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第31話 隠された真実
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「私と違って、姉のファナは何事においても積極的でした。そして本気で王族を離れ、騎士ラルクを探す旅に出るつもりでした……でも、事前の健康診断で妊娠が発覚し……その旅は、直属の騎士が行う事となりました」
姫様自ら恋人を探す旅の方がストーリー的には面白いのかもしれないが、実際はおとぎ話のようにはいかない、ということなのだろう。
「……そして騎士ラルクを探す旅は、伝説で語られているものよりもずっと地道なものだったようです。同じ点は、なかなか彼が見つからなかったということだけ……やがて、ラルクを探している王族直属の騎士がいる、という噂だけが広まり、お腹が大きくなり始めたファナが公に姿を現さなかったこともあって、その当時から、姫様がお忍びで彼を捜す旅に出たのだと言い伝えられるようになりました」
……今、我々が知っている伝説の、真実の姿か明らかにされている。
これはおそらく、ごく一部の人間しか知らない事実であり、そして俺達も決して他に漏らしてはならない類のもの……そんな緊張感が、この部屋全体を満たし始めていた。
「そして姉・ファナが臨月を迎えようとする頃になって、ようやく騎士ラルクの所在が明らかになりました……そしてそれは、悲劇的なものでした」
王妃様の悲壮な表情と言葉に、ぞくん、と鳥肌が立った。
「彼は、病で命を落としていたのです」
ユナもミウも、それを聞いて、両手で口元を押さえた。
小さい頃から、英雄として語り継がれてきた騎士、ラルク。
彼を追って王家を離れた姫と共に、今も何処かで幸せに暮らしている……多くの民と同様、彼女たちもそう信じていたはずだ。
しかし、真実は非情で……彼の子を身籠もり、再会を楽しみにしていたファナ王女を残し、彼はすでに死んでいたのだ。
「……ラルクが最後に立ち寄ったのは、自分の故郷である小さな漁村でした。そこで彼の妹と二ヶ月ほど一緒に暮らしていましたが、以前より煩っていた病……おそらく癌により、亡くなったとのことでした。彼は日記を残していました。そこには、ファナに対する思慕の念が、幾重にも書かれていたということでした……」
涙声でそう話す王妃様の姿に、ユナもミウも既に目を真っ赤に腫らしており……俺ですら、涙ぐみそうになっていた。
「……おそらく、彼は自分の死期を悟っていたのだと思います。助からない命……それが分かっていたからこそ、あのアークジャイアントに対して、無謀な挑戦をすることができたのでしょう……実際は伝説のような見事な戦いぶりではなく、ただ無我夢中で、死にものぐるいで戦って、偶然も重なってやっと勝てたのだ……彼の日記にはそう書かれていました。……そして姉の使者達は悲観に暮れながら城に帰り……ファナに本当の事が言えるはずもなく、未だ捜索中であると報告をしました」
それはそうだろう……もうすぐ子供が生まれるというのに、その父親は死んでいました、などと言えるわけがない。
「しかし……その嘘は、ファナには通用しませんでした……なぜなら、彼女は王族であり、十三歳を迎えると渡されるしきたりとなってる、相手の嘘を暴く『真偽判定の指輪』を持っていたからです」
王妃様のその言葉に、ユナは小さく、「あっ……」と声を漏らした。
そして震えながら、左手の人差し指に光る指輪を差し出した。
「……いいのよ、ユナちゃん。その指輪、ソフィアからもらったのでしょう? これも何かのご縁……それは、貴方が持っていて……」
王妃様が優しくそう語りかけ、ユナは戸惑いながらも、コクンと頷いた。
この指輪……価値のある逸品だとは思っていたが、王族のものだったのか……。
「……そして遂に、ファナはラルクの死を知ってしまいました……彼女が絶望に陥ったのは言うまでもありません……精神的に大きな傷を追った彼女は、数日後の出産に耐えきれず、彼女もまた、命を落としてしまったのです……」
「……そんな……そんなことって……」
ユナは、今度は声に出して泣き始めてしまった。
ミウも、ユアンにしがみついて、大粒の涙をこぼしていた。
「生まれてきた男の子も、瀕死の状態でした……しかし、集められていた医師や治癒術師の懸命の努力と、彼自身の生命力により、なんとか一命を取り留めたのです。……この事実は、公には公表されていません。騎士ラルクと、王女ファナは、既に伝説になっていました。私の父である前国王が、せめて愛し合った二人を、物語の中で幸せに、永遠に生きながらえさせてあげたいと考えての事だったのです……ですから、どうか皆様、今私が話したことは口外しないよう、よろしくお願いいたします……」
「……もちろんです、王妃様……そしてこの真実を、私どもに話していただけたということは、その生まれてきた男の子が……」
オルド公が、気を遣いながらも核心部分に触れた。
「そうです……その時点では、姉は王家を出ておらず、第一位の王位継承権を持っていました。その息子なのですから、姉が亡くなった時点で、本来はその男の子に第一継承権が譲られているはずでした。しかし、姉は結婚しておらず……彼は父も母も失った状態でした。この国にとって、最高位の権力を受け継ぐ資格を持ち、にもかかわらず不幸な生い立ちとなってしまった赤子……父や親族が会議を重ねた結果、彼は子供のいない騎士の夫婦に預けられ、十五歳になるまでその身分を知らずに育つことになりました。――そう、彼の名はアクテリオス。姉の遺言により、つけられた名前です……」
王妃様の話を、最後まで聞かずとも予期できた結末だった。
しかし、改めて真実を聞かされると、動揺を隠すことができなかった。
「……なんという占いの結果だ……今、ここに眠り続ける我が娘・ソフィアの、最も幸せになれる結婚相手……それが、この娘の従兄弟にあたり、そして伝説の騎士の息子でもある、アクテリオスだとは……これも神のお導きか……」
国王陛下が、驚嘆の言葉を発せられた。
この国では、従兄弟同士の結婚は認められている。
「にわかには信じられません……しかし、この青年……タクヤ殿は、二百人以上占って、一人たりとも外したことはないということです……」
イケメン青年のジフラールさんも、初めて見せる驚愕の表情だった。
まあ、確かに彼の言うとおり、相手が見えなかった事は二回あるが、外したことはない。
「……だから儂は言ったであろう? 相当えげつない能力の持ち主だろう、と……タクヤ殿、貴殿は今……この国の歴史を動かすほどの大占術を展開されたのですぞ……」
デルモベート老公ですら、興奮した様子でそう語った。
あまりに大事となってしまったことに、俺自身、魂が震えるような思いだった。
姫様自ら恋人を探す旅の方がストーリー的には面白いのかもしれないが、実際はおとぎ話のようにはいかない、ということなのだろう。
「……そして騎士ラルクを探す旅は、伝説で語られているものよりもずっと地道なものだったようです。同じ点は、なかなか彼が見つからなかったということだけ……やがて、ラルクを探している王族直属の騎士がいる、という噂だけが広まり、お腹が大きくなり始めたファナが公に姿を現さなかったこともあって、その当時から、姫様がお忍びで彼を捜す旅に出たのだと言い伝えられるようになりました」
……今、我々が知っている伝説の、真実の姿か明らかにされている。
これはおそらく、ごく一部の人間しか知らない事実であり、そして俺達も決して他に漏らしてはならない類のもの……そんな緊張感が、この部屋全体を満たし始めていた。
「そして姉・ファナが臨月を迎えようとする頃になって、ようやく騎士ラルクの所在が明らかになりました……そしてそれは、悲劇的なものでした」
王妃様の悲壮な表情と言葉に、ぞくん、と鳥肌が立った。
「彼は、病で命を落としていたのです」
ユナもミウも、それを聞いて、両手で口元を押さえた。
小さい頃から、英雄として語り継がれてきた騎士、ラルク。
彼を追って王家を離れた姫と共に、今も何処かで幸せに暮らしている……多くの民と同様、彼女たちもそう信じていたはずだ。
しかし、真実は非情で……彼の子を身籠もり、再会を楽しみにしていたファナ王女を残し、彼はすでに死んでいたのだ。
「……ラルクが最後に立ち寄ったのは、自分の故郷である小さな漁村でした。そこで彼の妹と二ヶ月ほど一緒に暮らしていましたが、以前より煩っていた病……おそらく癌により、亡くなったとのことでした。彼は日記を残していました。そこには、ファナに対する思慕の念が、幾重にも書かれていたということでした……」
涙声でそう話す王妃様の姿に、ユナもミウも既に目を真っ赤に腫らしており……俺ですら、涙ぐみそうになっていた。
「……おそらく、彼は自分の死期を悟っていたのだと思います。助からない命……それが分かっていたからこそ、あのアークジャイアントに対して、無謀な挑戦をすることができたのでしょう……実際は伝説のような見事な戦いぶりではなく、ただ無我夢中で、死にものぐるいで戦って、偶然も重なってやっと勝てたのだ……彼の日記にはそう書かれていました。……そして姉の使者達は悲観に暮れながら城に帰り……ファナに本当の事が言えるはずもなく、未だ捜索中であると報告をしました」
それはそうだろう……もうすぐ子供が生まれるというのに、その父親は死んでいました、などと言えるわけがない。
「しかし……その嘘は、ファナには通用しませんでした……なぜなら、彼女は王族であり、十三歳を迎えると渡されるしきたりとなってる、相手の嘘を暴く『真偽判定の指輪』を持っていたからです」
王妃様のその言葉に、ユナは小さく、「あっ……」と声を漏らした。
そして震えながら、左手の人差し指に光る指輪を差し出した。
「……いいのよ、ユナちゃん。その指輪、ソフィアからもらったのでしょう? これも何かのご縁……それは、貴方が持っていて……」
王妃様が優しくそう語りかけ、ユナは戸惑いながらも、コクンと頷いた。
この指輪……価値のある逸品だとは思っていたが、王族のものだったのか……。
「……そして遂に、ファナはラルクの死を知ってしまいました……彼女が絶望に陥ったのは言うまでもありません……精神的に大きな傷を追った彼女は、数日後の出産に耐えきれず、彼女もまた、命を落としてしまったのです……」
「……そんな……そんなことって……」
ユナは、今度は声に出して泣き始めてしまった。
ミウも、ユアンにしがみついて、大粒の涙をこぼしていた。
「生まれてきた男の子も、瀕死の状態でした……しかし、集められていた医師や治癒術師の懸命の努力と、彼自身の生命力により、なんとか一命を取り留めたのです。……この事実は、公には公表されていません。騎士ラルクと、王女ファナは、既に伝説になっていました。私の父である前国王が、せめて愛し合った二人を、物語の中で幸せに、永遠に生きながらえさせてあげたいと考えての事だったのです……ですから、どうか皆様、今私が話したことは口外しないよう、よろしくお願いいたします……」
「……もちろんです、王妃様……そしてこの真実を、私どもに話していただけたということは、その生まれてきた男の子が……」
オルド公が、気を遣いながらも核心部分に触れた。
「そうです……その時点では、姉は王家を出ておらず、第一位の王位継承権を持っていました。その息子なのですから、姉が亡くなった時点で、本来はその男の子に第一継承権が譲られているはずでした。しかし、姉は結婚しておらず……彼は父も母も失った状態でした。この国にとって、最高位の権力を受け継ぐ資格を持ち、にもかかわらず不幸な生い立ちとなってしまった赤子……父や親族が会議を重ねた結果、彼は子供のいない騎士の夫婦に預けられ、十五歳になるまでその身分を知らずに育つことになりました。――そう、彼の名はアクテリオス。姉の遺言により、つけられた名前です……」
王妃様の話を、最後まで聞かずとも予期できた結末だった。
しかし、改めて真実を聞かされると、動揺を隠すことができなかった。
「……なんという占いの結果だ……今、ここに眠り続ける我が娘・ソフィアの、最も幸せになれる結婚相手……それが、この娘の従兄弟にあたり、そして伝説の騎士の息子でもある、アクテリオスだとは……これも神のお導きか……」
国王陛下が、驚嘆の言葉を発せられた。
この国では、従兄弟同士の結婚は認められている。
「にわかには信じられません……しかし、この青年……タクヤ殿は、二百人以上占って、一人たりとも外したことはないということです……」
イケメン青年のジフラールさんも、初めて見せる驚愕の表情だった。
まあ、確かに彼の言うとおり、相手が見えなかった事は二回あるが、外したことはない。
「……だから儂は言ったであろう? 相当えげつない能力の持ち主だろう、と……タクヤ殿、貴殿は今……この国の歴史を動かすほどの大占術を展開されたのですぞ……」
デルモベート老公ですら、興奮した様子でそう語った。
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