眩暈のころ

犬束

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眩暈のころ

22. 高校生のころ(初夏) 2

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 家に帰る途中で、橋の袂のライブハウスに寄ってみた。前乗りしたモッズのメンバーに、うっかり遭遇しないか、あわい期待を抱いていたが、さすがに無駄だった。リハーサルの音も聴こえてこなかった。

 建物の脇を通り抜けると、裏は川に沿って児童公園が延びており、ライブハウスに来たひとたちの自転車や単車置き場としても使われている。あきらめの悪さをたしなめつつ、裏に廻ってみたら、数人の少年がたむろしていて、その中に近海がいた。
 木陰に佇み、おだやかな表情を浮かべた白い横顔が、たとえようもなく美しかった。透明な緑の木漏れ日をまとい、薄いクリーム色のシャツを輝かせ、浄化された魂の形がそのまま顕現しているみたいだった。
 私はうっとりと彼に見とれ、息をつめ、からだを動かすことも出来ずにいた。
 
 繰り返して云うが、近海は決して美男子のタイプではない。それにもかかわらず、あまりに美しく、美しすぎると云う意味ではなしに、どこか異様で怖ろしかった。

 蝉丸とは幾つもライブを観に行ったので、記憶が混ざっていて、モッズの公演ではないはずなのに、演奏中に近海がステージに上がり、踊っていた場面が、その日のようすとして思い出される。多分、が他のアマチュアバンドと出演したイベントだったのではなかったか。
 近海は長い手足でめちゃくちゃに暴れて、曲が終わると、何事もなかったかのようにフロアに飛び込んだ。奇妙な色を組み合わせたストライプのTシャツと、膝の破れたジーンズを身に着けていた。

「何か、面白れぇ芸でもやってみな!」

 そう叫んだのは蝉丸なのに、近海が、ステージの袖から登場するなり冷かしたのは私だと、彼女は云い張る。



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