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妙な男、リエル
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机に身を乗り出した拍子に被っていたフードがズレる。翡翠の瞳がきらきらと、ただただ純粋に輝いていた。
「これから僕が死ぬまで一緒に暮らして、そして僕の一生を象徴する棺を作って欲しいんです!!!」
正直、妙な男だと思った。話している内容以前にこの興奮。従来の者は皆悲壮感漂っていたというのに。まあそれはとにかくとして、だ。
「……なぜだ?」
一番最初に浮かんだ、至極単純な言葉を口にする。この男と私に関わりはない。そうまでする理由が思いつかなかった。
「あなたに一目惚れしたからです」
途端に真剣な表情に変わる。
「もうあなたは覚えていないかもしれませんが、あなたは1度、僕の村を訪れているんです。真夜中、牛の血を吸いに。まだ僕が幼子だったあの時、物陰から見たあなたのなんて美しいこと!煌々と満月に照らされた銀灰の髪、それとは対照的に血で紅く染まった唇!!!ああ、今思い出しても体が震えます。もう10年はあなたを思い続けて来たんです。あなただけを。他のどのような美しい娘を見てもあなたが脳裏によぎるのです。どうか、お願いします」
言い終えると同時に頭を下げた。ふむ、と口に手を当てる。
正直、提案自体は酷く魅力的だった。なにせ、一生をかけた墓だ。どんなものか想像もつかないし、腕がなる。今まで作った棺は思い返せば酷く表面的なものだった。まあそれもそうだ。なにせ遺族から聞いた情報しかないのだから。けれどこいつは全てを知れる。己の瞳で、己の手で、知ることが出来る。
それに、人間などどうせ数十年で死ぬ。自分の永遠の中のほんの一瞬くらい、こいつにくれてやるのもまた一興だ。それにこれほど長く生きてきても、私のように長い時を生きる訳でもないのに、己の棺に短い人生全てを賭ける者など見たこともない。その酔狂っぷりに少し感心すらした。
問題はただ一つ、こいつが嘘をついている可能性だった。共に暮らすというのなら隙などいくらでも出来るだろう。それにもしこいつが嘘をついているなら、こいつ1人がこの計画を企んだとは考えにくい。恐らく加担しているのは村全体。こいつが俺の暗殺に失敗した途端、全員で襲ってくるだろう。
別にそれ自体はいい。こいつに私が殺せる訳はないし、人間がいくら集まったところで無意味。ただこの屋敷は気に入っている。火をつけられでもしたら面倒なことこの上ない。
そんな風に考えを巡らせていると、断られると感じたのか、男が続けて言った。
「家事でもなんでもあなたが望むこと全てします!召使いでも奴隷でもなんでもいいです!血も俺のをぜひ吸ってください!だから、どうか、どうか!!!それだけあなたを愛しているんです!」
目が合った。ある種の狂気を帯びた瞳。爛々と光る瞳。それを見れば、信じる気にはならなくとも、試してみる気が湧いた。こいつとの、生活を。人の一生を象るという、棺を。
「私は何百年も生きてきたが、人間のいう愛だのの感情はない。お前を愛することも無い。ただそれほどまでに情熱をかけた棺は見たい。だから、それでもいいのなら」
みるみるうちに男の顔に笑顔が広がってゆく。それが少し滑稽で、知らず知らずのうちに唇が一瞬弧を描いた。
「その依頼、承諾しよう」
男は嬉しさが頂点に達したらしい。頭を何度も何度も下げて、こう言った。
「僕はリエルです!今日からよろしくお願いします!」
「これから僕が死ぬまで一緒に暮らして、そして僕の一生を象徴する棺を作って欲しいんです!!!」
正直、妙な男だと思った。話している内容以前にこの興奮。従来の者は皆悲壮感漂っていたというのに。まあそれはとにかくとして、だ。
「……なぜだ?」
一番最初に浮かんだ、至極単純な言葉を口にする。この男と私に関わりはない。そうまでする理由が思いつかなかった。
「あなたに一目惚れしたからです」
途端に真剣な表情に変わる。
「もうあなたは覚えていないかもしれませんが、あなたは1度、僕の村を訪れているんです。真夜中、牛の血を吸いに。まだ僕が幼子だったあの時、物陰から見たあなたのなんて美しいこと!煌々と満月に照らされた銀灰の髪、それとは対照的に血で紅く染まった唇!!!ああ、今思い出しても体が震えます。もう10年はあなたを思い続けて来たんです。あなただけを。他のどのような美しい娘を見てもあなたが脳裏によぎるのです。どうか、お願いします」
言い終えると同時に頭を下げた。ふむ、と口に手を当てる。
正直、提案自体は酷く魅力的だった。なにせ、一生をかけた墓だ。どんなものか想像もつかないし、腕がなる。今まで作った棺は思い返せば酷く表面的なものだった。まあそれもそうだ。なにせ遺族から聞いた情報しかないのだから。けれどこいつは全てを知れる。己の瞳で、己の手で、知ることが出来る。
それに、人間などどうせ数十年で死ぬ。自分の永遠の中のほんの一瞬くらい、こいつにくれてやるのもまた一興だ。それにこれほど長く生きてきても、私のように長い時を生きる訳でもないのに、己の棺に短い人生全てを賭ける者など見たこともない。その酔狂っぷりに少し感心すらした。
問題はただ一つ、こいつが嘘をついている可能性だった。共に暮らすというのなら隙などいくらでも出来るだろう。それにもしこいつが嘘をついているなら、こいつ1人がこの計画を企んだとは考えにくい。恐らく加担しているのは村全体。こいつが俺の暗殺に失敗した途端、全員で襲ってくるだろう。
別にそれ自体はいい。こいつに私が殺せる訳はないし、人間がいくら集まったところで無意味。ただこの屋敷は気に入っている。火をつけられでもしたら面倒なことこの上ない。
そんな風に考えを巡らせていると、断られると感じたのか、男が続けて言った。
「家事でもなんでもあなたが望むこと全てします!召使いでも奴隷でもなんでもいいです!血も俺のをぜひ吸ってください!だから、どうか、どうか!!!それだけあなたを愛しているんです!」
目が合った。ある種の狂気を帯びた瞳。爛々と光る瞳。それを見れば、信じる気にはならなくとも、試してみる気が湧いた。こいつとの、生活を。人の一生を象るという、棺を。
「私は何百年も生きてきたが、人間のいう愛だのの感情はない。お前を愛することも無い。ただそれほどまでに情熱をかけた棺は見たい。だから、それでもいいのなら」
みるみるうちに男の顔に笑顔が広がってゆく。それが少し滑稽で、知らず知らずのうちに唇が一瞬弧を描いた。
「その依頼、承諾しよう」
男は嬉しさが頂点に達したらしい。頭を何度も何度も下げて、こう言った。
「僕はリエルです!今日からよろしくお願いします!」
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