空の下、生き抜いてみせると宣言した。

ハナノミナト

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ベランダ菜園

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 まばたきするみたいに星がきらめく。小さい星、青い星、黄色い星。目をこらせば、気づかなかった星もほほえんで、ここにいるよと教えてくれる。
 日菜はベランダで星を見ていた。
 きっといつもと変わらない夜空なんだろうけどな。今まで星空を見上げるなんてことはなかったな。日菜は思う。今までは。
今までは地上にしがみつくのに必死だったな。空なんて見たくなかった。でもこうして見上げれるってことは、私も地面に根付いてきたってことなのかな。
日菜が感傷にふけっていると、
「先生、さぼってないで原稿書いてください。」
隣の窓があいて和葉が来た。
「休憩よ、休憩。今星を見てたの。」
「星ね。もしかして中間テストが散々だったからもう期末テストの準備してるの?あ、でも理科の範囲は星じゃないよ。」
「う、テストのことを言わないで。」
中学には中間テストと期末テストというものがあった。小説を書くことに専念したいけど、中学生は何かと忙しかった。
「クッキー食べる?キッチンで見つけたんだ。」
和葉はママが隠してた高級そうなクッキーをもってきてくれた。
「サンキュー。」
一瞬体重が気になったが、手をひっこめることはできない。星を見ながら食べるのも幸せだな。日菜はバターの香りと幸せをかみしめた。
「小説の締め切りはいつなの?」
「8月31日。中学生対象だからか夏休みに合わせてくれてるみたい。」
口をもごもごしながら答える。飲み物があるともっとうれしいんだけどな。
「学校があると何かと忙しいもんな。」
「そういえばね、すみれちゃんから連絡がきてね、なんと病院の七夕会でピアノ弾くんだって。絶対聞きにいかなくっちゃね。」
日菜は今日仕入れたとっておきのネタを披露した。
「そうみたいだね。蓮は将棋大会を開催するみたいだな。おれも参加しよかな。」
「え?なんで知ってるの?」
「おれは蓮から聞いたよ。おれたち仲いいんだ。」
「和葉にも友達いたんだね。」
和葉も蓮も同級生と笑って話すイメージがあまりなかった。でも友達だったんだ。てことは、私の病院の付き添いも和葉にとってそんなにいやじゃなかったのかな。日菜は少しほっとした。
「すごいな、日菜は。」
「え?なんで?」
「日菜が一歩ふみだしたことで、蓮もすみれちゃんも一歩をふみだしたんだろ?お前はいろんな人に影響をあたえてるんだな。」
「うーん、ちょっとちがうかもだけど。」
「日菜はさ、他の人が背負っていない苦しみを背負って生きているんだ。それを逃げずに受け入れたうえで前を向いて歩いているんだ。並大抵のことじゃないよ。」
最初に葉っぱをかけてくれたのは蓮だけど。でも、過大評価だとしても和葉の言葉はうれしかった。もしそうなら幸せだな。そう思って日菜は詳細を説明するのをはぶいた。
「ところで、野球はどう?試合とかないの?」
「試合はね、3年生の最後の大会が7月末から始まるんだ。だから、みんなそれに向けてがんばってるよ。」
「そっか。和葉は出れたりしないの?」
「7月中旬に練習試合をするらしい。レギュラーじゃなくて下級生中心のチームの。それには出れるかな。」
「やったじゃん。あと一か月ちょっとだね。」
「たぶん。その練習試合でいい結果出せたら公式戦にも出させてもらえるみたいだから、みんな頑張ってるよ。」
中学生の野球少年が練習にはげんでる姿を想像してみた。和葉もその中にいるのか。たった1か月で和葉はマンガの主人公になったような気がした。
「でもなんか和葉には闘志みたいなのが伝わってこないんだよね。」
毎日一人早起きして練習している和菜なのに。練習のない日も自主練習をしている和葉なのに。
「おれは静かに燃えるタイプなんだ。」
確かに熱血系の主人公ではないかもしれない。色で言うと青い闘志タイプ。
「私もがんばらないとな。」
「楽しみにしてるからな。絶対書きあげろよ。」
ベランダに並んだ二つの肩。それぞれの思いを星空にうつしていた。
「ママのクッキー食べたのだれ?」
一階でママがさけんでる。
「やばい。」
「和葉だよー。」
すぐさま裏切る日菜。
「二人ともどこにいるの?早く寝なさい。」
ママの声がやってきた。もう子どもじゃないのにな。いや、まだ子どもだけど。12時まで起きてる子だっているのに。
 本気でブーブー言う日菜を置いて、さっと部屋に入る和葉。
「裏切り者。これだから真面目くんは。」
 日菜には手術のことはまだ知らされてなかった。いずれ必要になる手術。今すぐでなくて良いなら、せめて小説を書きあげてからにしてほしい。せっかく日菜が歩き始めたところなのだから。
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