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第23話 船出

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 サウスバブルは港街であり、交易の拠点でもある。

 海の近くはそれなりに発展しており、人通りも多くそこそこ賑やかだ。
 しかし、王都の賑わいはこんなものではないのだと、ユナは言う。
 彼女は十六歳にして、すでに様々な地域を旅し、経験を積んでいるんだな、と実感させられた。

 もし俺が、この地で生まれてきた人間だったとしても、これほどの冒険はしていなかっただろう。彼女は、特別な存在なのだ。

 そしてそれを証明する出来事が、この町の冒険者ギルドで起こった。
 朝方で、それほど混み合っていなかった時間帯だったのだが、ユナが扉を開けて入った瞬間、フロアにいた十人ほどの視線が一斉に彼女に集まった。
 何事か、と身構えていると、

「ユナさん、昇級おめでとうございます!」

 と職員(若い男性)が祝福……いや、尊敬の眼差しで彼女を見つめながらそう声を張り上げると、他の職員や冒険者から一斉に拍手が湧き起こった。

 真竜を倒した実績により、星三つの上級冒険者から、星四つ、超級ハンターへランクアップしたのだ。
 目安として、星一つランクが上がることに十分の一に人数が減るという。
 つまり、ユナは千人に一人の冒険者となったわけだ。

 四つ星冒険者の誕生は、サウスバブル史上初だ。
 また、国家全体で見たとしても、史上最年少レコードなのだという。
 三つ星時代から、少なくともこのサウスバブルの町では有名人だった彼女、盛大な拍手に照れながらも、ありがとう、と礼を言っていた。

 ユナって、人気あるんだな……まあ、元々数の少ない女性冒険者で、結構美少女だし、その上で実力も伴っているとなれば当然か。
 なんか、一緒に入ってきた俺は肩身の狭い思いだったが……その俺も、

「タクヤさん、おめでとうございます! 二つ星ハンターへ昇級しました! そして、『ドラゴンスレイヤー』称号付与、国内最短記録です!」

 と、拍手で祝福され……へ? という感じになってしまった。
 ドラゴンを倒した、と言っても、単にその時の戦闘に参加していただけでは記録とならない。
 しかし、今回俺は結構なダメージを与えており、真竜の『魔核』がそのことを覚えていたらしく、討伐者と認められたのだ。

 しかも、ハンターライセンスを取得してからわずか数日。これが意外にも、大記録らしい。
 ちなみに、ユアンとミウは冒険者登録こそしていないが、ドラゴンスレイヤーの称号は与えられるという。
 十六歳のミウの方は最年少記録。こっちの方が凄いと思う。
 ちなみに、同じ十六歳でも誕生日が少しだけ早いユナが第二位となるらしい。

 そして俺とユナには、合わせて懸賞金二千万ウェンが贈られた。
 こうしてみると、改めてドラゴン討伐って偉業なんだな、と実感した。
 ちなみに、次期領主であるユアンとその婚約者のミウは、賞金をかける側なので、受け取ることはないのだという。

 とりあえず、この賞金は二人で山分けにしよう、とユナが言ったので、実力でははるかに劣る俺だったが、その提案をありがたく受け入れたのだった。

 そしてそんな大金持ち歩くのは危ないと思ったので、ギルドに預けておいて、旅の軍資金として一人百万ウェン(金貨十枚)ずつ、持って行くことにした。
 ギルドを出たところで医師のジル先生と合流。
 俺達が真竜を倒したという情報を入手していたようで、

「これで安全にホシクズダケが手に入るようになった」

 と、そのことを喜び、握手して感謝と祝福の声をかけられた。

 しばらく待っていると、豪華な馬車が到着。
 オルド・エンボス公、ユアン、ミウの三人が降りてきて、これで今回王都を目指すメンバー全員が揃った。

 オルドさんは王都行きの小型船を借りるため、執事の人とその手続きで残り、しばらく俺とユナ、ユアン、ミウ、ジル先生の五人で港街を散策することにした。
 ユアンとミウは、海を見るのが初めてなのだという。

 なんでも、貴族は領主以外、あんまり出かけることがないらしい。
 もちろん、その召使いもだ。
 特にミウは好奇心旺盛で、屋台を指差して

「あんなところにお店があります! なにか食べ物を売っているみたい、美味しそうな匂いです!」

 とか、カモメを指差して

「見たことともない鳥が飛んでいます! 空中に止まっているみたいです!」

 とか、子供の様にはしゃいでいた。
 彼女、もう少し大人しいかと思っていたが、それは母親の前だけのようで、実際は明るく、それでいて俺達にまで敬語を使ってくる礼儀正しい女の子だった。

 そんな彼女が、唯一友達のように話しかけるのが、小さな子供の頃から一緒だった、今は婚約者のユアンだ。

 彼は彼女に対しても、そして俺達に対してもずっと敬語だったのだが、次期領主がそうなのもちょっとおかしいし、そもそも真竜と共に戦った、いわば戦友だ。
 エンボス家に滞在している間に打ち解けた事もあって、俺やユナに対しても普通に友達のように話しかけてくれるようになっていた。まあ、さすがにジルさんには、面識があったとはいえ敬語で話していたが。

「……タク、ユナ、本当にごめん、二人とも店を閉めてきたんだろう? ジル先生も病院の方が忙しいのに、申し訳ありません」

「いやあ、僕のところは他にも優秀な医者がいるから、なんとかなりますよ」

 と、ジル先生は困ったそぶりを見せない。

「私も大丈夫、そもそも、私のところになんて、ほとんどお客さん来ていなかったし」

 ユナがちょっと自嘲気味に答えた。

「俺も、昨日のうちに溜まっていた占いの依頼は全部終わらしてきたし。しばらく休む旨の看板もだしているから、大丈夫だよ」

 と、本音を話した。

「そう言ってくれると助かるよ。俺もミウも世間知らずなところが多いから、君たちがいてくれると本当に頼りになる。ジル先生にも、お世話になりっぱなしで……」

「そんな事、気にしなくてもいいですよ。今回も報酬が出るお話の訳ですし。次期領主なんですから、そんなに簡単に頭をさげず、もっと堂々としてください」

 と、冗談っぽく彼が言うと、

「……やっぱり、僕は小物だから、そんな風にできないです……」

 と、ちょっと顔を赤らめてそう語る姿に、全員で笑った。

 そうこうしているうちに、小型船のチャーターが完了したようで、オルドさんが手を振っているのが見えた。

 そこまで歩き、そして実際に乗り込んでみて、驚いた。
 小型船とはいえ豪華な内装で、操縦席の他、部屋が三つもある。
 もちろんトイレも完備、高級なホテル並だ。

 部屋割りをどうしようかと相談し、最初はオルドさんとミウの親子、俺とユアンという案が出たのだが、そうするとジル先生とユナの二人が同室になるために却下。

 ならば、オルドさんとジル先生、ミウとユナ、俺とユアンという男女別の案が出て、一旦それに決まりかけていたのだが、ユナが

「せっかくの初めての旅なんだから、ミウとユアン、同室にしてあげましょう!」

 と提案したものだから……ミウとユアンのちょっとした抗議? も認められず、二人は同室になってしまった。
 二人とも真っ赤になっていたが……まあ、もう婚約者なんだし、いいだろう。

 ……ということは、必然的に俺とユナが同室になるわけで……彼女は

「それで構わない、変なことされそうになったら魔法で吹き飛ばして海に落とすから」

 と言って、みんなを笑わせていた。
 王都まではそんなに距離があるわけではなく、丸二日あったら辿り着く。
 つまり、一泊だけだから、まあそのぐらいなら大丈夫だろう……いろんな意味で。

 ――こうして、俺達は王都に向けて出発したのだった。
 そこに待ち受けるものが、想像を絶する過酷な冒険であることなど、この時点では知るよしもなかった。
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