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眩暈のころ
27. 高校生のころ(卒業前) 7
しおりを挟む卒業を待つだけの、自由登校の時期。雲の重く垂れこめた雨の降りそうな夕暮れに、男と連れ添って商店街を歩いていたら、踏み切りの向こうから、近海がこちらへ来るのが見えた。
黒いロングコートを着て、ああ云う様子を影が薄いと表現するのだろうか、からだの半分が空気で構成されたみたいで、異様におどおどしていた。
皮膚の表面に、過剰に研ぎ澄ました神経を剥きだしに張り巡らせ、わずかの風の揺らぎにさえ、責めさいなまれているようだった。
元々太ってはいなかったし、面やつれもそんなにしていなかったが、痩せこけて、胸などは可哀想なくらい薄っぺらだった。
近海は、下瞼に溺れそうな暗黒の瞳で、伺うように私を見ていた。辺りは暗く灰色に沈んでいるのに、近海の顔だけは、白く浮かんでいた。抜けるような白さではなく、紙のような、不安な白さだった。
彼は何か訴えたげに、口を開きかけた。
近海と私の間に遮断機が下りた。電車が走り去った。すると、そこにはもう、彼の姿はなかった。
「あいつ、誰?」
連れの男が尋ねたので、幻覚ではなかったらしい。
「中学の同級生」
「ふーん」
彼はそれ以上追求しなかった。私も、近海との微妙な係わりを説明しづらく、何も云わなかった。私は切なくて、近海が気がかりで、近海のことで頭が占領され、黙りこくってしまった。
じきにその男とは別れた。
そいつと共通の友人が、「何も云ってくれないから、どうして欲しいのか分からない、って、云ってたよ」と洩らしたけれど、私に要求はなかったし、秘密主義でもなかったつもりだが、彼は私を持て余していたに違いない。
私は自分ばかりを可愛がり、彼をおざなりにしていた。あるいは、他人との付き合いを怖れていた。
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