魚は夢現に浮橋を飛び、鳥は現界の夢に泳ぐ。

 飛鳥の家は古い温泉宿である。その宿の一角には、白狐を奉っている祠がある。
 飛鳥は、子供の頃から、他の人には見ることができない白狐のハクアと共に、過ごしてきた。

 雨模様が続くある夏 、飛鳥の家に従兄の泳魚がやってくる。その従兄もまた、ハクアの姿を見ることができた。

 飛鳥と泳魚は短い夏の日を過ごす。
 龍が住むと伝えられる滝を見に行ったり、神社で行われる祭りへ行ったり、蛍を見に行ったり、本来ならば、何の変哲もない日常の出来事のはずであった。
 湿った空気の匂いが漂う夏の盆。夢と現の挟間にある時期。その日常の風景は、非日常の一雫に揺らいでいた。
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