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帰りたい

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それから1ヶ月間、代わり映えのしない毎日が続いた。いや、私にとっては別世界だから違いだらけなんだけども。ただザキがずっと私を夜に呼び続けてくれているからこれだけ楽に生きられるんだろう。彼に正室はまだいなかったらしく、私が側室になるのではとまで言われているが、彼とは友人のようなものだ。軽口を叩きあえる、ただの友人。私の学部が経済学だったこともあり、国の情勢や経済、そちらの方面でも気軽に議論できた。そんなこんなで楽しい毎日が続いていた。続いていた、けど。

「あ、れ……?」

ある日の夜、いつものように千代と呼ばれて体に肉がつかないことをからかわれて、じゃれあっていた時。
涙が、こぼれた。
慌てるザキが視界の端にいる。
あ、そっか。私、馴染み始めているんだ。親も兄弟も友達も、何一つない、この世界に。私、ここで生きていく気でいるんだ。私、元の世界を、捨てようと……

「チヨ!チヨ!!!」

ゆり起こされて、はっとする。呼吸が、楽になる。そう感じた瞬間、身体中が酸素を求め始めて。

「ひゅっ……はあっ、はあっ、はあっ!」
「落ち着け、深呼吸だ……大丈夫、大丈夫だ。お前には俺がついてる。俺がいる」

ザキの暖かさに体を委ねて、必死で息をする。ほんの数分して、呼吸のリズムが整ってきた頃。

「どう、したんだ……?」

恐る恐る、ザキが聞いてくる。ははっ、こいつが遠慮なんて、私の教育の賜物だな。なんて思ったら、笑いが漏れた。そう、漏れるはず、なのに。笑えない。涙が、勝手に溢れてく。

「帰りったいっ……私っ、元の世界に、帰りたいっ!」
「ーーっ!」
「お父さあん、お母さあん……会いたい、会いたいよお……」

ザキがぎゅっと、力強く、私を抱きしめた。そうすると体の小さい私は彼に包まれてしまう。

「俺が、いる……俺がいるだろう……!!!なんでも与えてやる。服か?宝石か?お前は初めて出来た……っ、」

そこで、言葉を切った。そして脱力したように、そっと呟いた。

「友人、なんだ」

それからは2人、何も喋らなかった。ただ抱きしめあって、互いの温度を確認していた。
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