眩暈のころ

犬束

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眩暈のころ

06. 中学三年のころ(初夏) 4

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 季節が変わり、夏服になっても、相変わらず呑気に遊びつづけ、およそ中学三年生らしからぬ日々を過ごした。
 音楽や映画のレアな情報を、さも得意らしく披露しあうことはあっても、近海と席時を競うことは、まるでなかった。

 近海に触発されたわけではないが、当時の私はエレキギターが、しかもグレッチが欲しくてたまらなかった。己の性格を省みて、買っただけで満足し、めんどうな練習はせず、すぐに押入れのこやしにしてしまうのは明らかだった。
 天袋にはすでに、キーボードやバイオリンや、お古のフォークギターが陣取っていた。そのくせ諦めきれないで、学校の帰りに楽器店へ立ち寄り、ショーウィンドウにはりついて、白やオレンジのボディに金色の金具をぴかぴか光らした、高価なギターを眺めていた。

 土曜日の昼下がり、学校の帰りがけ、いつものように、ショーケースのグレッチにうつつをぬかしていたら、

「やあ、貧しいとこの子がたかってるぜ」

 すぐ近くで近海の声がした。

 視界のはしに、むさくるしい連中がやって来るのはみとめていたけれど、鬱陶しいので見ないふりをしていたから、まさか近海が居るとは思わなかった。
 学校以外の場所で彼に会うのは初めてで、私は何故かしら慌てふためき、挙動がおかしげになるのが、自分でも分かるほどだった。





 
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