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必死の抵抗

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ばちん。

平手打ちの音が響いた。自分でも、無意識だった。殺されるかもしれない。死ぬより酷い目にあうかもしれない。でも、でも、でも。初めて会った人に肌を許せるほど、私は強くない。
じろりと、冷たい翡翠色の瞳が私を見下ろした。瞬間、頭上で両腕を片手で拘束される。いくら力を込めても振り解けそうにはない。それでも必死に抵抗する。渾身の力で、睨む。大きい男の人。大きい体。強い力。恐怖に怯えながら、でも睨む。

「お前……覚悟は出来ているんだろうな」
「覚悟も何も、私とあなたが交わした約束に夜のお相手は入っていません。不当です」
「私が誰だかわかっているのか?私はサッセリア王国の王、ザキだぞ」
「知りません。だから出来ます。どんな仕打ちになっても、私は初対面の人に肌を許したくない。何よりもう一度言います。これは契約に入っていません。貴方と私は契約上はイーブン、対等な関係です。私はここで舌を噛みちぎって死んでもいい。あなたに殺されてもいい。でも貴方はそれでは異世界の知識を二度と知りえない」
「ほう?私相手に脅しか」
「そうなりますね」

しばし睨み合いが続いて。ザキと名乗った男はぱっと手を離した。そして、驚くほど純粋な顔で、また笑った。

「ははははははっ!!!こんなに愉快な体験、初めてだ!ああ、なんてお前は強気なんだ。この私に睨まれても怖気づかないどころか言い返すとは。男でもなかなかいないぞ?はははっ!!!はははっ!!!この顔の傷が見えないのか?この体の醜い傷跡も見えないのか?ふふっははっ!!!」

そのままザキは笑い転げている。放置された私はというと……「は?」その一言に尽きた。え、こいつほっぺ叩かれて爆笑してんの?え、イカれてんの?まあこれなら死なずに済むっぽいけど……え?
混乱している間にザキはやっと笑い終えたらしい。ゴロンとそのまま寝転んだ。
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