異世界パパ活物語

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第2話 パパ活ギルドのシステム

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「――ということで、ハヤトにおすすめの店だと思うんだが、行ってみないか?」

 リョウがニヤニヤしながらそう勧めてくる。

「なんで俺がパパ活なんかしなきゃいけないんだ?」

「別に興味がないならいいんだぜ? 俺はただ勧めているだけだから」

 行きつけのバーで酒を飲みながら、冒険仲間のリョウがそう煽ってきた。
 人口二十万人のこのイフカの街において、俺と同じ転生者と分かっているのは、今のところこの男だけだ。
 歳は俺と同じか、少し若いぐらい。しかし、冒険者としては二年先輩。
 この街でも五人しか居ない、「四ツ星」ランクのハンターでもある。
 
 ちなみに、この世界において、ハンターと冒険者はほぼ同義だ。
 古代に滅びたという超魔法文明の遺跡を探索し、お宝を見つけるのが最も効率的だが、同時に最も危険でもある……なぜなら、そこには強力な守護者(ガーディアン)が、今も存在し続けているからだ。

 また、これもその文明の遺産なのか分かっていないが、獰猛なモンスターや妖魔達が湧いて出るポイントまである。もっとも、そのモンスター達を倒したときに得られる「魔核」や「魔素材」は、貴重な資源としてこの街の経済を支えているのだが。

 この街の東側、百キロメートルに渡る広大な地域は、その遺跡が点在しており、国家にとっても貴重な収益源となっている。一攫千金を夢見るハンターが集う街、それがこの遺跡攻略都市「イフカ」なのだ。
 
「……それで、その『パパ活』にはどんなメリットがあるんだ?」

 俺は口では無愛想に返事をしながらも、少しだけ興味を持ってしまっていた。

「そりゃあ、若い女の子と知り合いになれるってことだろう?」

「普通の『出会いの場』とか、『出会いのパーティー』とかと何が違うんだ?」

「最初から『歳の離れた裕福な男性』と知り合うことが目的の女の子が集まるってとこじゃないのか? もうお前の歳じゃあ、普通の『出会い系』じゃあ相手にされないだろう」

 そう言われれば身も蓋もないが、納得できる理由ではある。

「俺も興味があるんだが、愛する妻がいる身だから、利用するわけにはいかないんだよ」

 リョウが白々しく、さも残念そうにため息まじりにそう言った。

「……そんなこと言って、俺に試させて、うまくいくようだったらちょっとだけ自分も試してみようと思っているんだろう」

 俺の指摘に、リョウは苦笑いを返してきた。

「まあ、それはあれだ、そのとき考えるさ……それより、『パパ活』なんて言葉を使う店についてどう思う?」

 リョウが小声でそう聞いてきた。
 このバーは結構人気で、まだ宵の口だが、すでに三分の二ぐらいの席が埋まり、ガヤガヤと騒がしい雰囲気に包まれている。逆に言うと、誰かが聞き耳を立てている可能性がある。

「……転移者かもしれないってことか?」

「そうだ。向こうとこっちでは時間の進み方が違う。こっちで一年過ぎても、向こうじゃ一ヶ月しか経っていない……俺たち二人でそう確認したよな?」

「ああ、その計算だと、まだ俺が転移してきてから一年と三ヶ月しか経っていないはず……一度、そいつと会ってみたい気はするな」

「だろう? だから、そのためにも客として登録する必要はあるだろう?」

「……うまい口実だな……けどまあ、一理あるか」

「そういうことだ」 

 リョウの口車に乗せられた感はあるが、第三の転移者が現れたかもしれない、とあっては調べないわけにはいかない。
 俺は早速行動に移った。

 翌日の午後、「ベラクシス・ラディア」の応接室にて、俺は「シュン」という名の男と二人きり、対面で話をしていた。

 シュンは、歳は三十歳手前くらい、ひょろっとした体格で、冒険者、少なくとも戦士や剣士には見えなかった。

「自分の他に転移者に会えたのは、すごくラッキーっす。受付の者から『転移者って名乗る男が来ましたが、どうしましょうか』って聞いたときは、むちゃくちゃ喜びましたよ。こっちに来るときに神様が商売の才能を授けてくださったのでなんとかやってるっすが、一時はどうなるかと思ったっす。この世界で死んじゃったら、今度こそ魂が消滅するってことですし」

 軽薄な話し方から、前世もチャラい男だったんだろうな、と推測した。

「……一応確認なんだが、お前がこっちに来た……つまり向こうで死んだのは、西暦何年何月だ?」

 その質問の答えを聞いて、自分がこちらに来てから一年三ヶ月しか経っていないことが確認できた……やはり時間の進み方が違っていたのだ。

「そうだったんっすね……こんなの、自分だけじゃあ分かんないっすね」

「ああ……だからどうなるっていうわけでもないが……」

「いやいや、凄く参考になったっすよ」

「そうか……ところで、『パパ活』っていう言葉を流行らせたのは、おまえか?」

「はい、そうっす。語感がいいのか、こっちでもすぐに広まったっす。こっちの世界で分かりやすいように、『パパ活ギルド』として参加者を募っているっす」

「ふうん……それって、具体的にどんなものなんだ?」

 俺の言葉を聞いて、シュンはにかっと笑った。

「興味持ってくれてるんっすね。嬉しいです……ここに登録するには、男性は月一万ウェン必要っす。女性は無料っす……ただし、ある程度審査が必要っす」

「審査?」

「そうっす。例えば、一定の年齢を超えていないと、登録できないっす。それを証明する必要があるっす。まあ、この街の者ならばみんな市民証を持ってるっすから、それを見せて貰えばいいんすけどね」

 まあ、この話は納得できる。市民証は契約魔法で本人と紐付けられているので、偽装できない。なので年齢を偽ったりできないのだ。

「なるほどな……男だけ金が必要な理由は?」

「それは、ある程度金をかけられる男性を見極めるっていうのと、冷やかしでの登録を防ぐためっす。無料にすると興味本位で登録するエロい奴がいっぱい来るっすからね……まあ、有料でもみんなエロいですけど……いや、ハヤトさんは違うっすよ。ダンディーなエロさって言うか……」

「……それはどうでもいい。それで、男女をどうやって引き合わせるんだ?」

「それは簡単っす。掲示板で募集したり、スタッフに好みのタイプを言って条件の合う者同士を引き合わせたりするだけっす。そのときの名前は仮名っす。本名を名乗る人もいますけど……そこから後は自由っす」

「自由?」

「そうっす。本人達同士の交渉次第ってことっす」

「……なるほどな、男女が出会う手伝いをするっていうだけか」

「そうっす……でもまあ、一応相場っていうのがあって、一緒に食事する場合、男がその食事代を奢るのはもちろん、別にお手当を五千ウェン~一万ウェン払うのが普通っす」

「……ちょっと待て、なんで食事を奢った上で、金を払わないといけないんだ?」

 俺は呆れてそう聞いた。  
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