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恋人ムーヴ

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「ミリアの可愛いところ、たくさん教えてあげるね」

蕩けるような笑みを浮かべてハルト様が口を開く。


「一番可愛いところはね」

そう言うと、彼はそっと私から体を離し、少し名残惜しく感じてしまう。


「すぐ照れてしまうところかな」

「っ、何を」


ハルト様は徐に私の手を取り、あろうことかそっと口付けを落とすのだった。

彼からこんなことをされてしまうのは初めてのことではないが、その度に私は心臓が破裂してしまうほどドキドキしてしまう。



「ほら顔真っ赤だよ?可愛い」

「うっ…ずるいです」


心底愛おしいというような表情を浮かべるハルト様。

甘すぎると思う…



「ハルト様は、その…もしかすると、こういうことに慣れてるんですか…?」


私はいつもいっぱいいっぱいなのに、彼はどうしてこうもサラッとこんなことができるのだろうか。

その答えは一つ、彼が経験豊富で慣れているからなのかもしれない。



「ミリアさん」

「…はい?」


「僕は君に話した通り、アカリのこともあって、他の女性とどうにかなったことはないよ」


それは、そうですけど…


「それにしては、慣れてません?」

「そう見えるだけじゃないかな?ほら、スマートぶってるんでしょ?僕って」


どうやらハルト様は先程のことを根に持ってしまっているみたいだ。

別にバカにしてスマートぶってるなんて言ったわけではないのに。



「それに」


ハルト様は少しだけ唇を尖らせてムッとした表情を浮かべる。



「僕ら、キスだってまだしたことないの、気づいてる?婚約して一年も先に進めない男のどこか手馴れてるのさ」


爆弾を落とされた気分だ。



「……キス」

「その反応は、全然意識してなかったみたいだね。僕だって男なのに」


「うっ」

「ミリアはしたくない?キス」

「やっ、あの、、それは…」


やっぱりハルト様はずるい人だと思う。

どうしてわざわざ私に聞くんてすか…?



「ごめんね、やっぱり僕まだ自分に自信が持てないから、ミリアにちゃんと確認しないと不安で…」

「…それにしては楽しそうですよ」


健気なセリフに思えるけど満面の笑みは隠せていない。

これはからかって遊んでるだけだ。



「ハルト様は意地悪です」

「嫌いになった?」


「…もう!そんなことで嫌いになりません!!わかってるでしょう!?」

怒ってそう言うとハルト様はにこにこと笑みを浮かべていた。

…悔しいけど、可愛い。



「僕はしたいよ、キス」

「なっ…!」


「してもいい?」

「っ、う………ハルト様なら、」


恥ずかしい。

顔から火が出そうだ。


ハルト様の掌で転がされている気がする。

そして、そんな状況なのに、嫌じゃない自分が悔しい。



「ミリア…」


ハルト様が優しい手つきで私の頬に手を添える。


どこまでも甘い瞳に見つめられると頭がぽうっとして何も考えられなくなる。



ゆっくりと近づくハルト様に私はそっと瞳を閉じた。



トントン


ガチャ


「オーツ公爵、姉上は変わりありませんか?」


「……ユリウス、返事もまたずに扉を開けてはノックの意味がありませんよ」


突然やってきたユリウスによって私達の唇が触れ合うことはなかった。

恥ずかしいような残念なような、そんな気持ちが溢れて、一周回って私はユリウスのマナーに冷静に苦言を呈していた。



「すみません姉上!姉上の容態が気になってしまって…でも、良かったです!目を覚まされたんですね!!」

さっと謝罪を済ませるとユリウスは嬉しそうにそんなことを口にする。



「あの、姉上…オーツ公爵と、距離が近すぎませんか?」

「え、ええ、そうね」


「距離も近くなるんじゃないかな、僕ら婚約者だし」

「不純ですよ!」


何故かぷんぷん怒るユリウスと、面白くなさそうなハルト様。

この二人はウマが合わないのか、出会った頃からあまり仲が良くなかった。



「不純、ねえ…男女の仲に弟が口を挟むなんて無粋だと思うけど」

「些細な心配まで撥ね付けるなんて姉上の婚約者は随分と狭量な方のようですね」


「やっぱり君とは仲良くできそうにない」

「僕はオーツ公爵とも仲良くしたいのですが…公爵が僕を嫌いなら仕方ありませんね。ごめんなさい姉上、姉上の大切な方に嫌われてしまいました」


ユリウスは申し訳なさそうな表情を浮かべてそんなことを口にする。

まるで捨てられた子犬のようだ。


思わずその金色の頭を撫でると、彼は嬉しそうに花の咲くような笑みを浮かべた。



「励ましてくれるんですね。大好きです姉上!」

「ふふっ、私も可愛いユリウスが大好きよ」


「ミリア…」

恨めしそうなハルト様の声が聞こえた。


「あれ、公爵まだいたんですか?そろそろ執務も溜まってきたのでは?姉上のことは僕に任せて公爵家に帰った方がいいですよ」

ユリウス、姉上はあなたのこんなに冷たい声は聞いたことありません。

彼は可愛いだけの弟ではなかったようだ。


「君の方こそ失われた信頼を取り戻すのに忙しいんじゃない?僕はもうしっかりミリアと愛を確かめ合ったけど…君は甘ったれの第三王子のままで大丈夫なの?」

「僕だってこれからうんと忙しくなるんです!隣国に行く前に姉上ともっと一緒に…」


「でも、離れる時名残惜しくなるんじゃない?」

「うっ」

「決意が鈍ったら一生愚鈍な第三王子のままになってしまうよ?」

ハルト様…愚鈍はちょっと、言い過ぎじゃ…


「結婚式の招待状ならちゃんと送るから大丈夫だよ」

「やっぱり僕はオーツ公爵なんて嫌いです!」


ユリウスはそれだけ言うと涙目で部屋を後にするのだった。


「ハルト様、いじめすぎです」

「うん、ごめんね。早くミリアと二人っきりになりたくて」


こんなことを言われて絆されない人間がいたら紹介して欲しい。


「はぁ…もういいです」




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