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第42話 アルジャの迷宮
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「アクト、何に気付いたの? 教えて!」
ユナが、彼の表情の変化に気付いてそう問いかけたが、
「いや、まだ早い……皆、明日の予定はどうなっている?」
アクトは、話をそらすようにそう声をかけてきた。
「それは貴方次第だ。姫を助ける手段を知っている、というならば、すぐにでも貴方を馬車に乗せて王都に引き返すことになる」
「……なるほどな……無論、それが一番の理想なのだろうが、さっきも言ったように、あいにくと今の俺にはソフィア姫を助ける術を持たない。けれど、ちょっと確かめたいことができた。今はまだ、何のためにそれを行うのか、言うことができないが……タクヤ、明日、俺に付き合ってくれないか?」
「俺? 内容によるけど……他の皆は?」
「ついて来ても、来なくても、どっちでもいい。俺が確かめたいのは、タクヤの言う糸が、どこを指し示しているのかの見極めだ」
「……そういうことなら、私達も確かめたいわ。別に危険も無いでしょうし、みんなも、いいよね?」
ユナが確認し、他の全員も同意した。
ちょうどそこで、会議室使用終了の時刻のベルが鳴った。
――その夜は、今回の出会いを記念して、ちょっとした会食……要するに、酒場で飲み会を実施した。
アクトは、ユナから事前に聞いていたとおり、普段は飄々としていて、酒の席での冒険話は特に盛り上がり、他の席からも歓声と拍手が起こるほどだった。
この国では十六歳以上は酒を飲むことが許されるので、ミリア以外、飲み、笑い、本当に全員楽しい時間を過ごすことができた。
結果、ユナと俺、ミウ、ユアンが二日酔いとなった。
ジル先生に解毒の魔法をかけて貰い、なんとか治ったのだが。
そして約束通り、朝のうちに馬車に乗り込み、西の方角に向けて出発。
遺跡群の存在する場所は広範囲に広がっているのだが、今回、あえて目的場所は伏せる、ということだった。
途中で街道は西から北西、そして北へと変化していった。
所々で馬車を止め、運命の糸が伸びている方向を確認。
この糸は、距離を調べることはできないので、複数の場所から方角を調べ、その交点を目的の場所とする意図は明白だった。
合計、五時間にも及ぶ調査の結果、遂に糸の指し示す位置が判明。
そしてそれは、どうやらアクトが「心当たりがある」と言っていた場所と一致するようだった。
日が傾き始めた頃、街道脇に馬車を停止させ、ようやく彼はその「心当たり」について語ってくれた。
「アルジャの迷宮……そう呼ばれている遺跡がある。実はこの遺跡、本当はずっと以前から存在していた踏破済み古代迷宮を、約二百年ほど前にある宝物を隠すために再度利用されたと言われている。その時代は復活した古代魔法の全盛期……強力な魔道具がいくつも作成された時期、そういう遺跡は決して珍しくない」
「うん、なんかそんな話、聞いた事があるような気がする……その古代魔法の氾濫を恐れた当時の国王が、禁呪を定め、その多くを遺跡群に封印して、首都をセントラル・バナンに移転したんでしょう? それにアルジャって、あの暴君アルジャと関係があるの?」
ユナも、おそらくは貴族として過ごしていた時代にその辺りの歴史は習っていたのだろう。少なくとも、俺は知らない話だ。
「その通りだ。わずか五年ほどしか在位しなかった王だが、その強烈な印象で、今も悪役として歴史に名を残す。彼は、気に入らない者を次々と『石』に変えた」
「うん、そうらしいね……でも、石化魔法って相当高度な古代魔法だし、できたとしても、『石のように』筋肉を堅く硬直させるようなものだと思っているけど……」
「そうではない。彼は本当に、全身の組織……髪の毛や血液、それどころか身に纏う衣服までをも、石に変えた……そういう一種の、『呪い』だったのだ」
「呪い……そんな強力な魔法、彼は本当に使えたの?」
「いや、正確に言えばアルジャが使えた訳では無い。彼が『呪怨の黒杖』を持っていたからだ。その黒杖が、彼が暗殺された後に封印されたのが、アルジャの迷宮と言われている」
「……じゃあ、やっぱり暴君アルジャの伝説って、本当だったのね……」
「そうだ……そして黒杖を作ったのは、当時の……いや、歴史上最も偉大と言われる闇の魔術付与技師、ヴァルトスだ。彼は、黒杖と対を成す、あらゆる呪いを開放する究極の逸品、『解呪の白杖』と呼ばれるものも同時に作成していた。そしてアルジャの死後、次の国王は、それを用いて石に変えられた者を元に戻していった……この杖も、同じくアルジャの迷宮に封印されたと言われている」
「へえ……そうなんだ……そっか、呪いの道具と、それを解く道具を、同時に作っていたんだ……ソフィアにかけられた呪いと、よく似ているね」
「その通りだ。逆に言うと、解呪の方法があるからこそ、様々な脅迫に利用できる……おそらく、ソフィア姫に使われたのも、同一人物……つまりヴァルトスが作成した呪札だろう」
と、ここまでユナとアクトのやりとりを聞いていた俺だが、ある言葉が引っかかっていた。
「ちょっと待った……今、白杖は『あらゆる呪いを開放』と言わなかったか?」
「……そういえば……ああっ!」
ユナは目を見開き、両手を口元に当てて、驚きの声を上げた。
「『呪怨の黒杖』と『解呪の白杖』は、ヴァルトスの最高傑作だ……黒杖は歴史上最も忌まわしい兵器、そして白杖はそれを含む、あらゆる呪いを無効にする究極の解呪魔導具……おそらくソフィア姫の呪いも、解くことができる」
「……それだっ!」
俺は大声を上げた。
ユナが、彼の表情の変化に気付いてそう問いかけたが、
「いや、まだ早い……皆、明日の予定はどうなっている?」
アクトは、話をそらすようにそう声をかけてきた。
「それは貴方次第だ。姫を助ける手段を知っている、というならば、すぐにでも貴方を馬車に乗せて王都に引き返すことになる」
「……なるほどな……無論、それが一番の理想なのだろうが、さっきも言ったように、あいにくと今の俺にはソフィア姫を助ける術を持たない。けれど、ちょっと確かめたいことができた。今はまだ、何のためにそれを行うのか、言うことができないが……タクヤ、明日、俺に付き合ってくれないか?」
「俺? 内容によるけど……他の皆は?」
「ついて来ても、来なくても、どっちでもいい。俺が確かめたいのは、タクヤの言う糸が、どこを指し示しているのかの見極めだ」
「……そういうことなら、私達も確かめたいわ。別に危険も無いでしょうし、みんなも、いいよね?」
ユナが確認し、他の全員も同意した。
ちょうどそこで、会議室使用終了の時刻のベルが鳴った。
――その夜は、今回の出会いを記念して、ちょっとした会食……要するに、酒場で飲み会を実施した。
アクトは、ユナから事前に聞いていたとおり、普段は飄々としていて、酒の席での冒険話は特に盛り上がり、他の席からも歓声と拍手が起こるほどだった。
この国では十六歳以上は酒を飲むことが許されるので、ミリア以外、飲み、笑い、本当に全員楽しい時間を過ごすことができた。
結果、ユナと俺、ミウ、ユアンが二日酔いとなった。
ジル先生に解毒の魔法をかけて貰い、なんとか治ったのだが。
そして約束通り、朝のうちに馬車に乗り込み、西の方角に向けて出発。
遺跡群の存在する場所は広範囲に広がっているのだが、今回、あえて目的場所は伏せる、ということだった。
途中で街道は西から北西、そして北へと変化していった。
所々で馬車を止め、運命の糸が伸びている方向を確認。
この糸は、距離を調べることはできないので、複数の場所から方角を調べ、その交点を目的の場所とする意図は明白だった。
合計、五時間にも及ぶ調査の結果、遂に糸の指し示す位置が判明。
そしてそれは、どうやらアクトが「心当たりがある」と言っていた場所と一致するようだった。
日が傾き始めた頃、街道脇に馬車を停止させ、ようやく彼はその「心当たり」について語ってくれた。
「アルジャの迷宮……そう呼ばれている遺跡がある。実はこの遺跡、本当はずっと以前から存在していた踏破済み古代迷宮を、約二百年ほど前にある宝物を隠すために再度利用されたと言われている。その時代は復活した古代魔法の全盛期……強力な魔道具がいくつも作成された時期、そういう遺跡は決して珍しくない」
「うん、なんかそんな話、聞いた事があるような気がする……その古代魔法の氾濫を恐れた当時の国王が、禁呪を定め、その多くを遺跡群に封印して、首都をセントラル・バナンに移転したんでしょう? それにアルジャって、あの暴君アルジャと関係があるの?」
ユナも、おそらくは貴族として過ごしていた時代にその辺りの歴史は習っていたのだろう。少なくとも、俺は知らない話だ。
「その通りだ。わずか五年ほどしか在位しなかった王だが、その強烈な印象で、今も悪役として歴史に名を残す。彼は、気に入らない者を次々と『石』に変えた」
「うん、そうらしいね……でも、石化魔法って相当高度な古代魔法だし、できたとしても、『石のように』筋肉を堅く硬直させるようなものだと思っているけど……」
「そうではない。彼は本当に、全身の組織……髪の毛や血液、それどころか身に纏う衣服までをも、石に変えた……そういう一種の、『呪い』だったのだ」
「呪い……そんな強力な魔法、彼は本当に使えたの?」
「いや、正確に言えばアルジャが使えた訳では無い。彼が『呪怨の黒杖』を持っていたからだ。その黒杖が、彼が暗殺された後に封印されたのが、アルジャの迷宮と言われている」
「……じゃあ、やっぱり暴君アルジャの伝説って、本当だったのね……」
「そうだ……そして黒杖を作ったのは、当時の……いや、歴史上最も偉大と言われる闇の魔術付与技師、ヴァルトスだ。彼は、黒杖と対を成す、あらゆる呪いを開放する究極の逸品、『解呪の白杖』と呼ばれるものも同時に作成していた。そしてアルジャの死後、次の国王は、それを用いて石に変えられた者を元に戻していった……この杖も、同じくアルジャの迷宮に封印されたと言われている」
「へえ……そうなんだ……そっか、呪いの道具と、それを解く道具を、同時に作っていたんだ……ソフィアにかけられた呪いと、よく似ているね」
「その通りだ。逆に言うと、解呪の方法があるからこそ、様々な脅迫に利用できる……おそらく、ソフィア姫に使われたのも、同一人物……つまりヴァルトスが作成した呪札だろう」
と、ここまでユナとアクトのやりとりを聞いていた俺だが、ある言葉が引っかかっていた。
「ちょっと待った……今、白杖は『あらゆる呪いを開放』と言わなかったか?」
「……そういえば……ああっ!」
ユナは目を見開き、両手を口元に当てて、驚きの声を上げた。
「『呪怨の黒杖』と『解呪の白杖』は、ヴァルトスの最高傑作だ……黒杖は歴史上最も忌まわしい兵器、そして白杖はそれを含む、あらゆる呪いを無効にする究極の解呪魔導具……おそらくソフィア姫の呪いも、解くことができる」
「……それだっ!」
俺は大声を上げた。
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