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第51話 雪の降る夜
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窓の外は、雪がちらついていた。
栗色の髪と、同色の瞳をもつ少女は、宿が用意したナイトガウンを纏い、ベッドに腰掛けてくつろいでいた。
ノックする音が聞こえ、彼女はドアを開けた。
すると、そこに色違いのガウンを着た青年が、照れながら入ってきた。
少女は、少し赤く頬を染めて、彼を迎え入れる。
二人は、同じベッドに並んで腰掛けた。
「……太もも、見せてくれないか?」
青年の、いきなりの要求に、少女は
「……それって、どういう意味で? 何かの冗談? それとも、その気になっちゃったの?」
と、笑って返した。
「どっちでもない。心配でしょうがないんだ……本当に、きちんと治ったのか……」
と、真剣な彼の様子に、彼女はため息をついて、ガウンの裾をまくり上げ、その部分を見せた。
白く、美しい大腿部を、彼はじっと見つめていて……少女は、頬を赤らめた。
「……ちょっと、触っていいか?」
「だめっ! もういいでしょう!」
と、彼女は怒ったように隠してしまった。
「ご、ごめん……ただ、どうしても信じられなくて……あれだけ酷い状態だったのに、まったく傷跡が残っていないなんて……」
「本当……すごいね、ウィンの『完全回復魔法』……」
「ああ……ただ、これでもうあと生涯で二回しか使えなくなったってぼやいてたけどな……」
「でも、そういう『契約』をしたんでしょう?」
「ああ、その通り。おかげで旅、継続しなくちゃならなくなった……早く店、再開したいのにな……」
青年は、苦笑いしながら呟くようにそう言った。
その顔を、少女は、笑顔で見つめていた。
「……どうした?」
「……髪、伸びたね……顔つきも、ちょっと変わった……カッコ良くなった、かな?」
「……そうか? だったら嬉しいけどな……」
彼は、少女の言葉に、少し照れていた。
窓の外は、雪が激しく降り始めていた。
少女は、窓際へと歩いて行った。青年も、その隣に並んで立った。
「……雪、凄いね……」
「ああ……もう、本格的に冬だからな……」
「……ビックリしちゃった……迷宮に入ったときは初夏だったのに、出て来たら冬だったなんて……」
「……半年経ったからな……」
「うん……私にとっては一瞬だったけど……」
そこで、しばらく沈黙が続いて……そして彼女は、不意に、泣き始めた。
「……ごめんね……みんなに迷惑、かけちゃったね……半年も、時間を奪ってしまって……」
それに対し、青年は、彼女の肩を抱いた。
「いや、大丈夫……俺以外は、みんなそれぞれ、定期的に自分達の帰るべきところに帰っていたし……それに、謝るのは、こっちの方だよ。助けるのに半年もかかってしまった。その間、暗く、冷たい迷宮の中に、一人、閉じ込めていたんだから……」
青年の優しい言葉に、少女は、彼に抱きついた。
「……怖かった……死ぬのが、あんなに怖いと思ったの、初めてだった……どうしてかな……前は、命がけの冒険も、無茶することも……多分、死ぬことも、そんなに怖いとは思わなかったのに……」
「……それが、普通じゃないのか? 死ぬのが怖いって思うのは普通だよ……」
その後も、少女はしばらく、嗚咽を漏らして泣き続けた。
その間、青年は、ずっと彼女の肩を抱いていた。
――少し時間が経って、落ち着いてきた頃……二人はまた、同じベッドに腰掛けた。
「……ごめんね、ちょっと感情、溢れ出ちゃった……じゃあ、さっきの約束通り、教えてくれる? この半年、何があったか……」
「ああ……長くなりそうだな……」
青年と少女……タクヤとユナは、肩を寄せ合って、彼にとっては半年ぶりに、彼女にとっては数日ぶりに、二人だけの、長い夜を過ごすこととなった。
栗色の髪と、同色の瞳をもつ少女は、宿が用意したナイトガウンを纏い、ベッドに腰掛けてくつろいでいた。
ノックする音が聞こえ、彼女はドアを開けた。
すると、そこに色違いのガウンを着た青年が、照れながら入ってきた。
少女は、少し赤く頬を染めて、彼を迎え入れる。
二人は、同じベッドに並んで腰掛けた。
「……太もも、見せてくれないか?」
青年の、いきなりの要求に、少女は
「……それって、どういう意味で? 何かの冗談? それとも、その気になっちゃったの?」
と、笑って返した。
「どっちでもない。心配でしょうがないんだ……本当に、きちんと治ったのか……」
と、真剣な彼の様子に、彼女はため息をついて、ガウンの裾をまくり上げ、その部分を見せた。
白く、美しい大腿部を、彼はじっと見つめていて……少女は、頬を赤らめた。
「……ちょっと、触っていいか?」
「だめっ! もういいでしょう!」
と、彼女は怒ったように隠してしまった。
「ご、ごめん……ただ、どうしても信じられなくて……あれだけ酷い状態だったのに、まったく傷跡が残っていないなんて……」
「本当……すごいね、ウィンの『完全回復魔法』……」
「ああ……ただ、これでもうあと生涯で二回しか使えなくなったってぼやいてたけどな……」
「でも、そういう『契約』をしたんでしょう?」
「ああ、その通り。おかげで旅、継続しなくちゃならなくなった……早く店、再開したいのにな……」
青年は、苦笑いしながら呟くようにそう言った。
その顔を、少女は、笑顔で見つめていた。
「……どうした?」
「……髪、伸びたね……顔つきも、ちょっと変わった……カッコ良くなった、かな?」
「……そうか? だったら嬉しいけどな……」
彼は、少女の言葉に、少し照れていた。
窓の外は、雪が激しく降り始めていた。
少女は、窓際へと歩いて行った。青年も、その隣に並んで立った。
「……雪、凄いね……」
「ああ……もう、本格的に冬だからな……」
「……ビックリしちゃった……迷宮に入ったときは初夏だったのに、出て来たら冬だったなんて……」
「……半年経ったからな……」
「うん……私にとっては一瞬だったけど……」
そこで、しばらく沈黙が続いて……そして彼女は、不意に、泣き始めた。
「……ごめんね……みんなに迷惑、かけちゃったね……半年も、時間を奪ってしまって……」
それに対し、青年は、彼女の肩を抱いた。
「いや、大丈夫……俺以外は、みんなそれぞれ、定期的に自分達の帰るべきところに帰っていたし……それに、謝るのは、こっちの方だよ。助けるのに半年もかかってしまった。その間、暗く、冷たい迷宮の中に、一人、閉じ込めていたんだから……」
青年の優しい言葉に、少女は、彼に抱きついた。
「……怖かった……死ぬのが、あんなに怖いと思ったの、初めてだった……どうしてかな……前は、命がけの冒険も、無茶することも……多分、死ぬことも、そんなに怖いとは思わなかったのに……」
「……それが、普通じゃないのか? 死ぬのが怖いって思うのは普通だよ……」
その後も、少女はしばらく、嗚咽を漏らして泣き続けた。
その間、青年は、ずっと彼女の肩を抱いていた。
――少し時間が経って、落ち着いてきた頃……二人はまた、同じベッドに腰掛けた。
「……ごめんね、ちょっと感情、溢れ出ちゃった……じゃあ、さっきの約束通り、教えてくれる? この半年、何があったか……」
「ああ……長くなりそうだな……」
青年と少女……タクヤとユナは、肩を寄せ合って、彼にとっては半年ぶりに、彼女にとっては数日ぶりに、二人だけの、長い夜を過ごすこととなった。
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