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第54話 究極完全回復魔法(アルティメイト・ヒーリング)
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今から四十年以上も昔の話。
当時、王国は侵攻してくる南方の蛮族と度々戦争を行ってきた。
騎士団はそのたびに遠征・奮闘し、これらを蹴散らしてきた。
そこには勇猛で知られる将軍・ロンメルの功績が大きかった。
しかし彼は、将軍であるにもかかわらず、最前線に出たがるという悪い癖があった。
それで騎士達の指揮を高める狙いもあったのだろうが、それが悪い方向に転ぶこともあった。
その日、最前線に立った彼は、目を疑ったことだろう。交戦中の蛮族達に、数体の巨大な影が混ざっていたのだから。
人間が嫌いなはずの巨人族と手を組んだ蛮族達に対しても、ロンメルをはじめとする騎士達は勇猛に戦った。
しかし、敵が初めて実行する戦術……ごくシンプルな、巨人に大岩を投げさせるという戦い方に、隊列を組んで進行するスタイルの騎士達は、大きなダメージを受けた。
ロンメルは、この戦いで右手と右足を潰され、右肺も損傷するという瀕死の重傷を負った。
さすがの騎士団もこの結果には防御拠点の砦まで一時撤退を余儀なくされた。
砦には、十数名の治癒術師が従軍していたが、将軍の怪我について、止血や増血、鎮痛といった延命のための魔法を使うだけで、ほとんどの者が匙を投げた。
そんな中、たった一人……まだ若い、見た目は二十歳そこそこの治癒術師が言った。
「私なら、究極の回復魔法を使って彼を助けられます。しかし、この魔法は私の生涯で七回しか使えず、また、一度使うと半年は使用できなくなります。今までに二回使用していますので、あと五回使えます。そのうちの一回を、将軍様に使用します。もし、治癒に成功したならば、私を貴族にしてください」
そのような若者の発言に、将校達は大いに疑ったものの、将軍が完全に回復するのであれば、領地を持たせて下級貴族とする事ぐらいは容易いだろう、と約束した。
そして彼は、特別に設置された救助用大型テントの中で、ロンメル将軍に対して、『究極完全回復魔法』を使用した。
彼と将軍の二人が眩しい虹色の光に包まれて、その場に居た将校全員が一瞬目を瞑り……そしてゆっくりと瞼を開いた時には、将軍の体は、怪我を負う前の状態に完全回復していた。
その場に居た全員があっけにとられる中、彼は、ゆっくりと起き上がり……両手、両足、そして体を軽く動かした後、魔法を使った青年と、握手を交わした。
あまりの凄まじい回復ぶりに、言葉を失っていた将校達だったが、その握手を見て、全員が大きな拍手を送った。
その後、将軍の復活により勢いを取り戻した王国軍は、巨人族と手を組んだ蛮族達をも退けることができた。
そしてその青年――治癒術師アイゼンハイムは、その功績により下級ながら貴族として認められ、セントラル・バナンの北方に領地を与えられ、そこに拠点・アイゼンシュタートとして小さな寺院を設立した。
やがて、彼の噂を聞きつけた治癒術師達が、『究極完全回復魔法』の極意を会得しようと集まるようになり、寺院は徐々に大きくなった。
当時、アイゼンハイムは、見た目は二十歳ぐらいにもかかわらず最高レベルの治癒術師であり、彼の弟子となった者達も数年で高レベルの治癒魔法を覚えるようになってきた。
こうして、アイゼンシュタートは大きくなり、治癒術師達の一大聖地にまで発展した。
しかし、結局誰一人として、『究極完全回復魔法』を会得できる者は現れなかった。
そして十五年ほど経ったある日、アイゼンハイムは突如失踪した。
噂では、恋愛がらみでの逃避行だったのではないかとされているが、真実は定かでない。
彼に家族はおらず、また、生死は不明であったため、彼の弟子が統治を代行しているという。
――これが、『究極完全回復魔法』に関する情報だった。
実際にロンメル将軍が完全治癒され、テントから出てくる様子を見たという元騎士の証言も得ることができた。
俺達は、いくつかの後処理……呪怨の黒杖の返納、解呪の白杖の持ち出しの許可(ただし、これには反対意見もあったが、ソフィア姫の必死の説得により実現)、それと、迷宮で石にしたままの十三人の黒衣の男達の捕縛を終えてから、『究極完全回復魔法』を求める旅に出発した――。
-----------
「えっ……じゃあ、もう一度、アルジャの迷宮に入ったの?」
ユナは、驚いたようにそう話した。
「ああ、十三人の男達の正体を突き止め、情報を得るためにそうする必要があった。猛毒の情報も欲しかったし、な。騎士三十人を引き連れての大部隊で、アクトが迷宮の扉を開けて入り、一人ずつ白杖で解呪し、縄で縛り上げて馬車に荷物として放り込んだんだ……その時、一度、石になったままの君に変化がないことを確認して……必ず助けるって、改めて誓ったんだ」
「……約束、守ってくれたんだね……ありがと、本当に感謝してるよ」
すぐ隣に座っている彼女の目は、涙ぐんでいた。
当時、王国は侵攻してくる南方の蛮族と度々戦争を行ってきた。
騎士団はそのたびに遠征・奮闘し、これらを蹴散らしてきた。
そこには勇猛で知られる将軍・ロンメルの功績が大きかった。
しかし彼は、将軍であるにもかかわらず、最前線に出たがるという悪い癖があった。
それで騎士達の指揮を高める狙いもあったのだろうが、それが悪い方向に転ぶこともあった。
その日、最前線に立った彼は、目を疑ったことだろう。交戦中の蛮族達に、数体の巨大な影が混ざっていたのだから。
人間が嫌いなはずの巨人族と手を組んだ蛮族達に対しても、ロンメルをはじめとする騎士達は勇猛に戦った。
しかし、敵が初めて実行する戦術……ごくシンプルな、巨人に大岩を投げさせるという戦い方に、隊列を組んで進行するスタイルの騎士達は、大きなダメージを受けた。
ロンメルは、この戦いで右手と右足を潰され、右肺も損傷するという瀕死の重傷を負った。
さすがの騎士団もこの結果には防御拠点の砦まで一時撤退を余儀なくされた。
砦には、十数名の治癒術師が従軍していたが、将軍の怪我について、止血や増血、鎮痛といった延命のための魔法を使うだけで、ほとんどの者が匙を投げた。
そんな中、たった一人……まだ若い、見た目は二十歳そこそこの治癒術師が言った。
「私なら、究極の回復魔法を使って彼を助けられます。しかし、この魔法は私の生涯で七回しか使えず、また、一度使うと半年は使用できなくなります。今までに二回使用していますので、あと五回使えます。そのうちの一回を、将軍様に使用します。もし、治癒に成功したならば、私を貴族にしてください」
そのような若者の発言に、将校達は大いに疑ったものの、将軍が完全に回復するのであれば、領地を持たせて下級貴族とする事ぐらいは容易いだろう、と約束した。
そして彼は、特別に設置された救助用大型テントの中で、ロンメル将軍に対して、『究極完全回復魔法』を使用した。
彼と将軍の二人が眩しい虹色の光に包まれて、その場に居た将校全員が一瞬目を瞑り……そしてゆっくりと瞼を開いた時には、将軍の体は、怪我を負う前の状態に完全回復していた。
その場に居た全員があっけにとられる中、彼は、ゆっくりと起き上がり……両手、両足、そして体を軽く動かした後、魔法を使った青年と、握手を交わした。
あまりの凄まじい回復ぶりに、言葉を失っていた将校達だったが、その握手を見て、全員が大きな拍手を送った。
その後、将軍の復活により勢いを取り戻した王国軍は、巨人族と手を組んだ蛮族達をも退けることができた。
そしてその青年――治癒術師アイゼンハイムは、その功績により下級ながら貴族として認められ、セントラル・バナンの北方に領地を与えられ、そこに拠点・アイゼンシュタートとして小さな寺院を設立した。
やがて、彼の噂を聞きつけた治癒術師達が、『究極完全回復魔法』の極意を会得しようと集まるようになり、寺院は徐々に大きくなった。
当時、アイゼンハイムは、見た目は二十歳ぐらいにもかかわらず最高レベルの治癒術師であり、彼の弟子となった者達も数年で高レベルの治癒魔法を覚えるようになってきた。
こうして、アイゼンシュタートは大きくなり、治癒術師達の一大聖地にまで発展した。
しかし、結局誰一人として、『究極完全回復魔法』を会得できる者は現れなかった。
そして十五年ほど経ったある日、アイゼンハイムは突如失踪した。
噂では、恋愛がらみでの逃避行だったのではないかとされているが、真実は定かでない。
彼に家族はおらず、また、生死は不明であったため、彼の弟子が統治を代行しているという。
――これが、『究極完全回復魔法』に関する情報だった。
実際にロンメル将軍が完全治癒され、テントから出てくる様子を見たという元騎士の証言も得ることができた。
俺達は、いくつかの後処理……呪怨の黒杖の返納、解呪の白杖の持ち出しの許可(ただし、これには反対意見もあったが、ソフィア姫の必死の説得により実現)、それと、迷宮で石にしたままの十三人の黒衣の男達の捕縛を終えてから、『究極完全回復魔法』を求める旅に出発した――。
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「えっ……じゃあ、もう一度、アルジャの迷宮に入ったの?」
ユナは、驚いたようにそう話した。
「ああ、十三人の男達の正体を突き止め、情報を得るためにそうする必要があった。猛毒の情報も欲しかったし、な。騎士三十人を引き連れての大部隊で、アクトが迷宮の扉を開けて入り、一人ずつ白杖で解呪し、縄で縛り上げて馬車に荷物として放り込んだんだ……その時、一度、石になったままの君に変化がないことを確認して……必ず助けるって、改めて誓ったんだ」
「……約束、守ってくれたんだね……ありがと、本当に感謝してるよ」
すぐ隣に座っている彼女の目は、涙ぐんでいた。
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