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家族

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「るいしゅっ!ぎゅううー」

小さな体で精一杯ルイスを抱きしめる姿が微笑ましくて思わず笑みがこぼれる。


舌っ足らずな言葉で私とセドリック様、ついでにルイスのことまで魅了しているこの天使は…私達の大切な娘。


今年三歳になるシルヴィアは、セドリック様譲りの栗色のふわふわな髪と私譲りの淡い紫色の瞳を持つ可愛い可愛い女の子だ。

親の贔屓目なしに、将来は社交界の華になること間違いなしだろう。



「るいしゅはかあいいねー?」

「シルヴィアの可愛さには負けるぜ?」

ルイスの声がシルヴィアに聞こえることはないが、それでも二人は兄妹のように仲良く育っている。


ルイスは良いお兄様で、公爵家の当主であるセドリック様と、それに伴ってなにかと忙しい私達の代わりによくシルヴィアの相手をしてくれている。


「ルイス君、いつもありがとうね」

「僕からもお礼を言うよ、ルイス」


愛しい猫と我が子の触れ合いに内心悶絶しながら感謝を述べる私達。

愛おしさが込み上げて仕方ない。


「シルヴィ、るいしゅとけっこんすゆの!」

「うんうん、お母様は賛成だわ!」

大切な我が子を何処の馬の骨ともわからない男に託すくらいならば、喜んでルイス君に任せたい。


「……お父様は反対かな?確かにお父様もルイスのことは愛しくてしょうがないけど、ちょっと荒っぽいところあるし、お母様に懸想していたやっかいな子なんだよ?」

「ふんっ父親のくせに心狭いんだよお前。つーか懸想してたってなんだよ今だって俺はミレイユ一筋だぜえ?」

意地悪な笑顔でそんなことを言うルイス君。


「あらっ、嬉しいわルイス君」

「ミレイユ!?君はルイスと僕どっちの味方なんだい!?」

私はどちらも大切に思っておりますわよ?


「るいしゅ!きょうもシルヴィといっしょにねてくれる?」

「しょうがねえな~シルヴィアは」


「シルヴィア、ルイス君がいいよって言ってるわよ」

「ほんとぉ?るいしゅありがとっ」

ぎゅうぎゅうと強く抱きしめるシルヴィアに、ルイス君は少し苦しがりながらも満更でもない笑みを浮かべた。

ここ数年で、ルイス君の表情がだいぶわかるようになったな。

これも猫化して良かったことの一つだ。



「娘が僕よりルイスに懐いている気がする…」

「ふふっ、そうかもしれませんわね」


私の言葉にセドリック様はこの世の終わりのような表情を浮かべてがっくりと肩を落とした。


「ミレイユは僕とルイス、どっちが好きなの?」

また面倒くさいことを…


「そんなにいじいじしているセドリック様なら、ルイス君の方がまだかっこいいかもしれませんわ」

「そ、そんな…!」


…そんな涙目にならなくても。


「はぁ」

私はため息を一つ落として口を開く。


「比べることではありません。ルイス君にはルイス君の、セドリック様にはセドリック様の素敵なところがありますわ?」

「ミレイユ…」


「ルイス君に嫉妬して猫になろうとまで思わせた相手を、愛していないわけがないでしょう?」

恥ずかしいことをわざわざ言わせないでくださいませ。


「ミレイユ、僕も愛しているよ…!」

「そうですか、ありがとうございます」


私は淡々とそう返事を返し、愛しい我が子達に目を向けた。


はぁ、可愛い…

うっとりする私に、セドリック様はじっとりとした視線を送った。


「…ミレイユはやっぱりルイスの方が好きなんだ」


あなた、ルイスにばかりかまけて私を放置しまくっていた歴史があるこを忘れていませんか?







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