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眩暈のころ
30. ほぼ二十歳のころ、再び 3
しおりを挟む「青木は、最初に会った時、早死にしそうな相貌だと思ったから、随分と心配だったけれど、もう大丈夫になったね」
「まじか、あたしが?」
「そうだよ」
私は驚いて、己の容貌を省みたが、全然そんな風には思われなかった。
「そうかなあ?」
「そうだよ」近海は繰り返し云った。「危なっかしくて、はらはらした」
卒業式の別れ際、近海が私に「青木には俺がついている」ではなく、「青木には俺がいる」と云ったのは、そう云う意味合いであったのかと、納得した。
近海は私を同類と見なし、蝉丸はそれを彼が私の兄貴分のつもりでいると解釈した。近海が見守ってくれていたのかと思うと、心の底が暖かくなるような気がした。
「近海は体、大丈夫なの」
私が訊くと、近海は上着とシャツとパンツのポケットをさぐり、沢山の錠剤を大きな手のひらに載せて、私に示した。数えてみたら、二十錠ちかくあった。
「風邪と胃炎の薬も混ざっているから、いつもはこんなに飲んでないけど。だから今のところは、アルコールを控えてる。コーヒーと煙草は止められないね」
そして近海は、不安の発作が起きた時分のようすだとか、鍵のかかる病室に収容された事だとかを話してくれた。
近海が喋っている間、私は落ち着かなく、髪を触ったり、やたらと煙草をふかしたり、ガムを噛んだりしていた。回復しきっていない近海は、体温が低そうで、言葉に抑揚がなく、存在感も希薄だった。
私は近海でなく、外国人への好奇心をよそおいながら、
「ちなみに、あんたがエスコートしてたギャルたちは、どのような方なの」
「親戚がホストファミリーをしてて、そこで預かってる女の子たちだよ」
「近海は支障なく会話できるんだ」
「一応、通じてるかな」
「あの子らも、よその国で学びたいなんて、偉いよねえ」
近海は、内容のない世間話を断ち切るように云った。
「夏には、墓参りに戻って来るから、また、みんなで集まろうか」
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