異世界パパ活物語

エール

文字の大きさ
上 下
27 / 35

第27話 覚悟決めるですぅ……

しおりを挟む
「そんな……一緒に暮らすって、どうして……」

 クールなユアも、ちょっと慌てたようにそう言ってきた。

「このアパートは危険だ。大きなヒビが入って、いまにも崩れそうじゃないか。それに、こんな錠じゃすぐに壊される。乱暴な男が押し入ってきたら連れ去られかねない」

「……それはそうかも、だけど……でも、私達がおじさんの部屋に泊まったとして、おじさんにそうされないと言い切れるの?」

 ユアにそう言われて、はっと気づいた。
 俺たちは今日……というか、ついさっき出会ったばかりなのだ。

「そうか……それもそうだな。君らにとっては、俺も見ず知らずの男なんだな。警戒してあたりまえか……けど、ここじゃあまりに危ない」

「……私たちを強引に部屋に泊まらせようとするおじさんの方が、よっぽど危ないと思うけど?」

 うっ……まだ十代の小娘に反論され、言い返せない。
 彼女の言うことはもっともだ……俺はなぜ今日知り合った彼女たちのために、これほど熱くなっているのだろう……。
 と、その様子を見ていたもう一人の少女、アイナが、吹き出すように笑った。

「うふふっ……なんか、ユアとおじさま、本当の親子喧嘩しているみたいで、おかしいですぅ……でも、ちょっといい感じですぅ。私たち、その本当の親を知らないのですからぁ……」

 彼女に指摘され、俺とユアは顔を見合わせる。
 心なしか、彼女の顔は赤くなっていた。

「それに、ちょっと嬉しいですぅ。おじ様からは、なんていうか、悪意が感じられないっていうか……本当に私たちのことを心配してくれているみたいですぅ。ありがとうございますぅ」

 アイナは、そう言って律儀に頭を下げた。

「いや……うん、心配しているのは本当だが、ちょっといきなりすぎたな……どうしても放っておけなく思えたんだ」
「……ほんとに、変な人……でも、まあ、アイナの言うとおりちょっと嬉しいよ。ありがと」

 そういって笑顔をみせるユア。
 いままで警戒している顔か、すました顔しか見たことがなかったので、その表情にはドキリとさせられた。

「それで、えっと……まずは、おじさまはどういう方なのか、教えていただいていいでしょうかぁ? 三ツ星ハンターの凄い人、っていうのは、ユアから聞きましたけど、ですぅ」

 相変わらず間延びした口調でそう聞いてきた彼女。
 俺としては、この崩れそうなアパートから今すぐ出て行きたかったが、この二人のことを放っておけないし、かといって強引に連れ出せばそれこそ人さらいだ。ここはゆっくり話しをすることにした。

 俺が中級の攻撃魔法と剣術を組み合わせる魔導剣士であること。
 特定のパーティーに属しているわけではなく、雇ったり、雇われたり、時にはソロで遺跡やダンジョンを攻略していること。
「パパ活」はまだ始めてから日は浅いが、本格的に契約したのはまだ一人しかいないこと。

「……その一人って言うのが、ミリアなのね……」

 ユアが、感嘆のまなざしで俺を見ながらそう聞いてきた。

「ああ、そうだ……なんていうか、相性が良かったっていうことかな」

「……ユア、ミリアってだれですかぁ? 知ってる人ぉ?」

「劇団ラージュのミリアよ。この前、一緒に演劇見に行ったでしょう?」

「……えええぇっー! あの売れっ子女優のミリアさんですかぁー!」

 あまりの大声に、俺の方が驚いた。
 このボロアパートだと、建物中に聞こえてしまいそうな声量だった。

「ば、ばか、声が大きい……ユア、秘密って言っただろう?」

「そうだけど、アイナならいいかと思って……おじさんも乗ってたじゃない」

「ま、まあ、そうだが……アイナ、絶対秘密だぞ!」

「は、はいぃ……って、そんなの誰にも信じてもらえないですぅ-。ユア、ほんとのことなの?」

「うん……おじさんとミリアが親しげに話をしているところ見たし、私のことを『姉妹』って言ってたから……『パパ活』してたのは間違いないと思う。それで、おじさん……えっと、ミリアと一緒に住んでたの?」

「……俺の口からは言えない」

「……住んでたんだ……でも、有名になっちゃったから、逃げられたってことね?」

「だから、ノーコメントだ」

 妙にカンの鋭い娘だが、ここは黙っておいた方がいいだろう。

「……でも、あの娘もおじさんのこと、慕ってたみたいだった……そういう意味じゃ、それだけでもおじさんのこと、結構信用できる……かも」

「……わたしも、おじさまはいい人そうに見えますぅ……なにか、金色の後光が差しているようにも見えるですぅ」

「えっ、アイナも? ……実は私も、なんかそんなふうに見えるのよね……不思議」

「……二人とも、そうなのか……実は、俺からも、二人から金色のオーラが出ているように見える……ミリアもそうだった」

「ふーん……やっぱり不思議な感じね……」

 ユアもアイナも、興味をそそられているようだった。

「……これはひょっとして、俺のオリジナルスキルに関係しているのかもしれないな……ちょうどいい、二人には話しておく。これも秘密のことだぞ」

 念押しした上で、俺は神から与えられたオリジナルスキルについて話した。

『父性愛』……自分の娘や息子を想い行動するとき、その能力が大幅に向上すること。それと同時に、対象者の才能開花を後押しすること。
 ミリアが役者として成功したのも、自分の影響が多少はあったと思われること――。

 いきなり聞いただけでは到底信じられないような荒唐無稽な話に、笑われるんじゃないか、と思った。
 しかし、二人とも真剣に聞いてくれた。

「……なるほど、女優・ミリアの成功を見てるから、すごく説得力があるね……それに、その金色のオーラが神様の力っていうのを信じさせてくれる……」

「すごいですぅ、おじさま……神様からそんなすごい能力を授けられていたなんて……これは運命ですぅ」

 意外と素直に信じてくれたようだ。  
 そして二人は、顔を見合わせてうなずきあった。

「……うん、私たち、おじさん……ううん、パパのこと、信用するわ。どうせこのままじゃあ、来月のここの家賃支払いもできなくなって、野宿するか娼館に入るしかなかったし……」

「そうですぅ……おじさま……ううん、パパさんは、本当の私たちのパパさんですぅ。いっしょに住まわせてもらえるなら、こちらこそ願ったり叶ったり、ですぅ。いつまでも子供でいられないし……私も覚悟決めるですぅ……」

 赤くなりながらそう話すアイナに、彼女がちょっと誤解していることを悟った俺は、

「いや、君たちに手を出すようなことは考えていないから……」

 と弁明した。
 それを聞いたアイナは、

「あの、その……早とちりしちゃいましたぁー」

と、ますます赤くなったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...