眩暈のころ

犬束

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眩暈のころ

10. 中学三年のころ(夏休み) 8

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 コンテストは、夏休みが始まって最初の日曜日に開催された。会場は、楽器店が入っているビルの三階にあるホールで、優勝したバンドは、スタジオで録音した楽曲をレコードにしてもらえるらしかった。
 近海はさておき、までもが生意気に、入賞したらオリジナル作りに挑戦してレコーディングしよう、と張り切っているのがしゃらくさかった。

 ホールは小さいながら、それでも、クッションの青い折りたたみでないパイプ椅子は、百くらい並んでいただろうか。壁も濃い青色で、ステージは低くく、子供の発表会を見に来ているような雰囲気だった。
 蝉丸と私は、最後列の端っこに坐った。受験勉強に忙しいだろう級友たちも、まあまあ来ていた。全体的に客層は地味だったように覚えている。

 のぶおのバンドは、早い出番だった。思ったより下手ではなかったが、懸命にふざけたようすがいじらしく、見ていてはらはらした。

「保護者になった気分だ」私は云った。

「やっぱし青木も? うちも心臓が痛いわ」と、蝉丸は胸を押さえ、気分をまぎらかすように、「ほんでも、あんだけ弾けたら上等じゃんね」と云った。さすがに、「へぼい」と、けなす余裕はなかった。

 近海たちは後半に登場した。
 クーラーがきいているとはいえ、暑苦しいのに全員が詰襟の学生服を着こみ、白いコンバースをはいていた。学ランは、おっかない顔のドラムスだけ非常に長く、前の三人は短かかった。
 憎たらしいくらいに堂々として、まったく萎縮していなかった。臆病な私と違い、言動をセーブしたり、通信簿に「大人しい」とか、「消極的」とか、評されることは絶対になかろうと推察された。

「蝉丸さんが云ってた、鏡の前のイメージトレーニングの成果ですかね?」

 私がそう耳打ちすると、

「だって、あいつら、でっかいもん」蝉丸は中身より外見で決めつけた。


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