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起転[承]乱結Λ
31話 売り込み。
しおりを挟む目を覚ますと、棗はおらず、すでに仕事に行っていた。
あちこちに寝癖がついたままキッチンへ行くと、テーブルには朝食と手紙、封筒が置いてあった。
手紙には、サラダが冷蔵庫にあること、帰る時は封筒に入ってある鍵を使ってほしいと書いてあった。
遠慮なく朝食をいただく。
棗が何時に起きて用意してくれたのかはわからないが、ありがたい気持ちと、全く気づかずにすやすや寝ていたことが気まずく思う気持ちで忙しい。
棗の手作りというのと、ここのところの心配ごとがすっかりなくなったのとで、いつもよりたくさん食べてしまった。
『朝ごはん美味しかったです。ごちそうさまでした』
『鍵は次に会うときにお返しします』
メッセージを打ち、片付けをすませて帰る準備をする。
朋志が住んでいるハイツから棗のマンションは、バスと徒歩で、三十分から四十分くらいかかる。
のんびり歩いて、ハイツに戻る。
棗から返信が着ていた。
『お口に合ったようで良かったです』
『できたら週末に泊まって欲しいのですが、大丈夫ですか』
朋志は予定はあっても、動かせない予定はほとんどないので、棗のところに行くのは問題ない。
むしろ楽しみだった。
『大丈夫です』
程なくして返信が返ってきた。
週末は晴れの予報なのでドライブがてら庭園を散歩しないかという提案に、二つ返事で『行きたいです』と返信する。
『朋志さんとデートができるのを楽しみにしていますね』
時間など簡単なやり取りをして、スマホを置く。
--- デートだ
朋志の人生で初めてのデートだ。
すごい。絶対縁が無いと思っていたのに。
棗と行けるならどこでも楽しめるが、庭園を散歩するなんて朋志の好みすぎるスケジュールで、棗が朋志のために考えてくれたことがわかる。
--- 嬉しい
昨日棗が、”朋志だけ”と言ってくれたことは、思い出すだけで、もじもじしそうなくらい照れくさくて嬉しいことだった。
棗はいつも朋志のために何くれとなくしてくれる。心を配ってくれる。
--- 俺はなにかお返しができてるのかな
棗と比べたら、朋志ができることはたかが知れている。かといって、ただなんでもしてもらうばかりでいいのだろうか…。
悶々と考えて空回りしたのは、つい昨日のことだ。
もう棗にお灸を据えられるのはごりごりしているので、この週末の間に、どこかのタイミングで相談してみようと思った。
金曜日、棗の仕事帰りに合わせて訪問する。
「こんばんは」
「来てくれてありがとうございます」
泊まりのセットが入ったかばんをさり気なく朋志から受け取り、持ってくれる。
「ありがとうござい…」
棗の顔が近づいたと思ったら、頬に柔らかい感触。
「えっ」
頬にキスをされた。唇はすぐに離れていく。
「紅茶を淹れてきますね」
「あ、はい。ありがとうございます」
すごい。キスってほんとにチュッって音がするんだ。
どこか間延びしたことを考えながら、一瞬だけだったのに後を引く熱に、心臓がドキドキしているのを誤魔化していた。
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