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ナンパ

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昼前、買い物の時間。結局あやかさんは辞めたようで私一人だ。一瞬、ほんの一瞬晶様の言葉が蘇る……でも頼る義理はない。それにみなさま、ここでも仕事なり勉強なりをしているようだし。私はバスに乗った。

いつもの店で買い物を終えて、バスを待つ。そんな私に、突然声がかけられた。

「すみません、地元の人ですか?ここに行きたいんですけど、分かります?」
「ああ、そこならここを右に曲がって……」

運良く知っている場所だったので、ジェスチャーも交えて説明する。わかってくださったようで、微笑まれる。

「本当にありがとうございました!!!あなたのおかげで大切な用事に間に合いそうです。そうだ、よかったら今度お礼させてください」

スマホを取り出される。スマホがないことを素直に伝え、お礼もいらないと断ると、どうやらそれを遠慮だと受け取ったらしい。どんどんねちこっくなる。

「ですから本当に大丈夫ですって!」
「ならそこでお茶だけで、も……」

ふわり、肩に心地よい重みと体温を感じた。

「なんやあ、こいつ?俺らの仲、邪魔するん?」

筋肉質でオールバック。くるりと所々うねっているのがこだわりポイントらしい。内面を知れば、趣味の悪いゲームをすること以外、優しくていい人だが、はてさて初めてのこの人にはどう見えたんだろう。目の前の人は明らかに顔が青くなって、口篭りながら逃げていった。

「もお!呼んで言うたやん、それに着いたら着いたで厄介事巻き込まれとるし……いいか?あんな男つけ込んでくるだけやから無視しい!」
「でも、道を聞かれて……」
「あそこにマップあるやん」

指さした先には、確かにマップ。目から鱗とはまさにこの事。

「え、もしかしてみさちゃん、気付いてなかったん?」

笑いを堪えられているのがわかる。渋々頷けば、吹き出された。

「……たまたま気付かなかったのでしょうがないです」
「にしたって限度あるわ!!!はーおもろ。みさちゃん天然すぎやんな」

頭をよしよしと撫でられる。

「こういうの、嫌です」
「可愛くてしとるんやもん。なら可愛いことすんのやめてや」
「あなたの可愛いの判定分かりませんので無理です」
「あっはっは、ほんま言うようになったなあ!」

ますます上機嫌になられた。かと思いきや、急に真面目な顔をされる。

「でも、約束破ったもんなあ。そんな子にはお仕置が必要やなあ」
「約束って……?」

はっ、と思い出す。そういえば、「お勉強」って……
私の表情で気付いたらしい。にんまり笑うと、また機嫌よさげに笑って、手を取られた……しっかり恋人つなぎだ。

「はーい。わかっとんのならええで~、じゃ、まず家戻ろっか」

有無を言わさず両手の買い物袋も奪われる。手に関しては抵抗するのを諦めて、私はバスに乗った。

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