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第24話 目的地

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 今、俺とユナは、一つの大きなベットで一緒に寝ている。

 サウスバブルから王都に向けての小型船内、部屋割りが同じになったからだ。
 ちなみに、オルド公とジル先生は同室だが、こちらは小さなベットが二つの部屋だ。

 また、婚約者となったミウとユアンも俺達と同じく、大きなベットが一つだけの部屋だった。つまり、二人一緒に寝ているはずで……父親も同船しているのだから、ユアンは彼女に手を出したりはしないだろうが、それでも、おそらく二人っきりで初めて過ごす夜、どんな様子なのだろうか……。

 しかし、それを深く考えている余裕は、俺にはなかった。
 ユナが隣で寝ているのが気になっているからではない。
 山育ちで船にほとんど乗ったことのない俺、船酔いで酷い状態になっていたからだ。

 就寝前の歓談で食事も食べられず、大人二人から勧められた酒も飲めず。
 ミウとユアンは平気そうだったのに、この違いは何なのだろうか。

「変なことされそうになったら魔法で吹き飛ばして海に落とす」

 と言っていたユナも、拍子抜けというか、ちょっと呆れているようでもあった。
 そして、あまりに苦しそうにしている俺を見かねたのか、

「……魔法、かけてあげようか?」

 と聞いて来たので、

「船酔いを治す魔法があるのか?」

 と聞き返したところ、

「ううん、『催眠』の魔法で寝てもらうだけ」

 とのことだったので、少しでも楽になりたかった俺は、それをお願いした。
 効果はてきめん、ものの数秒で眠りに落ちてしまった。

 ……何時間寝ただろうか。
 部屋のランタンは消されていたが、夜明けが近いのか、うっすらと光りが差し込んでいる。

 眠ったこともあって船酔いはすっかり解消、爽快な気分で寝返りを打つと、すぐ目の前にユナの美しい寝顔があり、ドクンと鼓動が跳ね上がった。

 寝ているのだから当たり前だが、なんの警戒心も無い様子だ。
 服装は、上は眠りにつく前に来ていた上着を脱いでおり、シャツ一枚。
 下は……スカートを履いているだろうけど、そうでなければ、ひょっとしたら下着だけ?
 それを確かめる勇気は、俺にはない。
 ただ、ドクドクと心臓が早鐘を打つのを感じて、いけない、落ち着け、と自分をなだめる。

「……ぅん……」

 と、ユナがなにか寝言? を呟いた。
 その声と、幸せそうな寝顔を見ていると……不思議と、落ち着いてきた。

 ユナは、俺を信頼してくれている。
 そうでなければ、こうやって同じベッドで、しかもこんな軽装で一緒に寝てくれているはずがないのだ。

 それにしても……かわいい。
 女性としての美しさと、子猫が寝ているような愛らしさが混ざっているような感じだ。
 なんていうか、見ていて飽きなくて、幸せな気分になってくる。

 そのまま、しばらくじっと見つめていると……不意に、彼女の目が開いた。
 あっ、と思ったが、今更目を逸らしたり、寝たふりをするのも不自然なので、そのまま見つめていると……しばらく眠そうに、半分だけ開いていた彼女の目が、突然、がっと大きく見開かれ、

「な……何!?」

 と叫んで、彼女はがばっと起き上がった。

 ……よかった、スカートは履いてたみたいだ。
 キョロキョロと辺りを見回して、ゆっくりと視線を下ろすユナ。
 ちょっと照れたような笑顔になった。

「……そっか、一緒に寝てたんだったね……船酔い、治った?」

「おかげさまで」

「……私が寝てるとき、変なことしてないでしょうね?」

「残念ながら、なんにもしてないよ」

 俺が正直にそう言うと、彼女は指輪が光っていないのを確認して、

「……うん、残念……」

 と、苦笑いしながら言った……ま、本音じゃ無いだろう。

「……まだ、朝早いみたいね……みんな起きてないかな?」

「さあ、どうだろう……どのみち、俺はすることが無いし、また船酔いになったら嫌だから、このまま寝るけど」

「……じゃあ、私も寝る!」

 そう言って、はねのけた掛け布団をかぶって、俺とユナは一つのベットに潜り込む形になった。

「……一応言っておくけど、変な事、しないでね」

「さっき、残念って言ってなかったっけ?」

「だって、してたんだったら、魔法で吹っ飛ばせたでしょう?」

「……危なかった……」

「え? そうなの?」

 なんか、そんな冗談を言い合うのが楽しかったが……すぐに睡魔が襲ってきて、俺もユナも、眠ってしまった。

 次に目が覚めたとき、ユナの姿はベッドに無かった。
 かなり明るくなっており……完全に夜が明けているようだった。
 俺はシャツとズボンのまま、部屋から出た。
 
 外は日が大分高くなっており、雲一つ無い快晴で、気持ちが良かった。

 上着を着たユナと、オルド公、ジル先生が、甲板で一緒に話をしていた。
 ミウとユアンは、多分昨日遅くまで寝られなくて、その分、今もまだ寝ているんだろう。

 彼等に「おはようございます」と挨拶をすると、全員、挨拶を返してくれた後、前方を指差した。

 遠くに陸地が見える。
 この距離からでも、白い建物が密集しているのが分かる。

 当初俺が考えていたよりも、ずっと早く目的地に着いたようだ。
 貴族が客ということで、雇った操縦士が上質の魔核を燃料として、徹夜で操船してくれたらしい。

 王都セントラル・バナン、人口百万を超える大都市。
 新たな出会いの舞台であり、そして冒険の始まりの地だった。
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