眩暈のころ

犬束

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眩暈のころ

29. ほぼ二十歳のころ、再び 2

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「まさに、噂をすれば影、じゃん」は蝉丸ではなく、私を肘で小突き、「近海、久しぶりいー」と歓声をあげながら、近海に駆け寄って行った。

 いざ彼が出現したとなると、私は気後れがして、その場を動かれなかった。
 ゆっくり振り返ってみたら、密集した黒い頭の中に、ひときわ高く近海の顔が見出された。初めて見た時と同様、横着そうな泰然とした表情で、出迎えた友人たちを睥睨していた。
 何故だか彼は、金髪の若い白人女性を伴っていた。

 蝉丸が私の耳元でささやいた。

「何者やろ、あのジェニファーは」

「ジェニファー限定ですかい?」

「ワイフかな。あれあれ、もう一人、ブリュネットのギャルもおるよ」

「もてもてじゃんねえ」

 私はがっかりした。そうして、所詮近海には釣り合わないのを、認めなければならなかった。

 近海を囲む輪の中に加わりながらも、私は居心地の悪さを感じ、意識の半分くらいを、どこかに浮遊させていた。自分から彼に話しかけるのは、照れくさくて、ためらわれた。
 近海は、おしゃれっぽいパーマをかけ(似合ってないのに)、濃い色の格好良いジャケットをはおっていたが、全快したようではなく、白い顔で、ハンガーに吊るしたみたいに胸がぺたんこだった。

 耳を圧する機械的な爆音や、濁った空気や、人混みに酔い、私はうんざりしてフロアを出た。
 ロッカーの側面に凭れて煙草をふかしていたら、こめかみの辺りを、指先でやわらかく突かれた。慣れた、親密そうな接触の仕方で、なんだと思って見てみると、近海だった。
 あんな風に、いつも女の子に甘ったれているのか、と勘ぐりたくなるほど、物馴れていた。眼線がぶつかると、近海は不遜に微笑んだ。お互い、何も云わなかった。

 へらへらするばかりで、黙っている私に、近海が云った。

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