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眩暈のころ
07. 中学三年のころ(初夏) 5
しおりを挟む近海は、何処かに預けていたのか、黒いソフトケースに入れたギターを肩にかけ、三、四人の少年を従えていた。彼の連れは、そろいもそろって全員のっぽで、きりっとしたのやら、おっかないのやら、色々の風貌をとりそろえている。
見慣れたはずの制服の白いシャツが、初夏の日差しにまばゆかった。まるきり知らない町で、懐かしい顔に巡り会ったみたいで、私は無性に泣きたくなっていた。
ここで近海と別れてしまったら、もう決して会えないような気がして、彼にすがりつきそうだった。
「あたしは蝿か」と私は平静をよそおいながら云った。
すると近海は、私を見下ろすほど傍に寄って来て、
「じゃあ、マッチ売りの少女にたとえよう。ガラスの向こうに、夢を見ている」
「こっ恥ずかしいから、蝿で好いや」
「あれは幻じゃないし、店員に云ったら、試し弾きさせてくれるよ。俺が頼んでやろうか。だけど、一回弾いちゃったら、絶対離したくなくなるけどね」
近海はふしぎと、諭すように優しく云った。案外、おせっかいな性分なのかも知れない。
「だったら、やめとく」私は云った。「やばいじゃん。あんなの、買えれないよ。借金地獄は避けたい」
「それは残念だな。青木が買ったら、まきあげようと思ったのに」と近海はやわらかく微笑んだ。
黒眼がちの濡れた瞳が、あどけない仔犬のようだった。上唇の左端に、小さな黒子があるのを発見し、私は急いで眼をそらした。
近海の友人たちは、とっくに店の中に入って行ったのに、彼はまだ仲間を追いかけようとはしなかった。引止めるつもりはないので、私のほうがじれったい。
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