4 / 14
公爵家とズブズブになっちゃいましょう?
しおりを挟むイアン様に私れの気持ちが微塵もないことはわかりかっていたけれど、そんなことで諦められるような想いではなかった。
「それでも私は、貴方がいいんです」
「そんなの、ただの我儘でしょ」
眉間に皺を寄せる彼を見つめてもう一度口を開く。
「イアン様のそばにいさせてください」
めげない言葉を吐き続けると、イアン様は圧倒されたようにぐっと息を飲んだ。
なんだかもう一押しな気がする。
「自分は成り上がりだからと、私のことを心配してくれる気持ちは嬉しいですけど、私は貴方と一緒にいられたらそれで結構幸せですよ?」
「っ、別にアンタのこと心配なんて」
「だったらいつもの様に自分のメリットだけ考えて行動したらいいじゃないですか」
男爵家である彼にとって、私と結婚することは貴族社会で生きていくための大きな後ろ盾ができるということ。
「公爵家とズブズブになっちゃいましょう?」
「…言い方」
「いつも他人なんて気にしていないくせに、どうしてこんな好条件の話渋っちゃうんですか!そんなに私を心配してるんですか?もしかして、私のこと好きなんですか!?」
勢いよく捲し立てる私に、根を上げたのはイアン様の方だった。
「…わかった、アンタの案に乗ってあげる。ま、五億パーセント、アゼルシュタイン公爵に反対されるだろうけどねぇ」
「うちの父は寛大なのでご心配なく」
「はっ、どうだか」
嫌味っぽく鼻で笑うイアン様に、私はとびっきりの笑みを返した。
■□
二日後、再び彼の屋敷を訪れ、父に結婚を許された旨を彼に告げると、イアン様は絶句して目を見開いた。
「アンタの父親頭おかしいんじゃない!?」
「誇り高きアゼルシュタイン公爵になんてこと言うんですか。不敬罪で捕まりますよ?」
「…いや、だってそうでしょ」
まあ、そんなことを思われても仕方ないのかもしれない。
「イアン様と結婚したいと父に告げたら、へえ面白いね、いいんじゃない?と二つ返事で了承してくださいました。本当に、心の広さが大海レベルです」
「いやそれ心の広さ関係ないよね?もしかしなくてもアンタの頭のネジの外れ具合は父親譲りでしょ」
「母も大笑いしていましたから両親譲りでしょうか」
「ぶっ飛んでるね」
そう言うイアン様の瞳は虚無だった。
パンっと仕切り直すように一つ手を打って口を開く。
「と言うことで、私とイアン様の結婚を阻むものは何もありません!だからイアン様も、心置き無く私と結婚してくださいませ」
「…圧が強すぎて怖いんだけど」
若干引き気味な声。
私はまじまじと彼を見つめ、そっと口を開いた。
「イアン様は、私との結婚は嫌ですか?ここまで強引に話を進めてしまいましたが、イアン様がこの話を渋る理由が私への嫌悪から来るものなら、私も大人しく身を引きます」
「なに急にしおらしくなって、怖いんだけど?情緒不安定なの?」
「さすがに私も人一人の将来がかかっていることに独善的な無理を通したりなんてしませんよ」
最終的に決断を下すのはイアン様であるべきなのだ。
私にできるのは自分を売り込むことだけ。
「別に俺は、誰が嫌とかそんなことじゃなくて…結婚ってものが面倒くさいわけ」
「面倒くさい、ですか」
「て言うかなんなの?貴族社会の徹底的に夫をたてる様な、男尊女卑的な態度。言われるがまま家のことをやって、夫や子どもの世話をするだけの生活って…それって使用人と何が違うわけ?そんな人間と共同生活なんて息が詰まるでしょ」
「まあ、貞淑で旦那様に尽くすことが良妻と考えられている時勢ですからね。でも、私はそんな妻でいる気はさらさらありませんよ?」
「だろうね」
イアン様はそう返事を返すと、小さく息を吐いた。
「どうせいつかは覚悟を決めなきゃいけないんだったら、今アンタを受け入れるのも悪くは無いかもねぇ」
「…っ!」
「アンタちょっと頭おかしいけど、その分退屈はしなさそうだし…アンタが目いっぱいプレゼンした公爵家やアンタ自身のメリットは、正直魅力的だ」
お父様、お母様、私を公爵家のご令嬢に産み落としてくれてありがとうございます。
心から感謝いたします。
「はぁぁぁあ……いいよ、結婚しようか」
決心した様に大きく息を吐き出して、彼は私を見つめながらそんなことを口にするのだった。
「…本当ですか?!」
「これ以上アンタと攻防を続ける方が面倒になってきちゃったしね」
これぞ正しく粘り勝ちというやつなのだろう。
なんにせよ、難攻不落だったイアン様が、私を初めて受け入れてくれた瞬間だった。
10
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました
Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。
どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も…
これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない…
そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが…
5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。
よろしくお願いしますm(__)m

【完結】円満婚約解消
里音
恋愛
「気になる人ができた。このまま婚約を続けるのは君にも彼女にも失礼だ。だから婚約を解消したい。
まず、君に話をしてから両家の親達に話そうと思う」
「はい。きちんとお話ししてくださってありがとうございます。
両家へは貴方からお話しくださいませ。私は決定に従います」
第二王子のロベルトとその婚約者ソフィーリアの婚約解消と解消後の話。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
主人公の女性目線はほぼなく周囲の話だけです。番外編も本当に必要だったのか今でも悩んでます。
コメントなど返事は出来ないかもしれませんが、全て読ませていただきます。
子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる
佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます
「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」
なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。
彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。
私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。
それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。
そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。
ただ。
婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。
切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。
彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。
「どうか、私と結婚してください」
「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」
私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。
彼のことはよく知っている。
彼もまた、私のことをよく知っている。
でも彼は『それ』が私だとは知らない。
まったくの別人に見えているはずなのだから。
なのに、何故私にプロポーズを?
しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。
どういうこと?
============
「番外編 相変わらずな日常」
いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。
※転載・複写はお断りいたします。


一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる