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第40話 アクテリオス

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 古都キエント……二百年ほど前に王都がセントラル・バナンに移転される前までは、千年以上の間、ここが国家の中心だった。

 現在でも歴史的な建造物が建ち並び、観光客が数多く訪れる。
 宗教的な色合いも根強く残り、聖地として巡礼者の訪問も絶えない。

 また、『十メル掘れば、遺跡に当たる』と言われるほど、積み重ねられた歴史の重厚さが際だった都市でもある。

 現在でも経済活動は盛んで、人口は二十五万人を誇る。
 また、古代~遷都前の大型遺跡群がこの都市の西側に点在し、いまだ未踏破の古代迷宮も存在するということで、冒険者にとっては一攫千金が狙える、憧れの地だ。

 ややアクセスが不便で、近年では周辺の街道に盗賊が出現することもあって、その意味でも中級以上のライセンスを持つハンターにとっては、護衛の仕事に困らない利点となっている。

 王都を出発して三日目の夕方、ようやくこの地に辿り着いた。

 長かった。

 途中で道が荒れた箇所があり、そこでは馬車の乗り心地も悪く、ひたすら疲れた。
 景色は変わるものの、その多くが山中のため、代わり映えがせず、飽きてしまった。

 変わったことと言えば、初日に盗賊? らしき集団が現れたようで、その姿を見る前にミリアが威嚇魔法で追い払ったのだが……その後、二回ほど彼女の『広域詳細探知魔法』に引っかかり、同じメンバーだということだった。

 一定距離以上、近づいても来なかったのだが……どうも、後を付けられているようだった。
 盗賊がそんなことをするだろうか……と疑問に思いながらも、途中の宿場町でも特に変わったことはなく、無事にキエントまで来られたのだった。

 もう日が沈みかけていたので、急いで宿の手配をして(この日は混んでいたため、男女別の大部屋しか空いておらず、そこを借りた)、そしてアクトを探す手掛かりを得るため、冒険者ギルドへと向かった。

 ここのギルドは大きい。
 受付だけでも十人以上存在し、それぞれに対して行列ができるほどだ。
 今回、並んでいるのは俺達の中では、ライセンスを持つ俺とユナだけだ。

 十分ほどかかって、ようやく係員に辿り着いたのだが、ユナがカードを提出したところ、

「星四つ!?」

 と、受付の彼は驚きを含んだ大声を上げ、みんなから注目を集めていた。

「ユナだ……」
「あの魔導剣士の……星四つ……」

 そんなざわめきが聞こえてくる。やっぱり、凄いんだ……。
 ドラゴンスレイヤー、とかっていう声も聞こえてくる。
 あと、

「……誰だ、隣にいる奴……」

 という、ちょっと妬みがこもったような言葉も耳に入ってきて、なんか居心地が悪い……。

 今回の彼女がギルドに依頼する内容は、タクトに対する伝言だ。
 自分がこの街に来ていること、毎日朝と夕方にこのギルドの休憩所で待っているから会いたいという旨を残しておこうとしたのだが……。

「俺を捜しているんだったら、伝言登録の必要なんてない」

 という渋い声が聞こえて、振り返ると……そこに、居た。
 歳は二十代後半に見え、髪は男性にしては長く、少しヒゲを生やしている。
 背は高く、目は鋭い。
 俺が占いで見た通りの容姿だ。

 「アクト! うそ、どうしてここにいるの!?」

 ……あっさり探し人が見つかった。

「いや、ちょっとな……彼が、彼氏か?」

「なっ……ち、違うわよ、なんていうか、パートナーというか、仲間? ほら、あそこにも仲間がいるの!」

 ユナが少し頬を赤くしながら、一箇所に固まっているジル先生、ミウ、ユアン、ミリアを指差した。

「……なるほど、彼等か……じゃあ、挨拶しにいくとするか……」

 俺達は受付に伝言をキャンセルして、その代わりに空いている会議室を借りるように申請し、待っているみんなの方へと歩いていく。

 周囲の注目を浴びているのが分かる。 

「……あれは……レンジャーのアクトだ……ユナと一緒だ……」
「……他にも誰か居るぞ……何があるんだ……」

 さらにざわついてるのを感じた。
 彼もまた、名うてのレンジャーとして名が知られている存在だ。
 この時点でもう、目立ってしまっているような気がする……。

 そして七人揃ったところで、案内役の係員についていき、会議室へと通された。
 ここ、三十分で二万ウェンと、結構な金額を取られるのだが、大きな机と椅子十脚、黒板まで用意され、しかも完全防音と、重要な話をするにはもってこいの場所だ。

 ここでアクトが、自分の名前と職業 (レンジャー)、ユナとは以前、一緒にパーティーメンバーとして狩りを行ったことを紹介した。
 俺達も自己紹介しようとしたのだが、

「大体、知っている……君がタクヤ、占術師だ。そしてジル先生、治癒術師。剣士のユアン、氷結系魔術師のミウ、そして魔法少女ミリア……どうだ、合っているか?」

 彼は一人一人指差しながら、楽しむように笑みを浮かべ、ほぼ正確に名前と職業ジョブを言い当てた。
 最後の『魔法少女』だけは微妙だが……。

「ど、どうしてわかったんですか!?」

 ユアンが驚いてそう質問した。

「正解だったか……どうだ、おれの『予知能力』も馬鹿にできないだろう?」

 ぞくん、と鳥肌が立つ思いだった。
 すごい、ここまで完璧に当てるなんて、デルモベート老公以上じゃないか!

「……アクト、指輪光りまくっているんだけど……」

 と、ユナが呆れたようにツッコミを入れる。

「……はははっ、バレたか……おまえ、厄介なアイテム持ってたんだったな……実はおととい、親父から伝書便がギルドに届いていたのさ。ユナと今言ったメンバーが、今日の夕方頃、俺を訪ねて来るってな。でも、書かれていた職業と名前だけでメンバーを言い当てたんだ、十分凄いだろう?」

 伝書便とは、伝書鳩を使った連絡方法で、普通の郵便よりずっと早く相手に届く。
 確実性にはやや劣るが、急ぎの時には有効な通信手段だ。

 アクトが言う親父とは、育ての親である騎士のことだろう。おそらく、俺達を一日でも早く出会わせるために、事前に手を打っていたのだ。

 みんな、なあんだ、という安堵感と、彼の陽気な人柄にほっとしている様子だ。
 しかし、ここで彼は表情を引き締めた。

「……それで、一体どういう用件なんだ……めずらしく親父から、伝書便が……それも同じ内容で三通も届き、そこには、このメンバーが俺を訪ねて来る、としか書かれていなかった。これほどのメンバーが来るのにもかかわらず、その肝心の中身が書かれていない。それがかえって、他人に内容を知られてはまずいことを意味しているのが分かる……一体、何があった?」

 名うてのレンジャー、上級冒険者、アクト。
 前国王の長女であるファナ姫の息子、アクテリオス。

 真剣になった彼の瞳が鋭く光り、場は一気に緊張したものとなった。
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