異世界パパ活物語

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第11話 同棲生活の準備

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「……はっ?」

 あまりに突然のミリアの申し出に、俺は一瞬、奇妙な声を出してしまった。

「その……実は……今夜から、泊まるところがなくなってしまって……」

 申し訳なさそうな、怯えたような表情でそう語る、まだ十代の清楚な美少女。

「何があったんだ?」

「……実は、私たちが活動していた劇団の支援者が、ご破算してしまったみたいで……借りていた小さな劇場も使えなくなって、住まわせてもらっていた宿舎も、今日中に出て行かないといけないことになってしまって……」

「それじゃあ、その……今まで頑張ってきた劇団は、活動できなくなったっていうことなのか?」

「事実上の解散です……近々そうなるだろうとは聞かされていましたが、あまりに突然で……」

 俺は冒険以外の活動には疎いのだが、なかなかシビアなんだな……。

「……それで、他の団員達はどうなったんだ?」

「もともと、お給料は少なかったので多くの人は副業という形で参加していたので、その方達はちょっと収入が減るだけです。問題は、宿舎に寝泊まりしていた子達。みんな、一旦諦めて実家に帰るって言ってましたけど、私は……一昨年母親も亡くして一人っきりなので……」

 ……切実な問題だ……本当に今日、帰るところがなくなってしまうんだ……。

 でも、それなら事情は分かった。別に、俺に好意を寄せて泊めて欲しい、って言っているのではなく、仕方なく、なのだ。

「……そういうことなら、どうしても他にあてがないなら、少しの間なら俺のところで泊めてあげてもいいけど……あ、けど、スポンサーっていうわけじゃないけどな」

 あまり深く考えずにそう言うと、彼女の表情はぱっと明るくなった。

「本当に良いんですか? ありがとうございます! 泊めていただけるだけで十分です! 掃除でも洗濯でも何でもしますので、しばらくの間、よろしくお願いします!」

 本当に喜んでいるような感じだ……それで十分、俺の心は満たされる。

 ――とは言っても、よく考えると、アラフォーの独身の男と、まだ十代の若い娘が一緒に住むことには変わりない。そのことを、この娘はどう考えているのだろうか。
 俺のことを、人畜無害な草食系と思っているのか、それとも、そういう関係になってもいいと思っているのか……。

 いや、ひょっとしたら、男の家に泊まることに慣れている?

「パパ活」では大人の関係までは至っていなかったといっていたが、スポンサーを探していたことからも分かるように、自分を支援してくれる男性を募っていたことは事実だ。そうであれば、男性と一夜を共にし、報酬を得るような事をしていたとしても不思議ではない。

 清楚で、癒やし系の美少女だが、自分の夢のためには覚悟を厭わない、そんな強さを持っていることは、これまで話をしてきた中でも知っている。
 そして俺を頼ってくれたということは、そういう関係になってもいいと思ってくれているのではないだろうか。

 ――いやいや、少なくとも今まで俺が接した中では、そんな下心を見せたことはなかった。だから、彼女にとっては父親と一緒に住むような感覚でいるに違いない。

 いずれにせよ、ミリアのことを気に入っている俺にとっても、彼女がそうしたいと言っているならば、一緒に住めることは嬉しいことだ。

 俺のアパートはちょっと奥まったところにあって、独り身の冒険者と言うことでご近所付き合いなんかもあんまりしていないし、誰かに見られたとしても気にならない。

 スポンサー契約のように高額のお金を渡さなくても良いのであれば、泊めてあげるだけならばなんら問題ないように思えた。

「でも、本当によかったです。貯金もあんまり無かったし、宿を取ったとしても数日で路頭に迷うところでしたから……あと、ハヤトさん、本当に独身だったのですね」

「えっ? 疑ってたのか?」

「いえ、別にそういうわけでは……ただ、もし奥さんがいたなら、泊めてもらうのは無理かな、と思っていましたので。あと、彼女さんがいたとしても」

「ははっ、それだったらそもそも『パパ活』なんかしてないよ」

「そうですよね……ただ、先に会った方々は、ご結婚されている人の方が多かったので……」

 ……ということは、その人たちは「愛人」を探していたということか?
 パパ活、恐るべし……。

 そういうことで話がまとまったので、俺は自分の住所を教えた。
 しかしよく考えたら、荷物とかもあると思ったので、一緒に彼女の住んでいた宿舎に行ってみることにした。

 ――そこにあったのは、今にも崩れそうな日々だらけの石造りの建物だった。
 実際、雨漏りなんかも結構会ったようで、狭い部屋に数人が雑魚寝するような生活だったという。

 これなら、自分を認めてくれるスポンサーを見つけたい、という気になるのも分かる気がするな……それはそれで勇気が要ることだが、それで夢を叶えられるなら、独占的に身を任せてでも支援を得て、一流の女優への近道を歩むことになるのだ。
 ……もっとも、今の俺では金銭的にも、社会的地位も中途半端なのだが。

 彼女の荷物も、思ったよりずっと少なかった。
 大きめの背負い袋と、ちょっと大きな手提げバックが一つ。それだけだった。

 ミリアは、同僚の女の達と別れの挨拶をしていた。
 また一緒に舞台に立とう、みたいな話をしているのが聞こえる。
 俺のことをチラチラと見る人もいたが、本当の親ではなく、そういう支援者なのだと誤解したかもしれないな、と思った……ミリアも、それは承知の上なのだろう。

 そして俺のアパートを見せると、

「広い……」

 と目を輝かせていた。

 決して新しくはないが、丈夫な建物の三階で、広さは日本で言うところの12畳ぐらいのリビングに6畳ぐらいの寝室、そしてもう一部屋、やはり6畳ぐらいの予備の部屋があり、俺はそこに剣や鎧なんかの荷物を置いている。
それらを片付ければ、女の子一人ぐらいが寝られるスペースは十分確保できる。

 また、この世界には水道があり、魔道具を使って屋上に集められた水をシャワーとして浴びることができる。
 給湯器も存在しており、その燃料となるのは「魔核」だ。
 魔物や妖魔を倒して得られる「魔核」は、こんなふうに熱源や動力、照明のためのエネルギーとして活用されているのだ。

 俺の部屋には、シャワールームと水洗のトイレが完備されている。これで月の家賃は8万ウェン。独身の俺には十分だった。

「本当にここで寝泊まりさせてもらっていいんですか?」

 彼女は謙虚だ。

「ああ、俺としても仲良くなったミリアと一緒に住めるなら嬉しいしよ」

「……ありがとうございます」

 彼女は、少し赤くなった。そしてその表情に、ドキリとさせられた。

 その後、ミリアが生活に必要になると思われるものを、一緒に買いに行った。
 基本的に自分の分しか食器を持っていなかったので、彼女の分のそれと、あと、寝具なんかも新しく買った。
 ピンクの可愛いパジャマに、ミリアは赤くなって照れながらも、嬉しそうにしていた。

 自分としては少しの間だけ泊めてあげるつもりだったが、来客用のそれらのものを持ち合わせていなかったのでちょうど良かったが……ミリアは、

「私のために、こんなに揃えてもらえるなんて……信じられないぐらいに嬉しいです」

 と言ってくれた……って、長期間泊まるつもりなのだろうか……まあ、彼女がそれでいいのなら、今付き合っている女性がいない俺も問題ないが。

 そして、折りたたみ式のベッドを新しく買うか、それとも床にマットを敷いて寝るのでもいいか、と聞くと、彼女は、えっというような表情で俺の方を見た。

「あの、その……一緒のベッドで寝るのではないのでしょうか……?」
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