上 下
62 / 160
起[転]承乱結Λ

18話 今際の際。(いまわのきわ)

しおりを挟む
 俺が生まれた当時、エルフ達の間では魔法が絶対であり、扱える自分達は特別な存在だという考えを持っていた。



 そんな中、魔法の才能を持たずに生まれて来た俺は、里の者達は愚か親からも白い目で見られていた。



 「ファイア!! ファイア!! ファイア!!」



 当然、努力はした。毎日、魔法を唱えていたが、一向に扱える様にはならなかった。



 「はぁ……はぁ……はぁ……どうして俺だけ……」



 「頑張ってるな」



 声のした方向に顔を向けると、一人の男性エルフが立っていた。



 「誰だ、お前?」



 「俺は“トレディ”、よろしく」



 そう言って、トレディと名乗るその男は右手を差し出し、握手を求めた。



 「…………それで? わざわざ笑いに来たのか、トレディ?」



 俺はその手を払い除け、トレディに対して悪態をついた。



 「おいおい、折角心配して来てやったのに、そう冷たくあしらうなよ」



 「冷たく? 事実を述べただけだ」



 「事実だって? 俺はお前の事を笑ったりしないけどな」



 「随分と嘘が下手みたいだな」



 「そんな事無いぜ。こう見ても、人を騙すのは得意な方だ」



 「そうかい」



 トレディの言葉をまともに取り合わず、そそくさと家に帰ろうとした。



 「おいおい、ちょっと待てよ。何処に行くつもりだ?」



 「帰るんだよ、家にな」



 「練習はもういいのか?」



 「もう諦めた。これだけやっても扱う事が出来ないんだ。俺には、魔法の才能が無かったんだよ」



 「そう悲観的になるなよ。諦めなければきっと……あっ、おい!!」



 結局、最後まで聞かず、足早にその場を離れた。



 「(明日は別の場所で練習しないといけないな)」



 俺は嘘をついた。諦めきれなかった。魔法を扱える様になって、皆から認められたい。その為には、気の散る存在が側にいてはいけないのだ。







***







 「よっ、今日も頑張ってるな」



 「…………」



 次の日、場所を変えて魔法の練習をしていると、トレディが軽い挨拶を交わしながらやって来た。



 「上手く撒いたつもりだったかもしれないが、俺は信じていたぜ。お前は決して諦めない男だってな」



 「…………何が目的だ?」



 「え?」



 「エルフなのに魔法が扱えない俺を、嘲笑いたいのか!? それとも、日頃のストレス解消として利用したいのか!?」



 四六時中、周囲から迫害を受け、ストレスが溜まっていた俺は、二日連続で付きまとって来たトレディに向かって、怒りをぶつけた。



 「俺は只、お前の力になりたいんだ」



 「力になりたい!? なら、二度と関わらないでくれ!! 魔法が扱えるお前には分からないかもしれないが、扱えない俺からしたら、お前が側にいるだけで劣等感を感じて、集中する事が出来ないんだよ!!」



 「…………」



 「……そ、そう言う訳だから、もう関わって来るなよ……」



 大声を上げた事で、気まずい雰囲気になってしまい、居た堪れなくなった俺は逃げる様に、その場を去った。



 「ちょっと言い過ぎたか? いや、面白半分で来たあいつの方が悪いんだ。そうさ、俺は悪くなっ……!!?」



 などと、歩きながら自問自答で罪悪感を払拭しようすると、道中で擦れ違ったエルフ達の一人と肩がぶつかってしまった。



 「何すんだって……お前、確か魔法が扱えない……」



 「…………」



 「あっ、おい!! 待ちやがれ!!」



 関わり合いを持ちたくなかった俺は、その場を走り出して逃げようとした。



 「待てって言ってんだよ!! “ファイア”!!」



 必死で逃げる中、追い掛けるエルフ達の一人が魔法を唱えた。赤々と燃える炎が生成され、そのまま俺目掛けて放たれた。



 「ああああああ!!!」



 背中に直撃した炎は、やがて全身を包み込んだ。急いで消火を試みるが、魔法で生成された炎は、詠唱した者より高い実力が無ければ、消す事が出来ない。つまり、魔法が扱えない俺はその命燃え尽きるまで、もがき苦しむしかなかった。



 「お、おい……これヤバいんじゃないか?」



 「し、知らね!! 俺、知らね!!」



 「俺も!!」



 想像以上に苦しむ俺の姿を目の当たりにしたエルフ達は、責任逃れの如く慌ててその場を去った。



 「(せめて……消してから逃げろよな……あぁ、このまま死ぬのかな……結局、俺は誰にも認められず、死ぬんだな……)」



 意識が遠退く。惨めな日々を過ごした俺の人生は、惨めなラストを迎えるのだった。



 「“ウォーター”!!」



 が、その直後何処から途もなく放たれた水によって、全身を覆っていた炎が消火された。



 「大丈夫か!!? おい、しっかりしろ!!」



 すると目の前に、トレディが現れた。どうやら先程の水は、トレディの唱えた魔法だったらしい。



 「うぅ……」



 「火傷が酷い……急いで薬剤師の所に連れて行かないと!!」



 そこで俺の意識は途絶えた。覚えているのは断片的な記憶で、重症の俺をトレディが担ぎ上げ、治癒用のポーションなどを作っている里の薬剤師の下へ、運んだ。







***







 「…………んっ……」



 目を覚ますと、そこは薬剤師が経営する診療所のベッドの上だった。



 「おっ、目が覚めたか?」



 「お前…………」



 側にはトレディがいた。俺が目を覚ましたのを確認するとあいつは、いつもと同じ態度で気さくに話掛けた。



 「いやー、ポーションって効くんだな。あんなに酷かった火傷が、綺麗さっぱり無くなってるんだからな」



 「……何で……」



 「ん?」



 「何で俺なんかを助けたんだよ……知ってるだろ、里中から迫害されているの……」



 「あぁ、知ってるよ」



 「なら、どうして助けたんだ? こんな事をすれば、お前だって立場が悪くなるぞ」



 「……俺はさ、常々この里の考え方は間違っていると思ってるんだ。ユグジィも、そう思うだろ?」



 「それは……」



 「魔法は便利だ、それは認める。でも優れているかと問われれば、そうとは言い切れない。魔法にだって、得意不得意がある。それは生き物にも同じ事が言える。エルフだからと言って、必ずしも魔法が扱える訳じゃない。皆、それぞれ個性があり、その個性を尊重する事が大切なんだ」



 ずっと思っていた。もしかしたら俺は、エルフ達の中で異物なんじゃないかと。間違っているのは、周りの連中では無く、エルフなのに魔法を扱えない俺の方なのでは。だけど今、目の前に俺と同じ想いのエルフがいた。



 「ユグジィ、俺いつか里の長になろうと思っているんだ」



 「えっ?」



 「長になれば、皆の考え方を変えられるかもしれないだろ?」



 「そうかもしれないな……」



 「それでさ、お前には俺の補佐をして貰いたいんだ」



 「補佐?」



 「あぁ、俺一人だけじゃ、どうしても力不足だ。でも、俺達二人が力を合わせれば、きっと里を変えられる!!」



 「……い、いやいや、無理だよ!! だって俺、魔法扱えないし……」



 「それが何だ!? 俺達が目指すのは、魔法が全てじゃないという柔軟な考えを持った里だ」



 「いやでも、俺なんかが関わったら、迷惑になるし……」



 「ユグジィ……“一人で抱え込まないでくれ”!!」



 「!!!」



 「俺達、同じ想いを抱く仲間だろ!? それぞれが辛い想いをしていたら、その気持ちを分かち合って、少しでも負担を減らすんだ!! お前の気持ちの半分は俺が背負う。だから、俺の気持ちの半分はお前が背負ってくれ!!」



 「トレディ……わかった、わかったよ。お前には負けたよ」



 「そうこなくっちゃ!!」



 根負けした俺に、トレディは嬉しそうに笑みを浮かべた。



 「けど真面目な話、魔法が扱えないエルフを背負うのは、足枷になるぞ? どうするつもりなんだ?」



 「そうだな……魔法が扱えないのなら、肉体面を鍛えるってのはどうだ?」



 「肉体? 体を鍛えるのか?」



 「そうだ、丁度良い事にここの薬剤師が取り扱っている薬草が、お前の治療で底をついた。どうやら里からかなり離れた位置に、自生しているらしい。それを毎日ダッシュで取りに行ったらどうだ? 代金の代わりにもなるし」



 「うーん、それは別に構わないけど、筋肉ムキムキなエルフって気持ち悪くないか?」



 「そうか? 俺は強そうで良いと思うけどな」



 「……まぁ、それならやってみるかな」



 「よし!! ここからが俺達の伝説の第一歩だ!! やるぞぉおおおおお!!!」



 「全く……大袈裟だな……」



 だけど、悪い気はしなかった。そうして俺とトレディによる、里の長になる為の戦いが始まった。







 「さてさて~、エルフの里は何処にあるのでしょうかね~?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

出撃!特殊戦略潜水艦隊

ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。 大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。 戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。 潜水空母   伊号第400型潜水艦〜4隻。 広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。 一度書いてみたかったIF戦記物。 この機会に挑戦してみます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...