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第一章
メイドさんはウサギですか?
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ミツキが押し込められた部屋は、黒を貴重とした立派な部屋だった。
ベッドクロスまで黒でまとめられているあたり、徹底している。
テーブルに椅子が一脚。
窓はあるが、嵌め込み式で開かない。
紅い絨毯は靴が沈みこむほどフカフカで、全体的に豪華な印象ではある。
驚くべき事に、ちゃんとバスルームやトイレまで完備されている。
色彩が黒と赤のみなのを除けば、普通のホテル並みに豪華な部屋と言える。
「はー、まいったなぁ」
試しにドアノブをガチャガチャしてみたが、当然のように鍵がかかっていて開かない。
仕方なく靴を脱ぎ、ボスンとベッドに横たわったその時だった。
「娘」
「キャッ!」
唐突にドアが開き、さっきこの部屋にミツキを放り込んだ美形が現れた。
「ななっ、何ですか!?」
「こいつを渡し忘れた。受けとれ」
ずいっと差し出されたのは、真っ黒なベルだった。
「どうした?早く受けとれ」
「受けとれって、これ、何なんですか?」
「魔道具だ。何かあればそれを鳴らせ。召し使いがくる」
恐る恐る受けとり、しげしげと眺める。
光沢のあるベルは、見た目は本当に普通のベルである。
ただ、色が黒い。
艶のある黒さは、いっそ美しくさえある。
「ではな」
美形はあっさりと去っていった。
残されたミツキはしばし呆然としつつ、ベルを試しに鳴らしてみた。
まさに鈴の音というに相応しい涼やかな音が鳴ったその直後、
「お呼びですか」
「えっ!?ええっ!!」
目の前に、メイド服の女性がいる。
思わず目を疑う。
先程までたしかに室内には誰もいなかった。
にも関わらず、確かに女性は存在する。
黒いロングドレスを貴重とし、白いエプロンを身につけ、頭にはヘッドドレスをつけた、古式ゆかしきメイド服の。
「失礼。わたくしはワルプルギスと申します。本日よりあなた様のお世話をするよう魔王様より仰せつかっております」
その声はとても淑やかで、まさにメイドといった感じだ。
パッと見は本当にただのメイドである。
しかし、確実に普通のメイドと異なる点がある。
それは、耳。
彼女の頭の両側から、真っ黒な長いたれ耳が生えている。
それはちょうどウサギ、ロップイヤーの耳のようだ。
作り物にしては生え際があまりに自然であり、その毛はフサフサでいかにも柔らかそうだ。
「あ、あのっ」
「はい」
「その耳、本物、です、か?」
好奇心に負けて問えば、メイドの彼女、ワルプルギスは、全く無表情のまま答えた。
「はい」
ごくり。
思わず喉が鳴る。
「さ、触っても、いい、です、か?」
「ご要望とあれば」
にこりともせず、ワルプルギスは静かに頭をたれた。
「どうぞ」
「で、では」
覚悟を決め、ミツキはその手をワルプルギスの黒いたれ耳へと手をのばした。
上から下へと一撫でする。
「!!!!」
温かい。
作り物では有り得ぬ、生き物の温かさだ。
加えて、フサフサの毛は柔らかく、撫でていると非常に心地良い。
「そろそろよろしゅうございますか?」
「あっ、は、はいっ」
慌てて手を引っ込めると、ワルプルギスが頭をあげ、無表情にミツキを見つめた。
「お気はすみましたでしょうか」
「は、はいっ!ありがとうございました!本当に、本物の耳なんですね」
これが夢なら、なんて素敵な夢だろうとミツキは思う。
もう少し醒めなくてもいいかな、なんて。
そもそもウサギ耳のメイドさんなんていうファンタジーな状況は、夢以外では有り得ない。
それならば、思う存分楽しみたい。
などと思うミツキなのだった。
ベッドクロスまで黒でまとめられているあたり、徹底している。
テーブルに椅子が一脚。
窓はあるが、嵌め込み式で開かない。
紅い絨毯は靴が沈みこむほどフカフカで、全体的に豪華な印象ではある。
驚くべき事に、ちゃんとバスルームやトイレまで完備されている。
色彩が黒と赤のみなのを除けば、普通のホテル並みに豪華な部屋と言える。
「はー、まいったなぁ」
試しにドアノブをガチャガチャしてみたが、当然のように鍵がかかっていて開かない。
仕方なく靴を脱ぎ、ボスンとベッドに横たわったその時だった。
「娘」
「キャッ!」
唐突にドアが開き、さっきこの部屋にミツキを放り込んだ美形が現れた。
「ななっ、何ですか!?」
「こいつを渡し忘れた。受けとれ」
ずいっと差し出されたのは、真っ黒なベルだった。
「どうした?早く受けとれ」
「受けとれって、これ、何なんですか?」
「魔道具だ。何かあればそれを鳴らせ。召し使いがくる」
恐る恐る受けとり、しげしげと眺める。
光沢のあるベルは、見た目は本当に普通のベルである。
ただ、色が黒い。
艶のある黒さは、いっそ美しくさえある。
「ではな」
美形はあっさりと去っていった。
残されたミツキはしばし呆然としつつ、ベルを試しに鳴らしてみた。
まさに鈴の音というに相応しい涼やかな音が鳴ったその直後、
「お呼びですか」
「えっ!?ええっ!!」
目の前に、メイド服の女性がいる。
思わず目を疑う。
先程までたしかに室内には誰もいなかった。
にも関わらず、確かに女性は存在する。
黒いロングドレスを貴重とし、白いエプロンを身につけ、頭にはヘッドドレスをつけた、古式ゆかしきメイド服の。
「失礼。わたくしはワルプルギスと申します。本日よりあなた様のお世話をするよう魔王様より仰せつかっております」
その声はとても淑やかで、まさにメイドといった感じだ。
パッと見は本当にただのメイドである。
しかし、確実に普通のメイドと異なる点がある。
それは、耳。
彼女の頭の両側から、真っ黒な長いたれ耳が生えている。
それはちょうどウサギ、ロップイヤーの耳のようだ。
作り物にしては生え際があまりに自然であり、その毛はフサフサでいかにも柔らかそうだ。
「あ、あのっ」
「はい」
「その耳、本物、です、か?」
好奇心に負けて問えば、メイドの彼女、ワルプルギスは、全く無表情のまま答えた。
「はい」
ごくり。
思わず喉が鳴る。
「さ、触っても、いい、です、か?」
「ご要望とあれば」
にこりともせず、ワルプルギスは静かに頭をたれた。
「どうぞ」
「で、では」
覚悟を決め、ミツキはその手をワルプルギスの黒いたれ耳へと手をのばした。
上から下へと一撫でする。
「!!!!」
温かい。
作り物では有り得ぬ、生き物の温かさだ。
加えて、フサフサの毛は柔らかく、撫でていると非常に心地良い。
「そろそろよろしゅうございますか?」
「あっ、は、はいっ」
慌てて手を引っ込めると、ワルプルギスが頭をあげ、無表情にミツキを見つめた。
「お気はすみましたでしょうか」
「は、はいっ!ありがとうございました!本当に、本物の耳なんですね」
これが夢なら、なんて素敵な夢だろうとミツキは思う。
もう少し醒めなくてもいいかな、なんて。
そもそもウサギ耳のメイドさんなんていうファンタジーな状況は、夢以外では有り得ない。
それならば、思う存分楽しみたい。
などと思うミツキなのだった。
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