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否応なしに〈16〉
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「気色悪いー……」
つぶやきつつ、好奇心に惹かれたらしいシモンは、さらに腕を伸ばし、ついには一歩、鏡の向こうに踏みこんだ。
眼の前の出来事なのに、まったく実感が伴わない。
そうして、シモンは姿見のフレームをくぐりぬけると、振り返ってこちらを向いた。居ないはずなのに、鏡にはバーテン女子とわたしの間に、彼が立っている。
「そっちは、こっちと様子が違う?」
と、わたしは訊ねてみた。
「空気感も気温も、店内や外の景色も、一緒。変わったところは、今のとこ見つからないね。左右が逆で、あと、白いバラが、一直線上に生えていることくらいかな。ちなみに、三人とも鏡に写ってる」
「じゃあさ、さっきみたいに、こっち側に腕を出してみて。でさあ、彼女の手をひいて、そっちに行けるか試してみてよ、せっかくだから」
「せっかくなのかなあ」と、若干渋りながらも、上半身をこちらに乗り出すようにして、バーテン女子の手を引いて後退りすると。
「あ、ダメっスわ」と、女子は鏡面にパンチをした状態で。
わあわあ騒いでるうちに、iPhoneから流れる謎の言葉は聞こえなくなっていた。
「画面も復活してる」と、シモンはモニター画面をこちらに示した。
「まだ、信じられないし、何も起こらない、意味もないかも知れないけれど、このバラをたどって行ってみるよ」
シモンは表の方へ眼を遣った。そして、わたしたちに軽く合図をして、店から、わたしたちの視界から出て行ってしまった。
さて、では、シモンが出かけている間、さっきからレストランで盛り上がっている、スカバントの演奏が気になってしょうがないので、ちょっと踊りに行ってきます。
繋ぎとして、シモンとバラをイメージした物語を置いておきます。次回からは、しばしそちらをご覧ください。
つぶやきつつ、好奇心に惹かれたらしいシモンは、さらに腕を伸ばし、ついには一歩、鏡の向こうに踏みこんだ。
眼の前の出来事なのに、まったく実感が伴わない。
そうして、シモンは姿見のフレームをくぐりぬけると、振り返ってこちらを向いた。居ないはずなのに、鏡にはバーテン女子とわたしの間に、彼が立っている。
「そっちは、こっちと様子が違う?」
と、わたしは訊ねてみた。
「空気感も気温も、店内や外の景色も、一緒。変わったところは、今のとこ見つからないね。左右が逆で、あと、白いバラが、一直線上に生えていることくらいかな。ちなみに、三人とも鏡に写ってる」
「じゃあさ、さっきみたいに、こっち側に腕を出してみて。でさあ、彼女の手をひいて、そっちに行けるか試してみてよ、せっかくだから」
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「あ、ダメっスわ」と、女子は鏡面にパンチをした状態で。
わあわあ騒いでるうちに、iPhoneから流れる謎の言葉は聞こえなくなっていた。
「画面も復活してる」と、シモンはモニター画面をこちらに示した。
「まだ、信じられないし、何も起こらない、意味もないかも知れないけれど、このバラをたどって行ってみるよ」
シモンは表の方へ眼を遣った。そして、わたしたちに軽く合図をして、店から、わたしたちの視界から出て行ってしまった。
さて、では、シモンが出かけている間、さっきからレストランで盛り上がっている、スカバントの演奏が気になってしょうがないので、ちょっと踊りに行ってきます。
繋ぎとして、シモンとバラをイメージした物語を置いておきます。次回からは、しばしそちらをご覧ください。
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