32 / 36
眩暈のころ
31. そして、それから 1
しおりを挟む夏にみんなで集まろう、と近海は約束したが、結局、彼は体調を悪化させ、来られなかった。電話では、新しいスウィングトップを買ったので、それを着て行くのが楽しみだと云っていた。いつとはなしに連絡が途絶えた。
その年の夏がどれくらい暑かったか、記憶にない。
あれから、既に十八年がたつ。
のぶおは写真つきの葉書で結婚を知らせて来たが、以降は音沙汰ない。きっと、休日にはジャージ姿にサンダル履きで、絵にかいたような元ヤンキーの親父になっているだろうと推測する。
同窓会のあと、しばらくして、蝉丸経由で聞いたのぶお情報によると、四っつぁんは、二十歳になるのを待たずして、自動車で事故を起こして亡くなったそうである。のぶおと四っつぁんのバンドは、楽器店のコンテストが、“ファーストさよならギグ”になってしまった。
去年の暮れ、百貨店の催事場にて、妻子を連れた四っつぁんを見かけた。他人の空似とか、兄弟でないことを信じたい。
高校時代に、私とバンドを組んだ未希ちゃんも結婚して、私の近所に住んでいる。
マオマオは会社を辞めると、結婚を含め将来について考えたいから、と云い残し、旅に出たまま行方不明になった。戻るのが嫌なら、せめて無事にいる旨をご家族に伝えて欲しいと、切に願う。
蝉丸は実家の雑貨店を手伝っていたが、パートナーとカフェを経営し始めた。
私は適当に会社で事務をこなし、あとは何の変化もなく、部屋も我が身も片づけられぬまま、鬱屈に膨らんだり、萎んだりして、呑気に過ごしている。
蝉丸が、カフェの開店を近海の実家へ手紙で知らせ、それをきっかけにまた、電子メールで彼とやり取りするようになった。
近海は今でも病院に通っていて、薬をいっぱい飲み、アルコールもコーヒーも煙草も、お医者に注意されつつ、嗜んでいるらしい。仕事は、父親の会社の経理をしているようだ。
22
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ロマンドール
たらこ飴
現代文学
何も怖がることはない、ただ真っ直ぐに生きてさえいればーー。
スペインとイギリスのクォーターであるリオは、ロンドンで女優の仕事をしている。祖父のパウロとチャップリンを敬愛する彼女は、恋愛に対して淡白で冷めた価値観を持っているために恋人との関係が長続きしない。また、女優には致命的な無表情であるという問題も抱えていた。だがそれには実は大きな理由があった。
リオはある日、次世代アイコンと称される大人気シンガーソングライターのUmiと出会う。人生や人に失望し、恋愛に対して淡白という部分で意気投合した2人は、名前のない関係性の中で通じ合っていく。
そんな時リオは祖父の友人のチャドから、自分が監督をする自主制作の映画に出ないかと誘いを受ける。
出演を決めた彼女は共演者やスタッフたちと充実した日々を送っていたが、周りで人種問題を想起させる事件が頻繁に起こるようになり、社会や自分自身と向き合っていく。
世の中の理不尽さや人間の汚さに翻弄されながらも、リオは周りの個性豊かな人間たちとの触れ合いの中で救われ、同時に変化・成長していく。
生きることに不器用ながらも、ユーモアと静かな優しさを持って前を向こうとする1人の少女の物語。
※ この作品はフィクションです。暴力行為、犯罪行為を助長する意図は一切ありません。
※人種差別、LGBT、いじめ、銃に関する描写が出てきますが、いじめや差別、犯罪行為を助長する目的でなく、問題提起をする意図の表現となりますのでご理解のほどよろしくお願いします。
漁村
ジョン・グレイディー
現代文学
第二の人生を海に求める男
積雪の中、悠久の街道を海に向かって北上する。
漁師になることを夢見ながら、寂れた漁村での男の生活が始まる。
ある日、漁港の防波堤でロットを振る若い女に出会う。
男は女に釣りを教えながら、過去の淡い因果を女の中に感じ取る。
男と女の運命的な繋がりが見え隠れする中、2人はこの寂れた漁村での共同生活を始め出す。
男は、失ったはずの夢と恋を海に求める。
人生に頓挫した中年男性と突如として現れた若い女性との人間ドラマ。
ライオンガール
たらこ飴
現代文学
「なあレオポルド、君の心臓を僕にくれないか?」
火の輪をくぐるライオンのように、強く勇敢であれたらーー。
アヴリルは、どこにでもいる普通の女の子だった。少し違うところがあるとしたら、ボーイフレンドが絶えないこと。好きでもない相手と付き合ってばかりで、心から愛する人には出会えない。
シドニーで暮らしていた彼女は両親の離婚により、南米アルゼンチンのブエノスアイレスに引っ越す。だがそこで待っていたのは、一人の女からの嫉妬による陰湿ないじめだった。
そんなある日、彼女はある理由からネロという青年に化けて、引きこもりの伯父ケニーとともにアルゼンチン最大のスラムであるバラックエリアに足を踏み入れ、銃撃戦に巻き込まれる。
命からがら逃げた二人が乗り込んだのは、イギリスから来たサーカス団『ミルキーウェイ・トレインサーカス』が移動に使うためのサーカス列車だった。
サーカスの最終公演地が大切な友人であるオーロラが引っ越したロンドンと聞き、アヴリルはネロの姿のままで旅に同行することに決める。
動物の世話や雑用をするという条件でロンドンまで乗せてもらうことになるものの、クラウンを演じることになり、冷酷で非道な団長の下練習が始まる。
喜びや痛みを分かち合える仲間たちと出会い友情を育む中で、アヴリルの中にこれまでとは違う感情が生まれ始める。
※作中に出てくるパフォーマンスは宮沢賢治作『銀河鉄道の夜』プリシオン海岸のクルミ発掘の場面をモチーフにしていますが、実際の内容とはかけ離れた寸劇になっていることをご了承ください。
※参考文献は最終ページに記載しています。
※この物語はフィクションです。実在の人物、団体などとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる