その男爵令息は一筋縄ではいかない。

のんのこ

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公爵家とズブズブになっちゃいましょう?

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イアン様に私れの気持ちが微塵もないことはわかりかっていたけれど、そんなことで諦められるような想いではなかった。



「それでも私は、貴方がいいんです」

「そんなの、ただの我儘でしょ」


眉間に皺を寄せる彼を見つめてもう一度口を開く。


「イアン様のそばにいさせてください」


めげない言葉を吐き続けると、イアン様は圧倒されたようにぐっと息を飲んだ。

なんだかもう一押しな気がする。



「自分は成り上がりだからと、私のことを心配してくれる気持ちは嬉しいですけど、私は貴方と一緒にいられたらそれで結構幸せですよ?」

「っ、別にアンタのこと心配なんて」


「だったらいつもの様に自分のメリットだけ考えて行動したらいいじゃないですか」


男爵家である彼にとって、私と結婚することは貴族社会で生きていくための大きな後ろ盾ができるということ。



「公爵家とズブズブになっちゃいましょう?」

「…言い方」

「いつも他人なんて気にしていないくせに、どうしてこんな好条件の話渋っちゃうんですか!そんなに私を心配してるんですか?もしかして、私のこと好きなんですか!?」


勢いよく捲し立てる私に、根を上げたのはイアン様の方だった。



「…わかった、アンタの案に乗ってあげる。ま、五億パーセント、アゼルシュタイン公爵に反対されるだろうけどねぇ」

「うちの父は寛大なのでご心配なく」

「はっ、どうだか」


嫌味っぽく鼻で笑うイアン様に、私はとびっきりの笑みを返した。



■□



二日後、再び彼の屋敷を訪れ、父に結婚を許された旨を彼に告げると、イアン様は絶句して目を見開いた。



「アンタの父親頭おかしいんじゃない!?」

「誇り高きアゼルシュタイン公爵になんてこと言うんですか。不敬罪で捕まりますよ?」

「…いや、だってそうでしょ」


まあ、そんなことを思われても仕方ないのかもしれない。


「イアン様と結婚したいと父に告げたら、へえ面白いね、いいんじゃない?と二つ返事で了承してくださいました。本当に、心の広さが大海レベルです」

「いやそれ心の広さ関係ないよね?もしかしなくてもアンタの頭のネジの外れ具合は父親譲りでしょ」

「母も大笑いしていましたから両親譲りでしょうか」


「ぶっ飛んでるね」

そう言うイアン様の瞳は虚無だった。



パンっと仕切り直すように一つ手を打って口を開く。


「と言うことで、私とイアン様の結婚を阻むものは何もありません!だからイアン様も、心置き無く私と結婚してくださいませ」

「…圧が強すぎて怖いんだけど」


若干引き気味な声。

私はまじまじと彼を見つめ、そっと口を開いた。



「イアン様は、私との結婚は嫌ですか?ここまで強引に話を進めてしまいましたが、イアン様がこの話を渋る理由が私への嫌悪から来るものなら、私も大人しく身を引きます」


「なに急にしおらしくなって、怖いんだけど?情緒不安定なの?」

「さすがに私も人一人の将来がかかっていることに独善的な無理を通したりなんてしませんよ」


最終的に決断を下すのはイアン様であるべきなのだ。

私にできるのは自分を売り込むことだけ。



「別に俺は、誰が嫌とかそんなことじゃなくて…結婚ってものが面倒くさいわけ」

「面倒くさい、ですか」


「て言うかなんなの?貴族社会の徹底的に夫をたてる様な、男尊女卑的な態度。言われるがまま家のことをやって、夫や子どもの世話をするだけの生活って…それって使用人と何が違うわけ?そんな人間と共同生活なんて息が詰まるでしょ」

「まあ、貞淑で旦那様に尽くすことが良妻と考えられている時勢ですからね。でも、私はそんな妻でいる気はさらさらありませんよ?」



「だろうね」

イアン様はそう返事を返すと、小さく息を吐いた。


「どうせいつかは覚悟を決めなきゃいけないんだったら、今アンタを受け入れるのも悪くは無いかもねぇ」

「…っ!」


「アンタちょっと頭おかしいけど、その分退屈はしなさそうだし…アンタが目いっぱいプレゼンした公爵家やアンタ自身のメリットは、正直魅力的だ」


お父様、お母様、私を公爵家のご令嬢に産み落としてくれてありがとうございます。

心から感謝いたします。



「はぁぁぁあ……いいよ、結婚しようか」


決心した様に大きく息を吐き出して、彼は私を見つめながらそんなことを口にするのだった。





「…本当ですか?!」


「これ以上アンタと攻防を続ける方が面倒になってきちゃったしね」




これぞ正しく粘り勝ちというやつなのだろう。


なんにせよ、難攻不落だったイアン様が、私を初めて受け入れてくれた瞬間だった。





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