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第三章 海辺の光線 Boire la mer
2.
しおりを挟む友人たちは、遊びであれ、アルバイトであれ、休暇を有意義に過ごしているようだ。それに引き換え、僕はふがいなく、漠然と時間を浪費している。
いくら田坂さんを気にしたところで、結局はアイドルを追いかけているようなものだ。むしろ、本気でアイドルを追いかけているマニアならば、それなり充足しているだろう。
太陽はさらに烈しく照りつけ、眩しさに眩暈がしそうだった。
海水浴場は次の日曜日まで営業するらしい。混雑はしていなかったが、砂浜に立てられた赤や青のビーチパラソルは少なくなかった。強い光のために、ほとんど色を失った空と、水色の波。手をつないで歩く恋人たち。悪い眺めではない。
不意に思う。僕が自分に自信を持てないのは、当たり前のことなのだ。何事をも成し遂げていないのだから。弱く無防備で、寄り添って支えてくれる誰かを欲している。そのひとは僕に勇気をあたえてくれ、僕はそのひとのために強くなれるだろう。きつく抱きしめて、そのひとを離さないだろう。
僕は背筋を伸ばし、表に出た。
『別荘へ行っている、従兄弟に連絡してみよう。合流できるなら電話をする。あの邸に留まっても、撮影の現場を体験できる訳じゃないし。塾講師のアルバイトが不採用になったから、一年生の夏休みは余暇にあてるって決めたんだもの、愉しまなくちゃ』
さっきのカフェの駐車場まで引き返した。やはり暑さに耐えきれず、店内でPerrierのリモナードを注文する。窓際の卓子席で、道ゆくひとたちを眺めるでもなく、眺める。
背の高い、痩せた男性を見かけると、つい目線をやってしまうけれど、顔立ちも、躰つきも、身のこなしも、着こなしも、何もかもが僕の探しているひととは決定的に違っている。
だって、あのひとは、いわば夢の世界に属するひとなのだ。違う種族は棲み分けた方が平和だ。
LINEで、従兄弟に、メッセージと画像を送信する。ナオキ先生や花や、厨房の三魔女たちと一緒に写した記念写真だ。父方の従兄弟が、ほぼ同じ顔の並んだ様子を愉快がってくれるのを期待して。
従兄弟からの返信は、意外なほど早かった。今年も山小屋——別荘が山の中にあるので、彼らはそう呼んでいる——へ行く予定だったけれど、(まだ確認されていない)熊の被害が怖いからと母親に止められ、仕方なく両親のお供をして温泉旅館に宿泊しているらしい。
今からでも、どこか羽を伸ばせる遊び場所を知っているなら、即刻知らせるようにと、結ばれている。
交友関係が広い花のママなら、どこか穴場を紹介してくれるかも知れない。
そのように従兄弟に送信し、僕は席を立った。
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