眩暈のころ

犬束

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眩暈のころ

17. 中学三年のころ(クリスマス前) 15

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 クリスマスの数日前、補習で近海に世話になった時とほぼ同じ面子がそろい、の家でささやかなパーティーを開いた。中心にいるべきはずの近海の参加は、望むべくもなかった。

 のぶお邸は小ぢんまりした平屋の賃貸住宅で、何故だか昼間でも薄暗かった。母親は仕事に出かけ、弟と妹もいるらしいようだが、まだ帰ってなかった。
 狭い居間の炬燵に六人だか七人だかで窮屈に足を突っ込み、のぶおのお母さんが作っておいてくれた、ちくわカレーを食べた。ちくわを混入したカレーは初めてだったけれど、とても美味しかった。
 シールだらけのベビー箪笥とか、三段ボックスにのぶおの教科書が並べられている様子とか、雑然とした世帯じみた室内ではあったものの、それなり整頓され、居心地は良かった。

 カレーを平らげると、小遣いを出し合って買って来たケーキにローソクを灯し、スナック菓子を広げた。のぶおにふるまわれるまま、私はそこで初めて喫煙した。喫み方が分からず、口先で煙をふかすだけで得意がり、案外簡単だと思っていた。
 お腹が膨れて、喋るのも億劫になり、誰からともなく漫画を読みだした。

 のぶおはベースを抱え、所在なさげに弦を弾いては、

「近海も俺らのバンドに入ってもらいたかったなあ。無理だよなあ。あいつは格が違うもんなあ」と、アルコールをきこしめした訳でもないのに、低く愚痴っていた。

 私は切なくなるので、近海の話題だけはしたくないような、近海の話題しかしたくないような気分だった。のぶおから明瞭はっきり聞いたことはないなりに、彼が近海をリスペクトしているのは感じられた。

 時期は忘れたけれど、隣の組に極悪と噂されるヤンキーのボスがいて、力を誇示するためか、うちのクラスの男子を一人ずつ呼び出しては、制裁を下していたらしい。
 彼氏が召喚されたと云う香奈ちゃんの証言によると、その彼氏は空手を習っているので事なきを得ず、あと、近海もまた、負けていなかったようだ。
 近海は、「喧嘩は嫌だね。したくもない」ともらした事があったが、売られてしまったからには、買ってやらなくもない、理不尽に男子たちの恨みを晴らしてやったのではないかと考える。

 のぶおの彼への憧憬は、音楽的才能ばかりでなく、その辺の恩義も影響しているのかも知れない、知らんけど。

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