眩暈のころ

犬束

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眩暈のころ

32. そして、それから 2

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 このところ、中学時代を偲ばせるように、近海が好きだった、写真家のウィリアム・クラクストンのドキュメンタリー番組やら、ローリングストーンズのコンサートやらを、テレビで放映しているのを眼にした。
 ストーンズのは、ブライアン・ジョーンズの追悼ライヴだった。そのブライアンの、死因の謎をテーマにした映画も、映画館へ見に行った。色鮮やかな画面はスタイリッシュで、楽曲も格好良かったし、なかなか面白かったが、ブライアン役のレオ・グレゴリーが老け顔で、むしろミックやキース役の男の子たちのほうが、ぴちぴちで可愛らしいのが、不満でもなかった。

 お正月に帰省した近海を呼びつけ、蝉丸のカフェで夕食を摂りながら、私は訴えた。

「ブライアンに顔立ちが似てなくて好いから、あの素敵な雰囲気の似てる子を、ぜひ主役にして欲しかった」

「あんなキュートな人類は、他におらんのやろかねえ」蝉丸が、カウンター越しに口を挟んだ。

「いないよねー」

「ねー、いや、チェットはどう?」

 近海は、すっかり血肉をそなえ、人間らしくなったと思う。年をとったせいで、肌がくすんだり、たるんだり、脂肪がついたりしたせいかも知れないけれども。他人のことばかり云えないが。

「ハイドパークで、ミック・ジャガーさんが、セリーヌだかラシーヌだかの詩を朗読するでしょう」

 私が云うと、近海が、

「違うよ。パーシー・シェリーだよ」と速攻、冷静な口調で訂正した。

「似たようなもんじゃんよ」

「全く別人だって。青木なんか、トルストイとドストエフスキーを間違えたら、罵倒するくせに」

「しない。しかも似てないし、名前。間違えるような手合いは、そっとしとくんだ。一生、間違え続けたまえ」

「厳しいねえ。おまえは変わらないな。夏休みの間、ほとんど読みもしていないくせに埴谷雄高にはまって、『死霊』に影響を与えた、ドストエフスキーの『悪霊』を読まねばならぬ、ならぬ、としきりに唱えていたけど、読んだ?」

「読まない」

「そう、映画を観ただけで済ましたんだよね。同じ作者つながりで、『カラマーゾフの兄弟』の。しかも映画館でなくテレビで。しかも前半で眠ってしまった」

「喧しいやい。自分に甘いですよ。しょうもないことを、何故覚えているか」

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