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新芽
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日付は満月の夜を超え、さらに2日過ぎ、和葉は朝七時に家を出た。土曜日。自転車で一時間。廣野のいるファイターズという野球チームに参加した。
「よろしくお願いします。」
キャプテンが帽子をとって一礼する。
「よろしくお願いします。」
一直線に並んだユニフォームがそれに続く。
あこがれていた野球がそこにはあった。これがチームなんだ。これが野球なんだ。このチームで野球がしたい。和葉は最初の挨拶だけで心に固く決めた。
けれど、理想の光景に胸があつくなったのは最初だけだった。あとはついていくのに必死。準備運動からしてわからないことだらけ。
笛が鳴る。走り出すのかと思ったらリズムジャンプ。リズムジャンプってなんだ?和葉が今までやったことも見た事もない動きだった。
「里宮、大丈夫か。」
「慣れだよ、慣れ。」
使ったことがない筋肉が悲鳴をあげている。監督やチームメイトにたびたび声をかけられた。
守備練習に入ってもわからない状態は続く。グラブの使い方。足の使い方。今どこに投げるのか。ショートバウンドって何だっけ?アメリカンノックって?自分一人流れについていけず、きょろきょろしていた。
「お前あんないい球投げるんだから、もうちょっとできると思ってたよ。」
水分補給の時廣野があっけらかんと言ってきた。
「悪かったな。でもすぐ追いついてやるよ。守備の達人になってやるよ。」
「お、負けず嫌いか。」
ニヤっと笑った廣野は汗がよく似合っていた。ファイターズの練習は月水金と土日。
「火曜と木曜はあの公園で練習だな。」
練習のない放課後は公園で練習をする約束をした。やっぱりいいやつだ。
「おれも上達したいしな。あ、するとおれの方が常に数歩リードだな。」
和葉は早朝練習を一人することも決めた。
「書けないー!」
日菜は空に向かって、いや図書室の天井に向かって叫んでいた。
「里宮さん静かに。」
すぐに藤原先生の注意がとんだ。
「すみません。」
だれかが見たら驚くほど素直に謝った。
「でも先生書けないんです。書きたかったはずなのに、一行も進まない。先生が貸してくれた小説を書くための本も読みました。主題や伝えたいことも決まっているのに、鉛筆がすすまないんです。」
日菜は藁にもすがる思いだ。
「それは自分で考えなさい。自分をもっと見つめて、書きたいことと真摯(しんし)に向き合いなさい。」
先生は本を貸してくれても手は貸してくれなかった。
「アドバイスもないのー。」
日菜はまだ手を引っ込めない。
「壁にぶつかってこそ大きくなるのです。悩んでこそ青春です。」
藤原先生はすたすた職員会議に出て行ってしまった。
逃げられた。文句を言っても仕方がないから日菜は一人になった図書室で原稿用紙に向かう。自分を見つめる。書きたいことと向き合う。確かに逃げているかもしれない。日菜は自分たちのように病気があっても夢をつかむ話を書きたかった。でも、現実は甘くないことを日菜が一番よく知っている。例えば和葉は野球がうまくなるために早朝一人でランニングを始めた。人一倍の努力は健康な人ができることだ。絵空事を書いて同じ闘病生活をしている仲間を傷つけたくなかった。
でも、「出来ない」ばっかりの物語なんて誰が読みたいだろう。誰が。
「誰」という言葉ですぐにすみれちゃんと蓮が思いついた。二人のことはずっと頭の片隅にあった。病気のことを題材にして二人は傷つかないだろうか、本当はもっとしんどいのに都合の良いように書かないでって怒らないだろうか、自分の書いた物語で希望を感じてくれるだろうか。ずっと二人のことを気にしていた。
「すみれちゃんと蓮に会いにいこう。」
答えにたどりついたら話は早い。日菜は次の土曜に会いにいくことにした。
「というわけで、私は生きる物語を書きたいと思っています。でも物語に真剣に向き合った時、二人の顔がどうしても思い浮かんできて、二人の意見を聞きたいと思っております。」
騒々しい太陽がきた。里宮日菜だ。すみれの静かな毎日はだいたい日菜ちゃんによってこわされる。
でもちょうど会いたかった。すみれも後悔していた。ゴールデンウィーク前に大ゲンカから2週間以上たっていた。落ち込んでいるかなと思ったら、すごくすっきりした顔でやってきた。あやまらなきゃって思っていたのに、そこが憎らしい。
日菜ちゃんは「ごめん」を言う間もあたえることなく、変な敬語を使いながら、突拍子もないことを言い出した。
新聞の15歳以下の小説コンテストという広告を見て思い立ったらしい。最優秀賞に選ばれたら出版されるらしい。
最優秀賞になんか選ばれっこないのに、行動にうつすところが日菜ちゃんらしい。
でも、どうやら本気らしい。そういえば、よく日菜ちゃんとはドラマの感想を熱く語り合っていた。病気のヒロインが主人公に夢を託して死んでしまう話などは日菜は本気で怒っていた。
「どうして生かしてあげれないの。生きて応援し続ける物語じゃだめなの。」
「物語が盛り上がるのは、恋人の死を乗り越えて頑張る主人公なんじゃない?」
私はけっこう大人なコメントをしてたっけな。
でも日菜ちゃんは本気で生きる物語を書きたいらしい。でも病気を題材にすることで、私たちを傷つけないか心配で意見をききにきてくれたらしい。
いいところあるじゃない。すみれは素直にそう思った。
「確かに病気だったらそんなことできないって思うことばかりだと嫌かな。いくら作り話とはいえ、そんな楽じゃないよって思うかな。」
すみれは日菜ちゃんにはなんでも言える。日菜ちゃんはメモをとって真剣にきいていた。何をメモしてんだか。
「たしかに、あんまり現実離れしすぎていると、おいおい、って思うな。でも物語だからこそ希望をみたいかも。おれもがんばろうって思える物語ならいいな。」
「希望ね。」
日菜ちゃんは「希望」とメモしたようだ。メモをパタンと閉じて日菜ちゃんは言った。
「私もそうなの。私の書いた物語で希望を感じてほしいの。つらいこともがんばろうって思ってほしいの。」
日菜ちゃんの目はかがやいていた。
「まったく単純ね。」
どうしてもいじわるを言ってしまう。
「でも、悪くないぞ。殻をやぶったんだな。あとは出来次第だな。」
蓮は日菜ちゃんに甘い気がする。すみれはそこも面白くなかった。
「え、出来?」
「そうよ。心意気は伝わったけど、全然おもしろくない話だったらガッカリよ。ちゃんと書いてよ。」
ここぞとばかりすみれもつけだした。読むに耐えない物語では困る。
「言っとくけど、和葉をモデルにしたらダメだぞ。お前が思っている和葉は王子様みたいに書きそうだけど、実際のあいつは単なる根暗な野球バカだからな。」
「だれが根暗な野球バカだって?」
「和葉!」
いつの間にか野球の練習を終えた和葉くんが来ていた。
「おれは野球バカだけど根暗じゃない。」
「お前いつの間におれって言うようになったんだ?」
野球のユニフォームを着た和葉くんはしゃべり方も野球少年仕様になっている。
「いや、エースピッチャーがぼくって言ってたら恥ずかしいかなと思って。」
「まだエースでも控えでもないじゃん!」
久しぶりに病院に笑い声がもどってきた。日菜ちゃんがいると騒がしいけど、騒がしいのも悪くない。
日菜ちゃんには私を主人公にした物語にしてって注文しておいた。体が弱いけどピアノが超絶上手で美人の女の子を主人公にって。日菜ちゃんのペンは止まり、ぶーぶー言っていたけど。
日菜ちゃんと和葉くんは帰った後、私はまた蓮ととり残された。でもほっとした自分に気づく。日菜ちゃんはうるさいくらいの元気が似合うから。
すみれはベッドに横になった。今日は久しぶりにゆっくり寝れる。胸のつっかえがとれた気がした。
その頃、蓮もベッドに横になっていた。今日の出来事をふりかえる。日菜が来た。さわがしいのはいつものことだが、今日は少しちがった。どうやら目標を見つけたらしい。
それに日菜がきたことで一番はしゃいでいたのはすみれだった。すみれもこの2週間とうってかわってしゃべりまくっていた。
和葉も来た。和葉には根暗な野球バカといったが実はおれは和葉とは気が合うと思っている。
久しぶりにこんなにしゃべったかもな。蓮は少し疲れていた。
蓮はほとんど学校に行っていなかったが、女子二人ほど寂しがっていなかった。性格的に友達とさわぐより、将棋をしたり、本を読むのが好きだった。
「でも、今日は楽しかったな。」
誰も返事しないのにぽつんと声がでた。日菜にもすみれにも、どちらかというと距離をとっていた。話している内容はテレビだったり漫画だったりくだらないと思っていたこともあった。
おれにとっても友達だったんだな。
二人が大ゲンカした時は本気で心配した。そのあとすみれはふさぎこんでいたから、本当ははげましたかった。でも普段からあまりしゃべっていなかったから、どう話かけていいのかわからなかった。
だから、今日はほっとした。すみれが日菜に会って、しおれていた花が一気に復活したみたいに元気になって、心底うれしかった。ほっとした。
おれにもまだやりたいことがあったんだ。そのことに気づいた。
次の日、蓮はすみれに声をかけることに決めた。
「今度の七夕会でピアノコンサート開いたら?」
突然話しかけられたすみれはぽかんとしていた。
「突然なに言ってるの?」
すみれの顔がみるみる赤くなった。
「日菜も目標を見つけてうれしそうにしてただろ?すみれはあのケンカの後、ずっと落ち込んでいたけど、日菜があんなに元気になってるんだ。もう心配する必要ないから、自分のこと考えたら?好きなんだろ、ピアノ?」
「好きだけど、でもそんな急に人前でなんて無理よ。」
「うそをついてるな。お前うれしそうな顔してるぞ。」
「してないってば。」
すみれの顔はわかりやすいほど赤くなっていた。
「看護師さんたちにかけあってくるよ。すみれのピアノコンサートと将棋大会を開催してほしいって。」
「そんな勝手に。あと一か月ちょっとだよ。」
「しっかり練習しろよ。聞いてみたいんだ、お前のピアノ。じゃあな。」
おれも友達の笑顔を見たいんだ。蓮は検温の時に看護師にさっそく七夕会の相談をした。
「よろしくお願いします。」
キャプテンが帽子をとって一礼する。
「よろしくお願いします。」
一直線に並んだユニフォームがそれに続く。
あこがれていた野球がそこにはあった。これがチームなんだ。これが野球なんだ。このチームで野球がしたい。和葉は最初の挨拶だけで心に固く決めた。
けれど、理想の光景に胸があつくなったのは最初だけだった。あとはついていくのに必死。準備運動からしてわからないことだらけ。
笛が鳴る。走り出すのかと思ったらリズムジャンプ。リズムジャンプってなんだ?和葉が今までやったことも見た事もない動きだった。
「里宮、大丈夫か。」
「慣れだよ、慣れ。」
使ったことがない筋肉が悲鳴をあげている。監督やチームメイトにたびたび声をかけられた。
守備練習に入ってもわからない状態は続く。グラブの使い方。足の使い方。今どこに投げるのか。ショートバウンドって何だっけ?アメリカンノックって?自分一人流れについていけず、きょろきょろしていた。
「お前あんないい球投げるんだから、もうちょっとできると思ってたよ。」
水分補給の時廣野があっけらかんと言ってきた。
「悪かったな。でもすぐ追いついてやるよ。守備の達人になってやるよ。」
「お、負けず嫌いか。」
ニヤっと笑った廣野は汗がよく似合っていた。ファイターズの練習は月水金と土日。
「火曜と木曜はあの公園で練習だな。」
練習のない放課後は公園で練習をする約束をした。やっぱりいいやつだ。
「おれも上達したいしな。あ、するとおれの方が常に数歩リードだな。」
和葉は早朝練習を一人することも決めた。
「書けないー!」
日菜は空に向かって、いや図書室の天井に向かって叫んでいた。
「里宮さん静かに。」
すぐに藤原先生の注意がとんだ。
「すみません。」
だれかが見たら驚くほど素直に謝った。
「でも先生書けないんです。書きたかったはずなのに、一行も進まない。先生が貸してくれた小説を書くための本も読みました。主題や伝えたいことも決まっているのに、鉛筆がすすまないんです。」
日菜は藁にもすがる思いだ。
「それは自分で考えなさい。自分をもっと見つめて、書きたいことと真摯(しんし)に向き合いなさい。」
先生は本を貸してくれても手は貸してくれなかった。
「アドバイスもないのー。」
日菜はまだ手を引っ込めない。
「壁にぶつかってこそ大きくなるのです。悩んでこそ青春です。」
藤原先生はすたすた職員会議に出て行ってしまった。
逃げられた。文句を言っても仕方がないから日菜は一人になった図書室で原稿用紙に向かう。自分を見つめる。書きたいことと向き合う。確かに逃げているかもしれない。日菜は自分たちのように病気があっても夢をつかむ話を書きたかった。でも、現実は甘くないことを日菜が一番よく知っている。例えば和葉は野球がうまくなるために早朝一人でランニングを始めた。人一倍の努力は健康な人ができることだ。絵空事を書いて同じ闘病生活をしている仲間を傷つけたくなかった。
でも、「出来ない」ばっかりの物語なんて誰が読みたいだろう。誰が。
「誰」という言葉ですぐにすみれちゃんと蓮が思いついた。二人のことはずっと頭の片隅にあった。病気のことを題材にして二人は傷つかないだろうか、本当はもっとしんどいのに都合の良いように書かないでって怒らないだろうか、自分の書いた物語で希望を感じてくれるだろうか。ずっと二人のことを気にしていた。
「すみれちゃんと蓮に会いにいこう。」
答えにたどりついたら話は早い。日菜は次の土曜に会いにいくことにした。
「というわけで、私は生きる物語を書きたいと思っています。でも物語に真剣に向き合った時、二人の顔がどうしても思い浮かんできて、二人の意見を聞きたいと思っております。」
騒々しい太陽がきた。里宮日菜だ。すみれの静かな毎日はだいたい日菜ちゃんによってこわされる。
でもちょうど会いたかった。すみれも後悔していた。ゴールデンウィーク前に大ゲンカから2週間以上たっていた。落ち込んでいるかなと思ったら、すごくすっきりした顔でやってきた。あやまらなきゃって思っていたのに、そこが憎らしい。
日菜ちゃんは「ごめん」を言う間もあたえることなく、変な敬語を使いながら、突拍子もないことを言い出した。
新聞の15歳以下の小説コンテストという広告を見て思い立ったらしい。最優秀賞に選ばれたら出版されるらしい。
最優秀賞になんか選ばれっこないのに、行動にうつすところが日菜ちゃんらしい。
でも、どうやら本気らしい。そういえば、よく日菜ちゃんとはドラマの感想を熱く語り合っていた。病気のヒロインが主人公に夢を託して死んでしまう話などは日菜は本気で怒っていた。
「どうして生かしてあげれないの。生きて応援し続ける物語じゃだめなの。」
「物語が盛り上がるのは、恋人の死を乗り越えて頑張る主人公なんじゃない?」
私はけっこう大人なコメントをしてたっけな。
でも日菜ちゃんは本気で生きる物語を書きたいらしい。でも病気を題材にすることで、私たちを傷つけないか心配で意見をききにきてくれたらしい。
いいところあるじゃない。すみれは素直にそう思った。
「確かに病気だったらそんなことできないって思うことばかりだと嫌かな。いくら作り話とはいえ、そんな楽じゃないよって思うかな。」
すみれは日菜ちゃんにはなんでも言える。日菜ちゃんはメモをとって真剣にきいていた。何をメモしてんだか。
「たしかに、あんまり現実離れしすぎていると、おいおい、って思うな。でも物語だからこそ希望をみたいかも。おれもがんばろうって思える物語ならいいな。」
「希望ね。」
日菜ちゃんは「希望」とメモしたようだ。メモをパタンと閉じて日菜ちゃんは言った。
「私もそうなの。私の書いた物語で希望を感じてほしいの。つらいこともがんばろうって思ってほしいの。」
日菜ちゃんの目はかがやいていた。
「まったく単純ね。」
どうしてもいじわるを言ってしまう。
「でも、悪くないぞ。殻をやぶったんだな。あとは出来次第だな。」
蓮は日菜ちゃんに甘い気がする。すみれはそこも面白くなかった。
「え、出来?」
「そうよ。心意気は伝わったけど、全然おもしろくない話だったらガッカリよ。ちゃんと書いてよ。」
ここぞとばかりすみれもつけだした。読むに耐えない物語では困る。
「言っとくけど、和葉をモデルにしたらダメだぞ。お前が思っている和葉は王子様みたいに書きそうだけど、実際のあいつは単なる根暗な野球バカだからな。」
「だれが根暗な野球バカだって?」
「和葉!」
いつの間にか野球の練習を終えた和葉くんが来ていた。
「おれは野球バカだけど根暗じゃない。」
「お前いつの間におれって言うようになったんだ?」
野球のユニフォームを着た和葉くんはしゃべり方も野球少年仕様になっている。
「いや、エースピッチャーがぼくって言ってたら恥ずかしいかなと思って。」
「まだエースでも控えでもないじゃん!」
久しぶりに病院に笑い声がもどってきた。日菜ちゃんがいると騒がしいけど、騒がしいのも悪くない。
日菜ちゃんには私を主人公にした物語にしてって注文しておいた。体が弱いけどピアノが超絶上手で美人の女の子を主人公にって。日菜ちゃんのペンは止まり、ぶーぶー言っていたけど。
日菜ちゃんと和葉くんは帰った後、私はまた蓮ととり残された。でもほっとした自分に気づく。日菜ちゃんはうるさいくらいの元気が似合うから。
すみれはベッドに横になった。今日は久しぶりにゆっくり寝れる。胸のつっかえがとれた気がした。
その頃、蓮もベッドに横になっていた。今日の出来事をふりかえる。日菜が来た。さわがしいのはいつものことだが、今日は少しちがった。どうやら目標を見つけたらしい。
それに日菜がきたことで一番はしゃいでいたのはすみれだった。すみれもこの2週間とうってかわってしゃべりまくっていた。
和葉も来た。和葉には根暗な野球バカといったが実はおれは和葉とは気が合うと思っている。
久しぶりにこんなにしゃべったかもな。蓮は少し疲れていた。
蓮はほとんど学校に行っていなかったが、女子二人ほど寂しがっていなかった。性格的に友達とさわぐより、将棋をしたり、本を読むのが好きだった。
「でも、今日は楽しかったな。」
誰も返事しないのにぽつんと声がでた。日菜にもすみれにも、どちらかというと距離をとっていた。話している内容はテレビだったり漫画だったりくだらないと思っていたこともあった。
おれにとっても友達だったんだな。
二人が大ゲンカした時は本気で心配した。そのあとすみれはふさぎこんでいたから、本当ははげましたかった。でも普段からあまりしゃべっていなかったから、どう話かけていいのかわからなかった。
だから、今日はほっとした。すみれが日菜に会って、しおれていた花が一気に復活したみたいに元気になって、心底うれしかった。ほっとした。
おれにもまだやりたいことがあったんだ。そのことに気づいた。
次の日、蓮はすみれに声をかけることに決めた。
「今度の七夕会でピアノコンサート開いたら?」
突然話しかけられたすみれはぽかんとしていた。
「突然なに言ってるの?」
すみれの顔がみるみる赤くなった。
「日菜も目標を見つけてうれしそうにしてただろ?すみれはあのケンカの後、ずっと落ち込んでいたけど、日菜があんなに元気になってるんだ。もう心配する必要ないから、自分のこと考えたら?好きなんだろ、ピアノ?」
「好きだけど、でもそんな急に人前でなんて無理よ。」
「うそをついてるな。お前うれしそうな顔してるぞ。」
「してないってば。」
すみれの顔はわかりやすいほど赤くなっていた。
「看護師さんたちにかけあってくるよ。すみれのピアノコンサートと将棋大会を開催してほしいって。」
「そんな勝手に。あと一か月ちょっとだよ。」
「しっかり練習しろよ。聞いてみたいんだ、お前のピアノ。じゃあな。」
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