空の下、生き抜いてみせると宣言した。

ハナノミナト

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稲妻が引き裂く夜

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 「和葉、聞いてる?」
和葉はどうやって帰ったかも覚えていない。日菜が何かずっとしゃべっている。
「和葉、カレー食べないの?」
お母さんも不思議なようだ。今日の晩ごはんはカレーだった。いつもは5分で食べるんだけど今は機械になったみたいに味もわからない。
「口内炎ができたんだ。」
とりあえず、そう言ってみた。
「今日のカレーは特別なんだよ。図書室でね、アスリートの食事の本を借りたんだ。そしたらね、良質なたんぱく質を取った方がいいんだってさ。それでささみがいいって書いてたからね、ささみ入りのカレーを作ってもらったんだよ。」
日菜は絶好調のようだ。
「だから、これ食べて筋肉つけてね。和葉は背が高いけど、まだヒョロヒョロなんだから。」
和葉はスプーンを置いた。
「今なんて?」
ヒョロヒョロ。よってたかってみんな言う。なんなんだ。
 日菜とお母さんは目を合わせていた。戸惑っているようだ。強く言い過ぎたのかもしれない。
「ごめん、疲れてるんだ。先に休んでいい?」
何も考えたくないし、だれにも会いたくなかった。

和葉が上の空だ。どうしたんだろう。
 日菜はベッドに寝転がり、天井を見つめていた。
 和葉がカレーを食べない。いつもはこっちが心配するくらいの勢いで食べるのに。口内炎。うそ。野球部でなにかあったにちがいない。
 図書室でいい本借りてきたんだけどな。日菜は和葉に教えてあげたくてしょうがなかった。ピッチャーのフォーム、ボールのにぎり方、練習方法などなど色々書いていた。いつもの和葉ならきっと喜んでくれるんだけどな。
日菜は隣の壁を見つめた。壁はなにも答えてくれない。
 よし。決めた。日菜は行動することにする。疲れたなんてうそだ。日菜は和葉に笑ってほしい。待つより行動。
「和葉、おもしろい本借りてきたんだ。」
日菜は勢いよく和葉の部屋のドアをあけた。戸惑いがあるからこそノックはできなかった。ノックをして断られるのがこわかったから。
「なに?ノックくらいしてよ。」
和葉もベッドの上で寝転んでいた。仰向けではなくうつぶせだったが。思ったより機嫌が悪そうだ。でも、めげてはだめだ。
「図書室でいい本借りてきたの。」
「興味ないよ。」
和葉はちらりとも見ずにこたえた。
「ちがうの、小説じゃないよ。野球の本なの。変化球の握り方とか書いてて、和葉が喜ぶかなと思って。」
日菜は急いで答えた。急いで和葉の好きな単語をあげた。そうしないと和葉が心を閉ざすきがした。
「おれ、まだそんな段階じゃないよ。まだ体だってできてないし。さっき日菜も言ってたでしょ。」
しまった。ヒョロヒョロと言ったのを根にもっているらしい。
「でも、やろうよ。やらないとうまくならないよ。上手くなってエースピッチャーになってよ。私がコーチになってあげるからさ。」
「いい加減にしてよ。」
和葉がまくらを投げた。投げられたまくらは壁にあたり下に落ちた。物にあたる和葉を初めて見た。
「何も知らないくせにごちゃごちゃ言わないでよ。ぼくは日菜のあやつり人形じゃないんだよ。日菜の要求に何でも答えれるわけないだろ。」
あやつり人形。要求。
和葉はそんなふうに思っていたのか。
胸が凍って世界が凍った。この場にいれるわけもなかった。
「ごめんね。」
退散することにした。地上での居場所を自分から壊してしまったのだ。
 甘えていた。和葉の優しさに。動けない自分のかわりに願いをかなえてくれる和葉に。すみれちゃんに散々忠告されていたのに。うぬぼれていた。
 ドアを閉めた日菜はその場にうずくまる。
ぬいぐるみに写真、クッション。自分の大好きなものでいっぱいのはずのこの部屋が単なる箱に感じる。
和葉の部屋との間のこの壁がすべてを物語っている。遮断して拒絶して断絶している。
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