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第33話 サイレン
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俺が用意したアイテムは、ユアには
「スタッフ・オブ・レヴォーガー +1」
そしてアイナには
「スタッフ・オブ・アクアカスタム +1」
だった。
どちらも、表面上は「+1」となっているが、実は俺が密かに持っていた、かなり高品質の充魔石を、知り合いの武器屋に頼んで埋め込んでもらっている。
レヴォーガーの方はブースト機能が有されており、普段は、特に火炎系の攻撃にそれなりの魔力付与能力を発動するが、いざというときに魔力を圧縮して一気に放出することが可能となっている。
アクアカスタムのほうは、「スタッフ・オブ・アクア」にさらなる改良を施しており、水系・氷系の魔法の他に、回復系の魔法にも大きめの補正が入る。
その他の魔法全般に、それなりに補助がかかるので、全体的に魔法力の底上げが期待できる。
二つとも、新品で普通に買えば50万ウェン以上、二つ会わせると軽く百万ウェンを超える。
今回は元々が中古だった上に、俺が取得した充魔石を使用しているからそこまでの値段はしないが、それでも二つで50万ウェン近い金を支払ったことになる。
早速いつものクラローズ地下迷宮に潜り、その真価を見極める。
ユアが使用した「火球《ファイアボール》」が破裂し、ポイズンタラテクターの群れをあっという間に焼き尽くす。
さらに、ユアの「聖光《ホーリーライト》」が、低級霊魔達をいとも簡単に消滅させた。
「すごい……魔石が埋め込まれた杖って、こんなに威力が上がるんだ……」
ユアが、驚いたようにそう口にする。
「本当に、すごいですぅ-。パパさんに感謝です……でも、本当に私たち、こんなに優遇されていいんですか?」
アイナの口調には、若干の怯えすら含まれているように思えた。
「ああ、構わない。それでおまえ達の実力が上がるならな。それに、前に言ったように、それは貸しているだけだ。もっともっと実力を付けて、俺のパートナーとして活躍できるぐらいに強くなってもらわないと困るんだ」
そう、これは「先行投資」なのだ。
彼女たちの成長具合を考えると、その才能は、ほんの二、三年で俺と同じ三ツ星レベルになれそうなほどの逸材だった。
神から与えられた「父性愛」の後押しもあるだろうが、それも彼女たちに才能有ってのことだ。
孤児院出身で、女の子の身で冒険者に推薦されること自体めずらしい、と聞く。
やはり、事前の審査でその高い潜在能力が分かっていたのだろう。
この二人、俺の目から見てもかなりの美少女だ。おそらく、娼婦として売り出されたなら、かなりの人気を博すことになるだろう……しかし、それよりも冒険者となることを認められたということは、それだけで才能……魔力値の高さ、適性が非常に高いと判断されていたに違いない。
「そんなに私たちのこと、認めてくれてるんだね……」
「ああ、実際に自分たちで分かるだろう? 他の新人より圧倒的に成長が早いっていうことを」
「でも、それってパパさんの能力なんですよね? 神様から与えられているっていう……」
もうユアもアイナも、俺が特別な能力を持っていることを疑わない。
「そうだろうな。だが、俺のその力も、どんな子にも適応されるわけじゃない。今まで何人もの女の子に会ってきたが、発動したのは一人だけだ」
「……ミリアさんね。確かに、凄い演技だった」
ユアが、感心したようにつぶやいた。
「ああ。だが、あいつも凄く努力して、さらに幸運も重なってあれだけの女優になれたんだ。だからおまえたちも、もっともっと頑張って、強くならなきゃダメなんだ。せめて、俺の足を引っ張らないぐらいには強くなってくれよ!」
皮肉を込めて激励する。
しかし、そこには
「俺がいなくても冒険者としてやっていけるぐらいには成長してくれよ」
という願いも込めていた。
それを感じ取ったのか、ユアは小さく、
「うん……パパ、愛してる……」
とつぶやいた。
それは、この前俺にふざけて抱きついてきたときとは別の……彼女の本心、照れ隠しのように聞こえて、俺はドキリとさせられた。
「私も……パパさんのこと、好きです……」
アイナも、聞こえるかどうかギリギリぐらいの声でそうつぶやいた。
それにも、俺の心は反応した。
だが、あえて彼女たちの言葉が聞こえなかったふりをする。
彼女達のこの言葉……本心かもしれない。
しかし、それは俺が新しい杖を買い与えた(体裁としては、貸し与えた)ことに対する反応であり、俺の人間性に好感を持ってくれたわけではない……そう考えることにした。
勘違いしてはいけない。
俺が彼女達に、金銭的な、あるいはそれに準ずる支援をしなくなれば、途端に二人は離れていってしまうだろう。
しかし、それでも。
俺のことを慕ってくれている間は、この娘達を、しっかり守り、育てていきたい……そう思えると共に、俺の中に不思議と力が湧いてくるのが分かった。
「さあ、もう一息、今日の最後の仕上げだ! 探知魔法に、獲物の群れがかかった。多分これは、ライグ・ジャッカルの群れだ。素早いから気を付けて……」
と、そこまで口にしたときに、迷宮全体に、今までに聞いたことのないような、前世におけるサイレンのような不気味な音が、大音量で響き渡った。
「な……なにっ? なんなの?」
「この音、怖いですぅー! パパさん、これ、なんですかぁー?」
しかし、その問いに俺も答えられない。初めての経験だ。
ただ、本能が、俺の頭に
「これはヤバい!」
と警告を発していた。
「ユア、アイナ! 急いで地上に戻る……」
しかし、俺の声は、迷宮全体が大きく揺れる轟音にかき消された――。
「スタッフ・オブ・レヴォーガー +1」
そしてアイナには
「スタッフ・オブ・アクアカスタム +1」
だった。
どちらも、表面上は「+1」となっているが、実は俺が密かに持っていた、かなり高品質の充魔石を、知り合いの武器屋に頼んで埋め込んでもらっている。
レヴォーガーの方はブースト機能が有されており、普段は、特に火炎系の攻撃にそれなりの魔力付与能力を発動するが、いざというときに魔力を圧縮して一気に放出することが可能となっている。
アクアカスタムのほうは、「スタッフ・オブ・アクア」にさらなる改良を施しており、水系・氷系の魔法の他に、回復系の魔法にも大きめの補正が入る。
その他の魔法全般に、それなりに補助がかかるので、全体的に魔法力の底上げが期待できる。
二つとも、新品で普通に買えば50万ウェン以上、二つ会わせると軽く百万ウェンを超える。
今回は元々が中古だった上に、俺が取得した充魔石を使用しているからそこまでの値段はしないが、それでも二つで50万ウェン近い金を支払ったことになる。
早速いつものクラローズ地下迷宮に潜り、その真価を見極める。
ユアが使用した「火球《ファイアボール》」が破裂し、ポイズンタラテクターの群れをあっという間に焼き尽くす。
さらに、ユアの「聖光《ホーリーライト》」が、低級霊魔達をいとも簡単に消滅させた。
「すごい……魔石が埋め込まれた杖って、こんなに威力が上がるんだ……」
ユアが、驚いたようにそう口にする。
「本当に、すごいですぅ-。パパさんに感謝です……でも、本当に私たち、こんなに優遇されていいんですか?」
アイナの口調には、若干の怯えすら含まれているように思えた。
「ああ、構わない。それでおまえ達の実力が上がるならな。それに、前に言ったように、それは貸しているだけだ。もっともっと実力を付けて、俺のパートナーとして活躍できるぐらいに強くなってもらわないと困るんだ」
そう、これは「先行投資」なのだ。
彼女たちの成長具合を考えると、その才能は、ほんの二、三年で俺と同じ三ツ星レベルになれそうなほどの逸材だった。
神から与えられた「父性愛」の後押しもあるだろうが、それも彼女たちに才能有ってのことだ。
孤児院出身で、女の子の身で冒険者に推薦されること自体めずらしい、と聞く。
やはり、事前の審査でその高い潜在能力が分かっていたのだろう。
この二人、俺の目から見てもかなりの美少女だ。おそらく、娼婦として売り出されたなら、かなりの人気を博すことになるだろう……しかし、それよりも冒険者となることを認められたということは、それだけで才能……魔力値の高さ、適性が非常に高いと判断されていたに違いない。
「そんなに私たちのこと、認めてくれてるんだね……」
「ああ、実際に自分たちで分かるだろう? 他の新人より圧倒的に成長が早いっていうことを」
「でも、それってパパさんの能力なんですよね? 神様から与えられているっていう……」
もうユアもアイナも、俺が特別な能力を持っていることを疑わない。
「そうだろうな。だが、俺のその力も、どんな子にも適応されるわけじゃない。今まで何人もの女の子に会ってきたが、発動したのは一人だけだ」
「……ミリアさんね。確かに、凄い演技だった」
ユアが、感心したようにつぶやいた。
「ああ。だが、あいつも凄く努力して、さらに幸運も重なってあれだけの女優になれたんだ。だからおまえたちも、もっともっと頑張って、強くならなきゃダメなんだ。せめて、俺の足を引っ張らないぐらいには強くなってくれよ!」
皮肉を込めて激励する。
しかし、そこには
「俺がいなくても冒険者としてやっていけるぐらいには成長してくれよ」
という願いも込めていた。
それを感じ取ったのか、ユアは小さく、
「うん……パパ、愛してる……」
とつぶやいた。
それは、この前俺にふざけて抱きついてきたときとは別の……彼女の本心、照れ隠しのように聞こえて、俺はドキリとさせられた。
「私も……パパさんのこと、好きです……」
アイナも、聞こえるかどうかギリギリぐらいの声でそうつぶやいた。
それにも、俺の心は反応した。
だが、あえて彼女たちの言葉が聞こえなかったふりをする。
彼女達のこの言葉……本心かもしれない。
しかし、それは俺が新しい杖を買い与えた(体裁としては、貸し与えた)ことに対する反応であり、俺の人間性に好感を持ってくれたわけではない……そう考えることにした。
勘違いしてはいけない。
俺が彼女達に、金銭的な、あるいはそれに準ずる支援をしなくなれば、途端に二人は離れていってしまうだろう。
しかし、それでも。
俺のことを慕ってくれている間は、この娘達を、しっかり守り、育てていきたい……そう思えると共に、俺の中に不思議と力が湧いてくるのが分かった。
「さあ、もう一息、今日の最後の仕上げだ! 探知魔法に、獲物の群れがかかった。多分これは、ライグ・ジャッカルの群れだ。素早いから気を付けて……」
と、そこまで口にしたときに、迷宮全体に、今までに聞いたことのないような、前世におけるサイレンのような不気味な音が、大音量で響き渡った。
「な……なにっ? なんなの?」
「この音、怖いですぅー! パパさん、これ、なんですかぁー?」
しかし、その問いに俺も答えられない。初めての経験だ。
ただ、本能が、俺の頭に
「これはヤバい!」
と警告を発していた。
「ユア、アイナ! 急いで地上に戻る……」
しかし、俺の声は、迷宮全体が大きく揺れる轟音にかき消された――。
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