眩暈のころ

犬束

文字の大きさ
上 下
5 / 36
眩暈のころ

04. 中学三年のころ(春) 2

しおりを挟む

「あー、分かった。なるほどねえ」と蝉丸が納得したように頷いた。「近海はバンドしよるけん、ステージにあがった時なめられんように、普段から練習しよんやないの。ギターかまえて、鏡の前で」

「何の練習だよ」

「かっこつける練習」

 蝉丸の推理はともかく、いささか興味を惹かれなくもない話題だったので、私は、

「バンドやってんの」と尋ねた。

「ストーンズのコピーバンド。遊んでばっかしみたいやのに成績ええんやもん。体育は得意やし、おまけに背ぇはでっかい。不公平やと思わん?」

 蝉丸は幼少のみぎりより、ミルクを飲んで身長を伸ばさんと勤めているそうだが、成果はまだ現れてはいなかった。

「天は二物を与えるからね」

「せめて、男前じゃなくて良かったわ。いやいや、男前なら良かったんよ。そしたら、全てを許してやるのに」

「ライブとか、やってんのかなあ。うちの学校の文化祭、コンサートみたいな気の利いたイベントないじゃんか」

「楽器店のしょぼいコンテストに出たとか、出れんかったとか、云いよった気がする」

「中坊ではライブハウスは無理だわね」

「青木は好きなん?」

 いきなりな質問にぎょっとして、返答に困っていたら、

「ストーンズ」と蝉丸は私の動揺に気がつきもせず、あっさり云った。

「ブライアン・ジョーンズさんは素敵」

「ビートルズなら、スチュアート・サットクリフさんじゃねー」

「ねー」

 結局、話題はそのまま、六十年代の洋楽のほうへうってしまい、近海の噂はお仕舞いになった。私は安心したような、がっかりしたような気持がした。


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...