眩暈のころ

犬束

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眩暈のころ

21. 高校生のころ(初夏) 1

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 蝉丸に、将来の展望について問い糺したことはない。食物科を選んだからには、それなり考えるところがあったのだろうと、置いてきぼりを喰らったようで、淋しかった。
 私は、県立の美術科は倍率も高いし、予想通り落っこちて、私立の方に入学した。

 高校生になってからも、蝉丸とは、休みの日にコーヒーを飲みに行ったり、ライブに行ったり、映画を観るつもりでうどん屋で待ち合わせたものの、面倒くさくなって、そのまま店でだらだら喋りつづけたりした。
 勿論、いくら私の人見知りが激しくても、学校にいない彼女を頼りには出来ないから、次第に級友たちとも打ち解け(ごくごく少数)、女三人でバンドを結成するまでになった。

 バンドは初心者揃いだった。発端も経緯も、まるで覚えていない。
 とりあえず何か簡単な楽曲をコピーしようと云うことになったが、易しいのか難しいのかさえ、聴いただけでは判断しかねた。それでも、音数の少なさで、初期のストーンズに決めた。決定したのは私ではないので、近海は関与しない。

 再び、私は楽曲店を巡り歩くようになった。従姉のいらなくなった黒いエレキギターが、ボディにエフホールを描いたグレッチみたいなデザインとフォルムで、すぐに気に入り、一万円で譲ってもらっていた。だから今度は、消耗品やらスコアなどの実際的な購入のための、楽器店巡りであった。表向きは。
 本音は、近海と出会わないか期待していたのである。目的が近海なればこそ、色々のお店を廻っていたのだった。
 あらかじめ結果を白状してしまうと、どんなにうろついても、ねばっても、楽器店では彼と邂逅しなかった。

 近海を偶然見かけたのは、川沿いの公園で、若葉の季節だった。
 蝉丸と電話で話していたら、「次の土曜、もう明日やけど、ザ・モッズがやって来るんよ。どう?」と誘われ、一緒に行くことにした。蝉丸は学校が遠いし、用事もない私が、当日券は売り切れるかも知れない、と勝手にあせって、放課後チケットを買いに走った。

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