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おもしれー女

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ホームルームになると、彼の根回しの結果同じクラスになったらしいクロードが担任から紹介される。



「クロード・フォン・グローリアだ。隣国の王太子ではあるが、身分の垣根は越えて、学園では一学友として接してくれ」

そんな挨拶に周囲が驚きで息を飲むのがわかった。



「ちなみにこのクラスのリリス・ホーガンとはいとこになる。彼女の母君が私の父の妹なんだ」


どうやら知らなかったクラスメイトも多かったらしい。

目を見開いてこちらを凝視してくる彼らに、もう少し貴族社会に興味関心を持つべきじゃないかと心配になってしまった。



中にはサッと顔を青くする人たちもいて、きっと私への態度にどこか後暗いものでもあったのだろう。





「リリス、飯食いに行こうぜ。ランチルームまで案内してくれよ」


「猫を被るなら最後まで貫き通しなさいよ」

「人前で挨拶する時はつい外面が良くなっちまうんだよ。この学園は一応生徒の平等を謳ってんだろ?平気だって」



生徒平等をポリシーに掲げていようが、貴族子息や令嬢がこぞって通うここは、言わば貴族社会の縮図の様なものだった。

この男は少々うちの国を舐めすぎではないだろうか。


国力の差はあれど、いとこながら呆れてしまう。






ランチルームにやってくると、またもや注目を集めるクロードに最早彼と一緒にいることすら面倒くさくなってきた。



「あんたもう一人で行動したら?」

「お前それは冷たすぎねぇ?」



ちらちらとこちらに送られる視線が鬱陶しい中、奥の方に見慣れた三人の姿を捉える。


ジャンにフランツ、メローナだった。



「おっ、お前の元婚約者じゃん」

面白いものを見つけたようなクロードの反応に思わず顔を顰める。



嫌な予感しかしない。



ツカツカとそちらに歩き出してしまったクロードの後を追うと、なんだか芳しくない顔色のフランツがこちらを見つめていた。



「よう」

クロードの声は、思ったよりずっと低い。




「…隣国の王太子のあなたが、どうしてわざわざうちの国に留学なんて」


「どうして、か。うちの大切ないとこが婚約者に捨てられたなんて話を聞いて居ても立ってもいられずにな。その節は世話になったな、フランツ王太子殿下?」


やけに喧嘩腰のクロードに頭を抱える。



「っ、その女の悪行はどうやらそちらの国までは広まっていないようだ」


「リリスの悪行?お前の醜聞ならうちの国まで届いてるぜ?」



フランツは顔を真っ赤にさせ、ひどく憤慨しているようだった。

昔から、この二人は折り合いが悪い。



と言うか、クロードがわざとフランツを挑発し、それに思うように乗せられているフランツの姿をよく目にしていた。




「クロード、もう行きましょう」

「ええ、俺まだこいつ話したいことあるんだけど」


不満気なクロードを引っ張り、無理やりその場を後にしようとした時だった。




「あの、フランツを責めないでくださいっ」



そんな声がかかった。



「あ?お前誰だよ」

わかっているくせに嫌味ったらしい口調で言葉を返すクロードは、私と同じくらい性格が悪い。



「っ、フランツの友人です」


そんな言葉に思わず目を丸くしてしまった。



友人?

この期に及んで、彼女はフランツを友人としてカテゴライズしているのか。



あなた達、とっくの昔に結ばれてるでしょう?




「私の聞き間違いかしら?今あなた、フランツとは友人と、そう言ったの?」


「へ?リリス様は私たちの関係ならよくご存知なのでは?」



「あなたと結ばれるために、フランツは私との婚約を解消したのよね?」


それなのに、フランツの目の前で堂々と彼を友人だなんて、この女はどんな神経をしているのだろうか。




「ええ、まあ、幸せなことにフランツは私に想いを寄せてくれています。だけど私はまだ自分の気持ちに答えがでなくて、」


「あんた本当に頭おかしいんじゃない?」



意図せず口をついて出てしまった言葉に、隣のクロードが吹き出す。

肩を震わせる彼を無視して話を続けた。




「あなたの存在を理由に、フランツが私との婚約を解消した時点で、もうあなた達は言わば国公認の婚約関係でしょう?」


「でも、私はまだフランツと結ばれるかなんてわかりませんから…」



何も言わないフランツは、この女の考えに賛成しているのだろうか。


もう訳が分からない。




「だったら、フランツは全て独断で私との婚約を解消したの?」


「それは、フランツがリリス様との婚約を嫌がっていたから、彼の幸せのためなら解消した方がいいと思って。だって私は、フランツに幸せになってほしかったんです!」


「メローナ…」



メローナの言葉に胸を打たれたような声をあげるフランツに目眩がした。

この国の未来が本気で心配になる。



人生で初めてクロードの妻になるなんて未来が少しだけ魅力的に思えた程だ。




「私だってメローナを無理やり王太子妃にする気はない。メローナの意思を尊重するつもりだ」

「そんな不確定な未来のため、公爵家との信頼関係にひびを入れたというわけですか」




「フランツを責めないでください!手放しに彼を選べない私が悪いんですっ…」


瞳に涙を浮かべたメローナがそんなことを言う。



「ええ、あなたが悪いのは大前提よ。邪魔だから引っ込んでくれる?」


「っ、リリス様はいつも私にひどいことばかり言いますね…そんなに私が嫌いですか?」


「大嫌いだと、そう何度も言っているじゃない」



耐えかねた様に笑い出すクロード。

訳の分からない切なげな表情を浮かべるフランツに、さめざめと涙を零すメローナ。


やっぱり今日は学園を休むべきだったわ。





「それに、私がフランツを選べないことにも、ちゃんとした理由があるんですっ」



わざとらしく困ったような表情で、メローナは爆弾を落とす。






「最近、フランツと同じように、ジャンのことが気になってしまって…」





「それって、とんだアバズレじゃない」


「っ、そんな…この想いはもっと純粋なものです!二人とも、私にすごく良くしてくれるから…私も自分の気持ちがわからなくなってしまって」



ジャンのことは怖くて見れなかった。

きっと、希望に満ち溢れたとっても素敵な表情をしているのだろうけれど。





「メローナ、だっけ?」


笑いを噛み殺したクロードが、彼女に言葉をかける。

その声はいつになく優しげで、ひどく胡散臭い。




「おもしれー女」

「へ?」



「俺とも仲良くしてよ?」



緩く笑みを浮かべる彼。

整った容姿も相まって、免疫の無い人間なら悩殺ものだろう。



「俺はクロード、よろしくな?」

「っ、えと、うんっ」



頬を赤らめて頷くメローナは随分と気が多いようだった。




視界に入ったフランツの顔は死んでいた。








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