィはお菓子につられたのか、元々の性格なのか、ものすごくテンションが高いし話しやすい。
案内がエルフのソフィアだったら、二人だけだとちょっと気まずかっただろうから、アイゼンが気を使ってくれたのだろう。
今歩いて来た廊下を戻って、階段を下りて地下室に入り、例のゲートにたどり着くまで、シルヴィはずっと話しっぱなしだった。おかげで随分と打ち解けた。
彼女によると、ソフィアは相当な腕前の剣士で、人間の騎士にも負けないのだという。
そしてメイドのミクは、普段は無口だけど、すごく可愛い女の子らしい。
また、ミクはアイゼンから直々に魔法の指導も受けており、十八歳の若さでかなり強力な魔法が使えるのだという。
ちなみに、シルヴィも十八歳。ミクとは同じ歳ということもあり、仲がいいらしい。
あと、ソフィアの歳は知らないが、年上なのは間違いなく、頼りになるお姉さん的存在だということだった。
ちなみに、シルヴィは獣人だけあって、小柄な割に体力には自信があり、丸一日でも走っていられるらしい。
そんなことを話しているうちに、地下室のゲートにたどり着いたので、
「すぐ帰ってくるから」
とだけ彼女に伝えて、俺にしか見えない光り輝くそのゲートをくぐった。
「お帰りニャ、早かったニャ!」
現実世界の俺の部屋で、白ネコのトゥエルが俺を出迎えてくれる。
「ネコ……じゃなかった、トゥエル、すごいぞ! 本当に異世界だった! ほら、エルフだ!」
俺はそう言って、さっき撮影したソフィアの写真を見せた。
すると、トゥエルは食い入るようにその画像を見て、
「……これは本当にすごいニャ! 想定してなかったニャ!」
と驚いていた。
「ああ、すごいだろう……想定って?」
「この画像のことニャ! 異世界からはいかなるモノも持ってこられない……それは説明した通りだニャ。でも、この撮影した画像は持ってこられた……たぶん、モノじゃないからだニャ!」
「……そういや、そんな制限があること言ってたな……うん、このエルフの画像、俺だけが独占するのはもったいない! トゥエル、この画像、ネットにアップしても構わないか?」
「……まあ、ボクは構わないニャ。そもそも、向こうの世界のことをこちらの世界の人に広めてほしい、っていうのがボクの願いでもあったからね」
神の化身である白ネコの了解が得られたので、俺は急いでソフィアの画像を自分のトゥイッターにアップし、
「ただいま、異世界訪問中!」
とだけコメントをつけて投稿した。
そして買いだめしておいたケロリーメルトのメープルシロップ味をたくさんリュックに詰め、再びゲートをくぐって、シルヴィの待つ地下室に戻ったのだった。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!
SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、
帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。
性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、
お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。
(こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる