6 / 35
第6話 決闘(デュエル)
しおりを挟む
「まさか同じ店でまた男を騙しているとはな……とんでもないガキだぜ!」
大きな声で怒鳴り散らしている大柄な男……ただ図体がでかいだけではなく、丈夫そうな厚手の服の上からでも鍛えられていることが分かる。冒険者、それも星有りと考えて間違いないだろう。
歳は二十代後半ぐらいか。俺よりは若いが、若造というほどでもない。
「ちょっと待て……この娘に騙されたって、本当か?」
「ああ、そうだ。おっさん、運が良かったな。あんたも金を持ち逃げされるところだったんだぜ」
男が彼女を睨み付けながら、吐き捨てるようにそう言った。
「……ミリア、この男の言うことは本当か?」
「……えっと、その……そんなつもりはなかったんですけど……」
俺の背後に隠れ、怯えるようにつぶやいているが、どうも歯切れが悪い。
ひょっとして、俺、この男の言うとおり騙されるところだったのか?
「何があったのか説明してくれるか?」
男の方を向いてそう聞いた。
「俺がちょっと席を外している間に、こいつが俺の金を持ち逃げしやがったんだ!」
非常にシンプルに説明された。
「……ミリア、本当なのか?」
「……だって、その……食事だけの約束で、先に二万ウェンも渡してもらえたので喜んでいたんですけど……いつの間にか、私、この人と宿に泊まるような話になってまして……お断りしたんですけど、聞き入れてもらえなくて……それで、怖くなって……」
「……そのまま逃げたのか?」
「……はい……」
「金は返さずに?」
「……その……持ち逃げするつもりはなかったんですけど、ただ怖くて逃げるのが精一杯で……」
俺はため息をついた。
そして一万ウェン銀貨二枚を男に差し出した。
「……まあ、大体分かった。おまえが怒るのも無理はないが、この娘はまだ世間を知らない、いわば子供だ。俺が立て替えるから許してもらえないか?」
「なんだ、てめえ。そのガキとどういう関係なんだ?」
「たった今、定期的に会う約束をした。まあ、娘みたいなものだ」
「……なるほど、てめえも騙されて『パパ』になったってわけか」
「たしかに俺も騙されているかもしれないが、とりあえずおまえの金は戻ってきたんだ、もういいだろう?」
俺が諭すようにそういうと、男は銀貨を手に取った。
「……ふん、まあいい。迷惑料として受け取ってやる。役人に突き出すことは勘弁してやるが……だがな、泥棒が物を盗んで、見つかって返したからといって許されるものじゃねえ。そのあたり、きっちりと俺が教育してやるからその娘、こっちによこせ」
「……おまえは何を言っているんだ? この娘は何も盗んでいないだろう? 食事を一緒にするのに二万ウェン払ってもらえたと思い込んでいた、それが話が違ってきたから帰った……ただそれだけじゃないか」
「ああん? ただメシを一緒に食うだけで、なんで二万も払わなきゃならねえんだ?」
前の俺と同じようなことを言っている。
「そこがおまえの思い違いだ。『パパ活』ってやつを分かっていない。それに、その話を役人にして、取り合ってもらえると思うか?」
「……ちっ、ごちゃごちゃ言わずに、そのガキをこっちによこせ」
「嫌だね。自分の『娘』が酷い目にあうと分かっているのに渡す馬鹿な親がどこにいる?」
その俺の挑発に、男は真っ赤になって怒っていた。
「……てめえ……俺とやり合おうってのか?」
「どうしても、っていうなら受けて立つがな。おまえもハンターなんだろう?」
「……そうか、てめえもか……なら話は早い、決闘《デュエル》でさっさとカタをつけるか?」
「いいだろう……ただし、俺は三ツ星だぜ」
短く放った俺の一言に、男は、一瞬驚愕の表情を浮かべた。
しかし、すぐにニヤけた顔に変化した。
「そいつは奇遇だな……俺も三ツ星なんだ……覚悟しやがれ!」
そのセリフに、この言い争いに集まっていた店中の客達から歓声が上がる。
「すげえっ……三ツ星同士のハンターが女を賭けてデュエルだ!」
「こんなこと、年に一回、あるかないかだぜ!」
……もはや引っ込みがつかなくなってしまった。
男は、すでに勝ち誇ったような顔をしている。
「おっさん……名前を聞いておこうか」
「……ハヤトだ」
「……なるほど、てめえが魔道剣士ハヤトか、だがデュエルに魔法は使えないぜ?」
「ああ、そんなもの使わなくても、俺はおまえに負けないつもりだが……三ツ星におまえみたいな奴、いたか?」
三ツ星ランクの上級ハンターは、この町に二十人ほどしかいない。全員、顔と名前は知っていたつもりだった。
「あいにく、最近三ツ星になったばっかりでな。俺の名はラグンだ、この名を二度と忘れられないようにしてやるぜ」
「……おまえが狂戦士ラグン、か……まあ、お手柔らかに頼むぜ」
俺は余裕の笑みを浮かべながらそう言った。
ラグンが先に外に出たとき、ミリアは涙目で俺の腕にしがみついていた。
「ハヤトさん、逃げましょう……あんな大男に、勝てるわけがありません……」
「馬鹿、逃げたら前と一緒だろう? 心配するな、俺は負けない」
町中で行う決闘《デュエル》では、剣と魔法の使用は禁止される。
そのため、同じ三ツ星ハンター同士の肉弾戦であれば、魔道剣士の俺より戦士のラグンの方が有利だ。
しかし、どういうわけか、俺の目にはラグンのことが、大した相手ではないようにしか見えていなかった。
大きな声で怒鳴り散らしている大柄な男……ただ図体がでかいだけではなく、丈夫そうな厚手の服の上からでも鍛えられていることが分かる。冒険者、それも星有りと考えて間違いないだろう。
歳は二十代後半ぐらいか。俺よりは若いが、若造というほどでもない。
「ちょっと待て……この娘に騙されたって、本当か?」
「ああ、そうだ。おっさん、運が良かったな。あんたも金を持ち逃げされるところだったんだぜ」
男が彼女を睨み付けながら、吐き捨てるようにそう言った。
「……ミリア、この男の言うことは本当か?」
「……えっと、その……そんなつもりはなかったんですけど……」
俺の背後に隠れ、怯えるようにつぶやいているが、どうも歯切れが悪い。
ひょっとして、俺、この男の言うとおり騙されるところだったのか?
「何があったのか説明してくれるか?」
男の方を向いてそう聞いた。
「俺がちょっと席を外している間に、こいつが俺の金を持ち逃げしやがったんだ!」
非常にシンプルに説明された。
「……ミリア、本当なのか?」
「……だって、その……食事だけの約束で、先に二万ウェンも渡してもらえたので喜んでいたんですけど……いつの間にか、私、この人と宿に泊まるような話になってまして……お断りしたんですけど、聞き入れてもらえなくて……それで、怖くなって……」
「……そのまま逃げたのか?」
「……はい……」
「金は返さずに?」
「……その……持ち逃げするつもりはなかったんですけど、ただ怖くて逃げるのが精一杯で……」
俺はため息をついた。
そして一万ウェン銀貨二枚を男に差し出した。
「……まあ、大体分かった。おまえが怒るのも無理はないが、この娘はまだ世間を知らない、いわば子供だ。俺が立て替えるから許してもらえないか?」
「なんだ、てめえ。そのガキとどういう関係なんだ?」
「たった今、定期的に会う約束をした。まあ、娘みたいなものだ」
「……なるほど、てめえも騙されて『パパ』になったってわけか」
「たしかに俺も騙されているかもしれないが、とりあえずおまえの金は戻ってきたんだ、もういいだろう?」
俺が諭すようにそういうと、男は銀貨を手に取った。
「……ふん、まあいい。迷惑料として受け取ってやる。役人に突き出すことは勘弁してやるが……だがな、泥棒が物を盗んで、見つかって返したからといって許されるものじゃねえ。そのあたり、きっちりと俺が教育してやるからその娘、こっちによこせ」
「……おまえは何を言っているんだ? この娘は何も盗んでいないだろう? 食事を一緒にするのに二万ウェン払ってもらえたと思い込んでいた、それが話が違ってきたから帰った……ただそれだけじゃないか」
「ああん? ただメシを一緒に食うだけで、なんで二万も払わなきゃならねえんだ?」
前の俺と同じようなことを言っている。
「そこがおまえの思い違いだ。『パパ活』ってやつを分かっていない。それに、その話を役人にして、取り合ってもらえると思うか?」
「……ちっ、ごちゃごちゃ言わずに、そのガキをこっちによこせ」
「嫌だね。自分の『娘』が酷い目にあうと分かっているのに渡す馬鹿な親がどこにいる?」
その俺の挑発に、男は真っ赤になって怒っていた。
「……てめえ……俺とやり合おうってのか?」
「どうしても、っていうなら受けて立つがな。おまえもハンターなんだろう?」
「……そうか、てめえもか……なら話は早い、決闘《デュエル》でさっさとカタをつけるか?」
「いいだろう……ただし、俺は三ツ星だぜ」
短く放った俺の一言に、男は、一瞬驚愕の表情を浮かべた。
しかし、すぐにニヤけた顔に変化した。
「そいつは奇遇だな……俺も三ツ星なんだ……覚悟しやがれ!」
そのセリフに、この言い争いに集まっていた店中の客達から歓声が上がる。
「すげえっ……三ツ星同士のハンターが女を賭けてデュエルだ!」
「こんなこと、年に一回、あるかないかだぜ!」
……もはや引っ込みがつかなくなってしまった。
男は、すでに勝ち誇ったような顔をしている。
「おっさん……名前を聞いておこうか」
「……ハヤトだ」
「……なるほど、てめえが魔道剣士ハヤトか、だがデュエルに魔法は使えないぜ?」
「ああ、そんなもの使わなくても、俺はおまえに負けないつもりだが……三ツ星におまえみたいな奴、いたか?」
三ツ星ランクの上級ハンターは、この町に二十人ほどしかいない。全員、顔と名前は知っていたつもりだった。
「あいにく、最近三ツ星になったばっかりでな。俺の名はラグンだ、この名を二度と忘れられないようにしてやるぜ」
「……おまえが狂戦士ラグン、か……まあ、お手柔らかに頼むぜ」
俺は余裕の笑みを浮かべながらそう言った。
ラグンが先に外に出たとき、ミリアは涙目で俺の腕にしがみついていた。
「ハヤトさん、逃げましょう……あんな大男に、勝てるわけがありません……」
「馬鹿、逃げたら前と一緒だろう? 心配するな、俺は負けない」
町中で行う決闘《デュエル》では、剣と魔法の使用は禁止される。
そのため、同じ三ツ星ハンター同士の肉弾戦であれば、魔道剣士の俺より戦士のラグンの方が有利だ。
しかし、どういうわけか、俺の目にはラグンのことが、大した相手ではないようにしか見えていなかった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!
クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』
自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。
最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる