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【商店街夏祭り企画】予感
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お祭り当日は、商店街のお祭りルールに従って、朝からちゃんと浴衣を着てお店に立った。
和名では女郎花色ともいわれるベージュの地色で竹柄のシックな浴衣は初めて着る色合い。
けれど母も「若緑の帯との相性もバッチリよ!さすが澄さんね」と絶賛していた。これにローズクォーツを使った自作の帯締めを使ってみたら、意外にもピンクが主張しすぎず、逆に柔らかな雰囲気をプラスしてくれていた。
髪は花火大会の時は片側に下ろしていて暑かったから、今日は高い位置でのポニーテールをキッチリと後ろで三つ編みし、それを内側に向けてくるりと丸め込み、三つ編みの一番下のゴムをてっぺんのゴムと合わせて太めのゴムで結ぶ。仕上げにローズクォーツを散りばめたとっておきの大きめバレッタを留めて後れ毛をヘアピンで固定した。
うん、項がとっても涼しい。
今日はお昼で自分のお店は早じまいして、夕方まではまたお隣のお店を手伝うことにしていた。
もちろんお昼休憩の時にシャワーを浴びることも忘れない。
花火大会の時のように店の入り口は開け放っているから、隣の様子もよくわかる。
途中ユキくんと小野くんがいなくなったなぁ、と思うとキーボくんの姿で何やらビラのようなものを配っていたり、かなり忙しそうに動いているみたい。
わたしはといえば、夕方からの大役にソワソワしながら、時間ばかりを気にしていた。
そう、お昼過ぎに間近でユキくんの姿を見るまでは。
シャワーを浴びて午前中の汗を流し、せっけんの香りのコロンをまとう。急いで着付けをし直してJazzBar黒猫に母と向かうと、少し遅れてユキくんと小野くんが浴衣姿で現れた。
今朝は離れたところから見ていただけだから、ようやくふたりの 浴衣を見ることができる。
え、ユキくんの浴衣って……!
シャワー後のわたしの背中に早くも汗が伝う。
どういうことなの。これじゃまるで、わたし達“お揃い”じゃないの。
ユキくんの浴衣はベージュ系統なのはわたしと似ているけれど、もう少し落ち着いた色。帯は花火大会の時と同じシルバーブラックで、全体的にはとても渋いのに、それが逆に色気を醸している。
問題なのは、その柄。
浴衣地には、水墨画のような竹が描かれている。
色や風合いを変えているとはいえ、澄さんにお借りしたわたしの浴衣地の柄も、やはり竹柄。
まさかとは思うけど澄さん、計算して……??
唖然としてユキくんを見るけれど、彼はその状況に気付いているのかいないのか、わたしを見てにっこりと笑った。
「ユ、ユキくん……その浴衣……ーー」
「素敵です、璃青さん!その浴衣、とても似合っています」
やっぱり二人の浴衣の柄が微妙に似通っていることに気付いてないのね。このひとったら!
どうしよう、これで願い紙を集めて回るなんて恥ずかしすぎる。見た人は絶対に気付くと思うわ。
チラチラとユキくんを見ながら時間を気にしているうちに、とうとう願い紙を集める時間に。
澄さんや母に「頑張ってね~」なんて声援を受けながら、ユキくんとふたり、商店街を歩き始めた。
願い紙を月読神社に奉納する、という風習。それは心に秘めた願いを紙に書き、月の形に折ったものを毎年この夏祭りの時に奉納するというもの。檜で作られた、手提げ式のポストほどの大きさの箱をユキくんが持つ。
商店街の人々は上の口から紙を入れ、手を合わせてもらったら、わたし達もお辞儀を返す。
わたし達は【神神飯店】から回り始めて【魚住】、【桜木茶舗】、そして【櫻花庵】へ。
和菓子屋さんの櫻花庵の暖簾をくぐると、店主さんだろうおじいちゃんと、おばあちゃんが応対してくれた。
「こんにちは。願い紙を頂きに参りました。よろしくお願い致します」
ふたり揃って挨拶をする。
「あらあらあら、なんだか昔の重治さんと桜子さんを見ているようだわ」
「これこれ、若いもんをからかうのも大概にせんと」
「あらー、私は感じたまでのことを言ったまでよ」
「まったくもう。お前はいつもペラペラと」
わわ。ケンカじゃないんだよね?大丈夫よね?
「もう。ごめんなさいねぇ、お爺さん、いつもこの調子で」
「うるさいぞ。お前は黙って饅頭でも食ってろ」
「まーっ。失礼しちゃうわねぇ。あら、そうだわ。あなた達、お饅頭とお茶はいかが?」
もしかして、夫婦漫才みたいなもの……かな。
「いえ、まだこれから何軒か回らなくてはならないので、お気持ちだけ。ありがとうございます」
そのお誘いには、ユキくんがすかさずお断りしていた。
「そう?今度はゆっくりいらっしゃいね。……ところであなた達、お式はいつなの?今が一番いい時よねぇ。ほんと、若いっていいわぁ」
「おい婆さん」
「うふふふふ」
あのー、もしもし?“お式”って何の事です?
この言葉には、さすがのユキくんも返答に困っていた。そりゃそうよね。わたし達、付き合ってもいないんだもの。
激しく否定したいところではあったけど、ここはふたりして苦笑いするしかなかった。
その後、【繁盛ミート】、【居酒屋とうてつ】(色々突っ込まれた)、【篠原豆腐店】、【菜の花ベーカリー】、【Books 大矢】、【呉服紬屋】、【喫茶トムトム】、【篠宮酒店】(やっぱり突っ込まれた)、【美容室まめはる】、そして【民宿ゆめくら】は休業されていたので、そこで全ての店舗を回りきったことになる。わたしは何も手に持っていないのに、さすがに足が怠い。
けれどこの後、もっと大事な役目がある。
高台にある、月読神社への奉納。それが今日、最後にして一番の難関だろう。
暑さを一切表に出さず、涼しい顔で隣に立つ人の所作まで美しい浴衣姿を、ほんの僅か後ろを歩いていたわたしは、歩幅を合わせて貰いながらも遅れがちな足を少しだけ速めながら、自分の瞳に焼き付けていた。
………こんなに綺麗なひと、他に知らない。
宵闇の時間にはまだまだ早い夕暮れの街をふたりで歩きながら、これから行われる儀式を思うとどうしても緊張してしまうけれど、何故かこのひとと一緒なら、どんなことでも大丈夫な気がした。
和名では女郎花色ともいわれるベージュの地色で竹柄のシックな浴衣は初めて着る色合い。
けれど母も「若緑の帯との相性もバッチリよ!さすが澄さんね」と絶賛していた。これにローズクォーツを使った自作の帯締めを使ってみたら、意外にもピンクが主張しすぎず、逆に柔らかな雰囲気をプラスしてくれていた。
髪は花火大会の時は片側に下ろしていて暑かったから、今日は高い位置でのポニーテールをキッチリと後ろで三つ編みし、それを内側に向けてくるりと丸め込み、三つ編みの一番下のゴムをてっぺんのゴムと合わせて太めのゴムで結ぶ。仕上げにローズクォーツを散りばめたとっておきの大きめバレッタを留めて後れ毛をヘアピンで固定した。
うん、項がとっても涼しい。
今日はお昼で自分のお店は早じまいして、夕方まではまたお隣のお店を手伝うことにしていた。
もちろんお昼休憩の時にシャワーを浴びることも忘れない。
花火大会の時のように店の入り口は開け放っているから、隣の様子もよくわかる。
途中ユキくんと小野くんがいなくなったなぁ、と思うとキーボくんの姿で何やらビラのようなものを配っていたり、かなり忙しそうに動いているみたい。
わたしはといえば、夕方からの大役にソワソワしながら、時間ばかりを気にしていた。
そう、お昼過ぎに間近でユキくんの姿を見るまでは。
シャワーを浴びて午前中の汗を流し、せっけんの香りのコロンをまとう。急いで着付けをし直してJazzBar黒猫に母と向かうと、少し遅れてユキくんと小野くんが浴衣姿で現れた。
今朝は離れたところから見ていただけだから、ようやくふたりの 浴衣を見ることができる。
え、ユキくんの浴衣って……!
シャワー後のわたしの背中に早くも汗が伝う。
どういうことなの。これじゃまるで、わたし達“お揃い”じゃないの。
ユキくんの浴衣はベージュ系統なのはわたしと似ているけれど、もう少し落ち着いた色。帯は花火大会の時と同じシルバーブラックで、全体的にはとても渋いのに、それが逆に色気を醸している。
問題なのは、その柄。
浴衣地には、水墨画のような竹が描かれている。
色や風合いを変えているとはいえ、澄さんにお借りしたわたしの浴衣地の柄も、やはり竹柄。
まさかとは思うけど澄さん、計算して……??
唖然としてユキくんを見るけれど、彼はその状況に気付いているのかいないのか、わたしを見てにっこりと笑った。
「ユ、ユキくん……その浴衣……ーー」
「素敵です、璃青さん!その浴衣、とても似合っています」
やっぱり二人の浴衣の柄が微妙に似通っていることに気付いてないのね。このひとったら!
どうしよう、これで願い紙を集めて回るなんて恥ずかしすぎる。見た人は絶対に気付くと思うわ。
チラチラとユキくんを見ながら時間を気にしているうちに、とうとう願い紙を集める時間に。
澄さんや母に「頑張ってね~」なんて声援を受けながら、ユキくんとふたり、商店街を歩き始めた。
願い紙を月読神社に奉納する、という風習。それは心に秘めた願いを紙に書き、月の形に折ったものを毎年この夏祭りの時に奉納するというもの。檜で作られた、手提げ式のポストほどの大きさの箱をユキくんが持つ。
商店街の人々は上の口から紙を入れ、手を合わせてもらったら、わたし達もお辞儀を返す。
わたし達は【神神飯店】から回り始めて【魚住】、【桜木茶舗】、そして【櫻花庵】へ。
和菓子屋さんの櫻花庵の暖簾をくぐると、店主さんだろうおじいちゃんと、おばあちゃんが応対してくれた。
「こんにちは。願い紙を頂きに参りました。よろしくお願い致します」
ふたり揃って挨拶をする。
「あらあらあら、なんだか昔の重治さんと桜子さんを見ているようだわ」
「これこれ、若いもんをからかうのも大概にせんと」
「あらー、私は感じたまでのことを言ったまでよ」
「まったくもう。お前はいつもペラペラと」
わわ。ケンカじゃないんだよね?大丈夫よね?
「もう。ごめんなさいねぇ、お爺さん、いつもこの調子で」
「うるさいぞ。お前は黙って饅頭でも食ってろ」
「まーっ。失礼しちゃうわねぇ。あら、そうだわ。あなた達、お饅頭とお茶はいかが?」
もしかして、夫婦漫才みたいなもの……かな。
「いえ、まだこれから何軒か回らなくてはならないので、お気持ちだけ。ありがとうございます」
そのお誘いには、ユキくんがすかさずお断りしていた。
「そう?今度はゆっくりいらっしゃいね。……ところであなた達、お式はいつなの?今が一番いい時よねぇ。ほんと、若いっていいわぁ」
「おい婆さん」
「うふふふふ」
あのー、もしもし?“お式”って何の事です?
この言葉には、さすがのユキくんも返答に困っていた。そりゃそうよね。わたし達、付き合ってもいないんだもの。
激しく否定したいところではあったけど、ここはふたりして苦笑いするしかなかった。
その後、【繁盛ミート】、【居酒屋とうてつ】(色々突っ込まれた)、【篠原豆腐店】、【菜の花ベーカリー】、【Books 大矢】、【呉服紬屋】、【喫茶トムトム】、【篠宮酒店】(やっぱり突っ込まれた)、【美容室まめはる】、そして【民宿ゆめくら】は休業されていたので、そこで全ての店舗を回りきったことになる。わたしは何も手に持っていないのに、さすがに足が怠い。
けれどこの後、もっと大事な役目がある。
高台にある、月読神社への奉納。それが今日、最後にして一番の難関だろう。
暑さを一切表に出さず、涼しい顔で隣に立つ人の所作まで美しい浴衣姿を、ほんの僅か後ろを歩いていたわたしは、歩幅を合わせて貰いながらも遅れがちな足を少しだけ速めながら、自分の瞳に焼き付けていた。
………こんなに綺麗なひと、他に知らない。
宵闇の時間にはまだまだ早い夕暮れの街をふたりで歩きながら、これから行われる儀式を思うとどうしても緊張してしまうけれど、何故かこのひとと一緒なら、どんなことでも大丈夫な気がした。
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