15 / 153
ひとつの視線
しおりを挟む
町を歩く道すがら。
「あれ、咲夜様は?」
ふと、人数が足りないことに気付く。
「どうせその辺の屋台につられたんやろ、ほうっておき~」
みなさまは慣れた様子でそう言うけれど、私にとっては大切な大切なお客様。何かあったら大変だ。
「私、探してきます!」
私は1人、来た道を走って戻った。
屋台につられて、その言葉通り、咲夜様は今まさに屋台で何か買うところだった。
「咲夜様!みなさまもう向こうに行ってしまわれてますよ」
「ん、ああ、悪い」
歩き出したはいいものの。気づけばふらりふらりといなくなる咲夜様。もうしょうがない。私は腹をくくった。
「咲夜様、手を繋ぎましょう」
ずいと手を差し出す。誘導するなんて、見守っておくなんて、子供扱いしてると怒られるだろうか。でもしょうがない。このペースじゃあ他の人たちの元にたどり着けない。
「……ん」
大人しく、繋がれる。そのまま町をすいすい進む。咲夜様は無口な方だから会話がなくて。そのせいで、繋いでいる手に意識が向いてしまって。
ごつごつしてるのは、剣道のせいだろうか。よく鍛えられた、よく使われている手、そんな印象を受ける。そしてとにかく暖かい。カイロのようなもの。先程まで寒かったのが嘘のように、今は全身ポカポカしていた。
「あっ!見えましたよ!」
そう言って手を離す……離そうと、した。
「あの、咲夜様……?」
遠慮がちに見上げれば、いつもの無表情で、そのまま繋いだ手にキスされる。
「……あんたの手、好き。だから、離したくない」
「!?」
咲夜様はこんなことしないと信じきっていた私が悪いのか。思わぬ行動と言葉に何も言葉が出てこない。ただ、体温だけが上昇していく。
「……あんたは、嫌?」
こてんと首を傾げられれば、嫌と言える人がいるのだろうか。そんなことを真面目に思ってしまうくらい甘えた瞳でこちらを見てくる。いや、でもここは……
「あーっ!みささんってば探しに行くとか言って逢い引きしてたんだ」
あやかさんの声が響く。
「これは、その、はぐれ防止というか……!」
「うん」
私の言葉を遮って、咲夜様が頷く。
「楽しかったよ、逢い引き」
「ええなあ、俺も逢い引きしたい~」
「ちょっ!咲夜様!?」
「今度は2人で出かけよ、ね?」
もう一度、今度は額にキスされて。顔がぶわっと熱を帯びる。
「あ、か~わいい」
「そうだね、とても愛らしい」
「俺以外にその顔見せるん禁止言うたやろ~?」
からかわれる私は気付かなかった。ひとつの視線に。
「あれ、咲夜様は?」
ふと、人数が足りないことに気付く。
「どうせその辺の屋台につられたんやろ、ほうっておき~」
みなさまは慣れた様子でそう言うけれど、私にとっては大切な大切なお客様。何かあったら大変だ。
「私、探してきます!」
私は1人、来た道を走って戻った。
屋台につられて、その言葉通り、咲夜様は今まさに屋台で何か買うところだった。
「咲夜様!みなさまもう向こうに行ってしまわれてますよ」
「ん、ああ、悪い」
歩き出したはいいものの。気づけばふらりふらりといなくなる咲夜様。もうしょうがない。私は腹をくくった。
「咲夜様、手を繋ぎましょう」
ずいと手を差し出す。誘導するなんて、見守っておくなんて、子供扱いしてると怒られるだろうか。でもしょうがない。このペースじゃあ他の人たちの元にたどり着けない。
「……ん」
大人しく、繋がれる。そのまま町をすいすい進む。咲夜様は無口な方だから会話がなくて。そのせいで、繋いでいる手に意識が向いてしまって。
ごつごつしてるのは、剣道のせいだろうか。よく鍛えられた、よく使われている手、そんな印象を受ける。そしてとにかく暖かい。カイロのようなもの。先程まで寒かったのが嘘のように、今は全身ポカポカしていた。
「あっ!見えましたよ!」
そう言って手を離す……離そうと、した。
「あの、咲夜様……?」
遠慮がちに見上げれば、いつもの無表情で、そのまま繋いだ手にキスされる。
「……あんたの手、好き。だから、離したくない」
「!?」
咲夜様はこんなことしないと信じきっていた私が悪いのか。思わぬ行動と言葉に何も言葉が出てこない。ただ、体温だけが上昇していく。
「……あんたは、嫌?」
こてんと首を傾げられれば、嫌と言える人がいるのだろうか。そんなことを真面目に思ってしまうくらい甘えた瞳でこちらを見てくる。いや、でもここは……
「あーっ!みささんってば探しに行くとか言って逢い引きしてたんだ」
あやかさんの声が響く。
「これは、その、はぐれ防止というか……!」
「うん」
私の言葉を遮って、咲夜様が頷く。
「楽しかったよ、逢い引き」
「ええなあ、俺も逢い引きしたい~」
「ちょっ!咲夜様!?」
「今度は2人で出かけよ、ね?」
もう一度、今度は額にキスされて。顔がぶわっと熱を帯びる。
「あ、か~わいい」
「そうだね、とても愛らしい」
「俺以外にその顔見せるん禁止言うたやろ~?」
からかわれる私は気付かなかった。ひとつの視線に。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説


【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる