小説練習帖 九月

犬束

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9月10日(土)

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お忙しいところ、お邪魔してすみません🌕

 実家の犬を散歩させようと 公園に行ったら 少し後悔した ベンチに 顔の四角い 不審な親父が坐っていたからである
 親父の着ているギンガムチェックのシャツは 前身頃の左側が赤で 右が青 ジャージはショッキング黄緑 プラダの白い大きめのショルダーバッグを斜めに掛け 串に刺さったみたらし団子を食べ食べ お皿に並べた月見団子を小さく千切って 周囲侍らせた 十五羽の白兎に与えていた
 こちらに気がついたらしく 兎たちは 高速でショルダーバッグの中に飛び込んだ
 親父が
——やっと来たか 遅ぇじゃないか
 馴れ馴れしく 話しかけてくる
——人違いですよ
 立ち去ろうとすると 名乗りを上げるのに どうやら 月光氏の伯父さんのようだ
 出し抜けに 棒読みの口調でいう
——おめでとうございます お客様が応募された 『オイッスお茶俳句大賞』敢闘賞に 見事入選されました
——やっぱり 人違いです
——副賞は 月世界ツアーでさ 俺が案内しなくちゃなんねぇんだよ
 こっちの話など 聞くつもりはないようだ 聞かないふりをしているのか 本当の当選者を探すのが 面倒になって
——では 月の世界にご案内
 みたらし団子の串を タクトみたいに振る
 次の瞬間 見張るかす先の先まで 働く白兎が雑踏する場所に居た
 竈門に薪を焚べる お湯を沸かす 上新粉を捏ねて千切る 蒸す 突く 丸める 三方に積む 小豆を煮る カボチャを潰す サツマ芋を潰す きな粉をまぶす 皿に盛る お土産用の箱に詰める
——今日はよ 十五夜で テンヤワンヤしてるけど いつもは穏やかで いい所なんだよ
 月光氏の伯父さんの声に 全部の白兎が反応し わたしの連れた犬を見て 音速ほどのスピードで走り去って あっという間に 居なくなった
 親父よ… さっきも公園で 兎がバッグに避難したのを 知ってるじゃないか


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