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第18話 決着
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「ばかな……真竜はアーテムの村の近く、星の洞窟に住み着いていたはずだ!」
俺は思わず大声で叫んでしまった。
「なっ……こいつが懸賞金二千万の竜かっ! アーテムの村はここから山一つ越えた場所だ、空飛べる竜ならものの十分でたどり着ける!」
中級ハンターの一人が声を荒げた。
アーテムの村が近いということ、そして懸賞金が二千万まで増額されていたということ。
どちらも想定すらしていなかったが、それに驚いている暇はなかった。
「散り散りに逃げろ!」
誰かが叫んで、皆、バラバラに行動する。
一目散に距離を取る中級ハンター三人。
その場に留まり、雷撃の魔法を放とうと呪文を詠唱するユナ。
木剣を抜き、自身は留まりながら、ミウに逃げるよう指示するユアン。
そして俺は、一応剣を抜きながら、しかし何も出来ないことを知っていたので、距離を取るしかなかった。
そして真竜の攻撃対象は、ユナだった。
炎は、吐いてこない。
まだ、俺が投げつけたダガーナイフの傷が癒えていないのか、あるいは、あえて放たないだけなのか。
また、片目を薬品で焼いたのも俺だが、あの真竜はそう思っていないのかもしれない。
何の躊躇もなく、ユナに向かって突っ込んできたのだ。
「疾空雷破!」
ユナの右手から雷撃がほとばしり、真竜はスパークに包まれ、動きを止める。
しかしそれもほんの一秒だ。
すぐにまた動きを取り戻し、ユナに襲いかかる。ダメージはほとんどないようだ。
と、次の瞬間、竜の背に、いつの間にか近づいていたユアンの剣が突き立てられた。
しかし、所詮は練習用の木剣、岩のように堅い真竜の皮を貫ける訳はなく、根本から折れてしまった。
真竜は一瞬、そちらを気にしたようだが、すぐにまた意識をユナに集中させる。
そのわずかな隙に、彼女は真竜の正面から逃れ、回り込むように駆け出した。
真竜もすぐに体を回転させる。
ユナは剣を抜いていたが、真竜に攻撃を加えることなく走り続け……そして、木剣を失って立ち尽くしていた青年の元に辿り着いた。
「ユアン、この剣、貸してあげる! 私が動きを止めるから、その隙に攻撃して! この剣は雷撃を通さない!」
ごく短く、用件だけを告げる。
ユアンは一瞬驚いた表情を見せたが、状況を理解したのか、すぐ頷いて戦闘態勢を取った。
そこに竜の顎が迫るが、二人は別方向に弾けるように別れた。
その頭は、相変わらずユナを追いかける。
そしてがら空きになった背に、もう一度、ユアンの剣が突き立てられる。
今度は、剣の半分程まで刺し込まれた。
グオオォ、とおぞましい咆吼を響かせながら、真竜は体を揺さぶり、振り返る。
剣は抜かれたが、出血しているのが見える。
そして攻撃対象は、己に傷をつけた青年に変わった。
しかし、彼はユナ以上の速度で瞬発的に移動し、魔剣を振るい、浅いながらも鱗を切り裂く。
「大疾空雷撃破!」
青年に気を取られていた真竜の背後から、先程の数倍もある衝撃波を伴った凄まじい雷撃が浴びせられた。
ビクン、と体をのけぞらせて硬直させる真竜。
全身を細かなスパークに覆われている。
好機、とばかりに、ユアンは虹色の刀身を、比較的柔らかいとされる竜の腹部に突き刺した。
今回は根本まで突き刺さり、素早くそれを抜く。
真竜は、グフォォー、と明らかに苦痛を伴ったうめき声を出しながら、今度は大雷撃を放ったユナを睨み付ける。
しかしその隙に、背後に回り込んだ青年が、またしてもダメージを与える。
そしてユアンは、竜の左目が見えていないことに気がつき、そのその方向へと移動しながらヒットアンドアウェイで攻撃を加える。
タイミングを見計らいながら、ユナが雷撃でアシストする。
わずか数十秒で、完璧なコンビネーションが完成された。
夜間という、夜目のあまり利かない真竜にとって不利な条件。
また、吐息と、左目を封じられている。
さらに、恐らくは上級以上の実力を持つ青年と、魔術師の連携。
これらの条件が重なり、いかに伝説級の魔獣である真竜であっても、徐々にその生命力を奪われていく。
それは、美しくも凄まじい光景だった。
たった二人の若者が、巨大な真竜を翻弄……いや、圧倒していく。
先程出会ったばかりとは思えないほどの見事な連携、動きの速さ、正確さ。
思わず見とれてしまう程だったが、何もしないわけにはいかない。
依頼者であるミウが、無事に逃げたことを確認しなければならない。
俺は辺りを見渡し、そしてすぐに彼女を見つけた。
広場の南端で、その姿を隠すでもなく、両手を組み、祈るようにして立ち尽くしていた。
俺は逃げるように促すために、彼女に近づいて……そして、物理的にも精神的にもぞっとするような寒気に襲われた。
彼女は、祈っていたのではない。
凄まじい冷気を纏った強力な魔法を練り上げていたのだ。
「う……あっ……」
その気配に圧倒され、それ以上声が出ない。
そして、もう一つの人影が近づくことに気がつかないでいた。
「……ミウよ、それ以上魔力を込めるな、暴発してしまうぞ。今の未熟なお前では、あの真竜に当たるかどうか分からぬ。仮に当たっても、まだ体力の残っている竜は、魔法に対して強力な耐性を発揮する。それほどダメージは与えられん……それより、あの二人を巻き込んでしまうことの方がまずいだろう」
そこに立っていたのは、軽装ながら大柄で、がっしりした体格の、渋い中年のおじさんだった。
「……お父様……」
ミウは振り返り、そう呟いた。
と、いうことは……この人が、元五つ星ハンターの、なんとかエンボスさんだ。
「あの二人の動き、凄まじいものだ……あのお嬢さんの素早さ、魔法の正確さも凄いが、ユアンの腕もまた、俺の予想を大きく上回っている。あれほど腕を上げていたか……」
「お父様、あの二人に加勢してください!」
ミウが、懇願するようにそう叫ぶ。
「もちろん、そうするさ……このまま戦うと危険だと判断すれば、な」
「えっ……」
「あの二人、今、竜殺しになりうる戦いを演じている……手負いの竜といえど、真竜だ。そこに、既に竜殺しの称号を持つ俺が参加すれば、その資格を失ってしまう」
「そんな……でも……」
「心配するな。危険だと思えば参加する、と言っただろう? つまり、今、危険な状況にはないということだ……お前にも分かるだろう、徐々に真竜の動きが鈍ってきていることを……」
確かに、彼の言うとおりだった。
このまま戦いを続けていけば、倒れるのは真竜の方だ。
「……君が、神から能力を授けられたというタクヤ君か……」
「あ……いえ、本当に神からかどうかは分かりませんが、変わった能力は持っています」
いきなり話を振られて戸惑ったが、とりあえずそう答えた。
「……なるほど、澄んだ目をしている……君もまた、竜殺しになるための資格を持っている」
「えっ……俺は、何も出来ていません……」
「あの真竜から、吐息と、左目を奪ったのは君だろう?」
「それは、まあ……どうして知っているんですか?」
「ジル医師から聞いた」
「……なるほど、ジルさんから……」
まあ、確かに間違いではない。
「それに君は、それどころではない、とんでもない力を持っている……人を結びつける力、だ」
「……ええ、それもジルさんから聞いたのですか?」
「結婚相手を見つける能力の事だけを言っているのではない……『英雄を集める力』だ」
「……えっ? なんの事……」
「今、この場に、将来の英雄候補が四人も揃っている……君と、あの電撃を放つ少女、そしてユアンとミウ……いずれも若く、突出した実力の持ち主だ。そして恐らくジル医師も、その資格を持つ一人になるだろう」
「……そ、そんな……三人とジルさんはともかく、俺なんか……」
「君は、『七英雄と聖女』の伝説を知っているか?」
突然話が変わり、ただでさえ困惑していた俺は、さらに混乱した。
「いえ、聞いた事あるような、ないような……」
「昔、この世界を闇から救った七英雄がいた。しかし、彼等以上に功績が大きいと言い伝えられている人物がいる。それが、彼等を導き、まとめた……神から『慈愛』の能力を授けられていたという、それ以外何の力も持たなかった一人の少女、だ。君は、その再来かもしれぬ」
「……へっ?」
思わず、間抜けな声を出してしまった。
「……まだ、自覚はないようだが、俺には分かる……君は、大変な力を神から授かったのだ」
……ちょっと、話が大きすぎて付いていけない。
だって、『究極縁結能力者』も、完璧に使いこなせているとは言い難いのだから……。
と、そうこうしているうちに、戦いは最終局面を迎えていた。
真竜は、相当な出血量に達しており、ふらふらとよろめき、立っているのが精一杯のような状況だった。
いつの間にか、中級冒険者の三人も戻ってきて、遠巻きに、信じられない物を目撃したような、唖然とした表情になっていた。
「今よ、ユアン。真竜の弱点は『眉間』よ!」
ユナの叫ぶような指示に従い、ユアンは大きく飛び上がり、そして狙い違わず、その虹色の刀身を真竜の眉間に突き立てた。
――数秒、時間が止まったかのように感じられた。
真竜は完全に動きを止め……そしてゆっくりとその巨体を傾け、ドウン、と大きな音を立てて倒れた。
ユナと、ユアンの連携が、遂に真竜を打ち倒した。
二人ともさすがに疲れたのか、座り込んで、息を切らしている。
怪我をしている様子はなかった。
見事な勝利だった。
ただ、今回の戦いに、俺が参加出来なかったのは残念だが……ミウの父親が言ったとおり、吐息と左目を封じただけでも、活躍したといえばそうなるのだろう。
「……まだだ、気を抜くな!」
元五つ星ハンターの声が響く!
次の瞬間、最後の悪あがきか、突如真竜が体を起こした!
不完全な体制ながら、ユナとユアンの、どちらかを攻撃すべく、その首を伸ばしてくる!
完全な不意打ち、二人は座り込んでいて、ピクリともその場を動けない!
――この日、二度目の強烈な寒気を感じた。
気がつくと、真竜は再び動きを止め……そしてその全身が、白色に変化していた。
ミウの強力な氷結魔法により、全身氷漬けにされた真竜は、今度こそ、永遠に心臓の鼓動を止めたのだった。
俺は思わず大声で叫んでしまった。
「なっ……こいつが懸賞金二千万の竜かっ! アーテムの村はここから山一つ越えた場所だ、空飛べる竜ならものの十分でたどり着ける!」
中級ハンターの一人が声を荒げた。
アーテムの村が近いということ、そして懸賞金が二千万まで増額されていたということ。
どちらも想定すらしていなかったが、それに驚いている暇はなかった。
「散り散りに逃げろ!」
誰かが叫んで、皆、バラバラに行動する。
一目散に距離を取る中級ハンター三人。
その場に留まり、雷撃の魔法を放とうと呪文を詠唱するユナ。
木剣を抜き、自身は留まりながら、ミウに逃げるよう指示するユアン。
そして俺は、一応剣を抜きながら、しかし何も出来ないことを知っていたので、距離を取るしかなかった。
そして真竜の攻撃対象は、ユナだった。
炎は、吐いてこない。
まだ、俺が投げつけたダガーナイフの傷が癒えていないのか、あるいは、あえて放たないだけなのか。
また、片目を薬品で焼いたのも俺だが、あの真竜はそう思っていないのかもしれない。
何の躊躇もなく、ユナに向かって突っ込んできたのだ。
「疾空雷破!」
ユナの右手から雷撃がほとばしり、真竜はスパークに包まれ、動きを止める。
しかしそれもほんの一秒だ。
すぐにまた動きを取り戻し、ユナに襲いかかる。ダメージはほとんどないようだ。
と、次の瞬間、竜の背に、いつの間にか近づいていたユアンの剣が突き立てられた。
しかし、所詮は練習用の木剣、岩のように堅い真竜の皮を貫ける訳はなく、根本から折れてしまった。
真竜は一瞬、そちらを気にしたようだが、すぐにまた意識をユナに集中させる。
そのわずかな隙に、彼女は真竜の正面から逃れ、回り込むように駆け出した。
真竜もすぐに体を回転させる。
ユナは剣を抜いていたが、真竜に攻撃を加えることなく走り続け……そして、木剣を失って立ち尽くしていた青年の元に辿り着いた。
「ユアン、この剣、貸してあげる! 私が動きを止めるから、その隙に攻撃して! この剣は雷撃を通さない!」
ごく短く、用件だけを告げる。
ユアンは一瞬驚いた表情を見せたが、状況を理解したのか、すぐ頷いて戦闘態勢を取った。
そこに竜の顎が迫るが、二人は別方向に弾けるように別れた。
その頭は、相変わらずユナを追いかける。
そしてがら空きになった背に、もう一度、ユアンの剣が突き立てられる。
今度は、剣の半分程まで刺し込まれた。
グオオォ、とおぞましい咆吼を響かせながら、真竜は体を揺さぶり、振り返る。
剣は抜かれたが、出血しているのが見える。
そして攻撃対象は、己に傷をつけた青年に変わった。
しかし、彼はユナ以上の速度で瞬発的に移動し、魔剣を振るい、浅いながらも鱗を切り裂く。
「大疾空雷撃破!」
青年に気を取られていた真竜の背後から、先程の数倍もある衝撃波を伴った凄まじい雷撃が浴びせられた。
ビクン、と体をのけぞらせて硬直させる真竜。
全身を細かなスパークに覆われている。
好機、とばかりに、ユアンは虹色の刀身を、比較的柔らかいとされる竜の腹部に突き刺した。
今回は根本まで突き刺さり、素早くそれを抜く。
真竜は、グフォォー、と明らかに苦痛を伴ったうめき声を出しながら、今度は大雷撃を放ったユナを睨み付ける。
しかしその隙に、背後に回り込んだ青年が、またしてもダメージを与える。
そしてユアンは、竜の左目が見えていないことに気がつき、そのその方向へと移動しながらヒットアンドアウェイで攻撃を加える。
タイミングを見計らいながら、ユナが雷撃でアシストする。
わずか数十秒で、完璧なコンビネーションが完成された。
夜間という、夜目のあまり利かない真竜にとって不利な条件。
また、吐息と、左目を封じられている。
さらに、恐らくは上級以上の実力を持つ青年と、魔術師の連携。
これらの条件が重なり、いかに伝説級の魔獣である真竜であっても、徐々にその生命力を奪われていく。
それは、美しくも凄まじい光景だった。
たった二人の若者が、巨大な真竜を翻弄……いや、圧倒していく。
先程出会ったばかりとは思えないほどの見事な連携、動きの速さ、正確さ。
思わず見とれてしまう程だったが、何もしないわけにはいかない。
依頼者であるミウが、無事に逃げたことを確認しなければならない。
俺は辺りを見渡し、そしてすぐに彼女を見つけた。
広場の南端で、その姿を隠すでもなく、両手を組み、祈るようにして立ち尽くしていた。
俺は逃げるように促すために、彼女に近づいて……そして、物理的にも精神的にもぞっとするような寒気に襲われた。
彼女は、祈っていたのではない。
凄まじい冷気を纏った強力な魔法を練り上げていたのだ。
「う……あっ……」
その気配に圧倒され、それ以上声が出ない。
そして、もう一つの人影が近づくことに気がつかないでいた。
「……ミウよ、それ以上魔力を込めるな、暴発してしまうぞ。今の未熟なお前では、あの真竜に当たるかどうか分からぬ。仮に当たっても、まだ体力の残っている竜は、魔法に対して強力な耐性を発揮する。それほどダメージは与えられん……それより、あの二人を巻き込んでしまうことの方がまずいだろう」
そこに立っていたのは、軽装ながら大柄で、がっしりした体格の、渋い中年のおじさんだった。
「……お父様……」
ミウは振り返り、そう呟いた。
と、いうことは……この人が、元五つ星ハンターの、なんとかエンボスさんだ。
「あの二人の動き、凄まじいものだ……あのお嬢さんの素早さ、魔法の正確さも凄いが、ユアンの腕もまた、俺の予想を大きく上回っている。あれほど腕を上げていたか……」
「お父様、あの二人に加勢してください!」
ミウが、懇願するようにそう叫ぶ。
「もちろん、そうするさ……このまま戦うと危険だと判断すれば、な」
「えっ……」
「あの二人、今、竜殺しになりうる戦いを演じている……手負いの竜といえど、真竜だ。そこに、既に竜殺しの称号を持つ俺が参加すれば、その資格を失ってしまう」
「そんな……でも……」
「心配するな。危険だと思えば参加する、と言っただろう? つまり、今、危険な状況にはないということだ……お前にも分かるだろう、徐々に真竜の動きが鈍ってきていることを……」
確かに、彼の言うとおりだった。
このまま戦いを続けていけば、倒れるのは真竜の方だ。
「……君が、神から能力を授けられたというタクヤ君か……」
「あ……いえ、本当に神からかどうかは分かりませんが、変わった能力は持っています」
いきなり話を振られて戸惑ったが、とりあえずそう答えた。
「……なるほど、澄んだ目をしている……君もまた、竜殺しになるための資格を持っている」
「えっ……俺は、何も出来ていません……」
「あの真竜から、吐息と、左目を奪ったのは君だろう?」
「それは、まあ……どうして知っているんですか?」
「ジル医師から聞いた」
「……なるほど、ジルさんから……」
まあ、確かに間違いではない。
「それに君は、それどころではない、とんでもない力を持っている……人を結びつける力、だ」
「……ええ、それもジルさんから聞いたのですか?」
「結婚相手を見つける能力の事だけを言っているのではない……『英雄を集める力』だ」
「……えっ? なんの事……」
「今、この場に、将来の英雄候補が四人も揃っている……君と、あの電撃を放つ少女、そしてユアンとミウ……いずれも若く、突出した実力の持ち主だ。そして恐らくジル医師も、その資格を持つ一人になるだろう」
「……そ、そんな……三人とジルさんはともかく、俺なんか……」
「君は、『七英雄と聖女』の伝説を知っているか?」
突然話が変わり、ただでさえ困惑していた俺は、さらに混乱した。
「いえ、聞いた事あるような、ないような……」
「昔、この世界を闇から救った七英雄がいた。しかし、彼等以上に功績が大きいと言い伝えられている人物がいる。それが、彼等を導き、まとめた……神から『慈愛』の能力を授けられていたという、それ以外何の力も持たなかった一人の少女、だ。君は、その再来かもしれぬ」
「……へっ?」
思わず、間抜けな声を出してしまった。
「……まだ、自覚はないようだが、俺には分かる……君は、大変な力を神から授かったのだ」
……ちょっと、話が大きすぎて付いていけない。
だって、『究極縁結能力者』も、完璧に使いこなせているとは言い難いのだから……。
と、そうこうしているうちに、戦いは最終局面を迎えていた。
真竜は、相当な出血量に達しており、ふらふらとよろめき、立っているのが精一杯のような状況だった。
いつの間にか、中級冒険者の三人も戻ってきて、遠巻きに、信じられない物を目撃したような、唖然とした表情になっていた。
「今よ、ユアン。真竜の弱点は『眉間』よ!」
ユナの叫ぶような指示に従い、ユアンは大きく飛び上がり、そして狙い違わず、その虹色の刀身を真竜の眉間に突き立てた。
――数秒、時間が止まったかのように感じられた。
真竜は完全に動きを止め……そしてゆっくりとその巨体を傾け、ドウン、と大きな音を立てて倒れた。
ユナと、ユアンの連携が、遂に真竜を打ち倒した。
二人ともさすがに疲れたのか、座り込んで、息を切らしている。
怪我をしている様子はなかった。
見事な勝利だった。
ただ、今回の戦いに、俺が参加出来なかったのは残念だが……ミウの父親が言ったとおり、吐息と左目を封じただけでも、活躍したといえばそうなるのだろう。
「……まだだ、気を抜くな!」
元五つ星ハンターの声が響く!
次の瞬間、最後の悪あがきか、突如真竜が体を起こした!
不完全な体制ながら、ユナとユアンの、どちらかを攻撃すべく、その首を伸ばしてくる!
完全な不意打ち、二人は座り込んでいて、ピクリともその場を動けない!
――この日、二度目の強烈な寒気を感じた。
気がつくと、真竜は再び動きを止め……そしてその全身が、白色に変化していた。
ミウの強力な氷結魔法により、全身氷漬けにされた真竜は、今度こそ、永遠に心臓の鼓動を止めたのだった。
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