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眩暈のころ
20. 中学三年のころ(卒業式) 18
しおりを挟む近海の云わんとするところは掴めなかったが、涙がこぼれそうになるので、もう止めてほしいと思った。口をひらくと泣きそうなので、私は多分、拗ねた幼児みたいな顔で、うつむき加減で、近海の手に自分の手を重ねた。
近海の手は大きくて、指の内側と手のひらがふかふかで、暖かかった。ずっと触れていたかった。
「俺を覚えていてくれ。青木が仕合わせで忘れるのなら、かまわない」近海は力をこめて私の手を握ると、すぐに離した。こなれて、スマートな握手だった。「またいつか会おうぜ」
私は努めて明るく云った。
「帰り道で遭遇したら、知らんぷりするわ。気まずいじゃん」
近海は、格好いい、みたいに手をふり、去って行った。最後まで、斜にかまえたような、憎たらしいような、彼らしい態度だった。俄かに、風が冷たく感じられた。
そのとき、私はひどく後悔していた。何故もっと、近海に係わろうしなかったのか。
からかうような輩は放っておけば好いし、のぶおがこっそり教えてくれた通り、近海の恋人が本当に女子大生であっても、私はその地位を奪いたいわけではないのだから、怯える必要はなかったのである。
だからと云って、今すぐ呼び止めて、これからも交流をつづけてほしいとは、云い出しかねた。
近海への愛着が徐々に実感されて来ると同時に、彼を偶像化してまで憧れたがっている自分が不可解で、こっけいに思われた。
卒業アルバムの近海は、今にも崩れおちそうな漠然とした表情をうかべ、既に死んだひとの写真らしく見えた。
俗界の垢が浄められたようにきれいで、なお且つ、猟奇事件の犯人か被害者みたいに凶々しかった。
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