小説練習帖 十月

10月12日（水）

　さて、あの夜、数えるほどだったにせよ、二人きりで過ごしたあの夜の時間。彼がそばにいなくても、同じ邸に住んでいた親しみ。どこへ出かけたとしても、同じ家に帰る安心感。さよならをいって、それぞれの暮らしに戻るのではなく、任意の相手に別れを告げて帰るわたしの居場所は、同時に彼の居場所でもある、その愛おしさ。
　しかし、今ではすっかり事情は変わってしまった。彼はいないし、わたしが彼のそばへ行くことも出来なかった。それが日常であったはずなのに。彼を身近に感じられないだけで、これほど孤独に苛まれるとは。