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僕と友達になるのは嫌?

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馬車の窓から、そう遠くなかった王宮が見えてくる。

二人ぼっちの幸せな時間がもうすぐ終わってしまうことが、なんだか少し残念に思えた。




「あのね、ジャン。私は貴方を一方的に慕っている身だから、貴方に利用されても怒る権利なんてないのよ。だけど、貴方は違うでしょう?」


彼は、ジャンは…フランツとメローナの友人だ。

そこで彼がメローナに想いを寄せているからといって、それは変わらない。

現に今でも傍で過ごしているのは彼らがジャンを友人と認めているからだろう。



「ジャンには、怒る権利があるのよ?」


いくら身分に差があったとしても、友人関係の中では、立場は対等なはずだ。

ジャンばかりが不利益を被るなんて、やっぱりおかしい。



「怒る、権利…」

噛み締める様に呟いた彼に小さく頷く。



「そんなこと、思ってもみなかった」

彼はぽつりぽつりと言葉を紡いだ。



「メローナとフランツは結ばれてしまったから、僕が身を引くのは当たり前で…僕は二人の友人だから、彼らが望むことならやってやらなきゃって」


「ジャンは優しい人よ」


唇を噛み締める彼に私はゆっくりと口を開いた。


「だけど、それで貴方が自分を犠牲にするのは違うわ。そういうのは、これまでの殿下やメローナさんとの友情まで傷つけてしまう行為なんじゃない?」


勿論、それはジャンだけに非があるわけでは全く無いのだけど、彼自身がそういう気持ちを持つことは必要だと思った。




「…本当は、嫌だったんだ」

彼は、一呼吸置いて、ぽつりと言葉を零した。



「二人が結ばれた途端、フランツは僕をどこか敵対視しているようだったし、メローナだってそんな彼に何か言うわけでもなく…僕らが彼女のためにピリピリしていると、なんだか嬉しそうにしているし」


フランツは相変わらず呼吸をするゴミのような男だけど、メローナもメローナだ。

私のために争わないで、なんて言葉を心底嬉しそうに口にする姿が容易く想像できる。


彼女の脳内お花畑具合も相当ね。



「でも、所詮僕は選ばれなかった人間で、二人が形だけでも仲良くしてくれてることに感謝しないといけない立場だと思ってた」

「…貴方って勉強はできるのに、あんまり頭が良くないの?」

「リリス嬢は辛辣すぎる」


もう一度言うが、友人関係は対等であるべきだ。

どちらかが優位に立ってしまった時点で、その関係は破綻している。


「…ちゃんと話してみるよ」

「ええ、あんなひよっこ達、ジャンがブチ切れたら一発よ!応援してるわ」


拳を握って励ます私に彼は小さく笑みを漏らした。


「ありがとう、リリス嬢」


お礼を述べられてなんだか恥ずかしくなってしまう。




「次は、君が僕に怒る番だね」

そう言う彼に、何の事だかよくわからず目を瞬かせた。


「私は別に…」

「友人なら、利用されたら怒ってもいいって言ったよね?」


そうね、友人なら。

だけど私達の関係は、私がジャンに一方的に好意を寄せているだけに過ぎない。



「リリス嬢、僕と友達になってくれない?」

「友達…?」


「と言うか、僕はもうリリス嬢のこと友人だと勝手に思ってたんだけどね」


そんな言葉を聞いて驚いてしまう。


「私はメローナを虐める悪女よ?」

「君はメローナを虐めたりはしてないよ。少なくとも噂の様に彼女の物を隠したり、暴力を振るったりはしてない。ただフランツやメローナに対してあたりがきついだけだ」

「暴言や悪口も虐めでは?」


私がそんな言い分に言葉を返すと、彼は少しムッとして唇をとがらせた。



「どうして君を庇う言葉まで否定するの?」

「…だって、事実だし」

「だとしても、君が彼らにかけた言葉より、君が二人のせいで被った被害の方が大きかったはずだよ」


それはたしかに、婚約破棄に、いわれのない誹謗中傷だってあったけど…

それは私のこの性格も少なからず影響しているはずだ。


「まだ納得してないみたいだね。はぁ、君は頑固だ」

「頑固なんかじゃ…」



「ねえ、リリス嬢」

幼子に語りかけるような優しい口調で、ジャンは言葉を続けた。


「僕と友達になるのは嫌?」



こてんと首を傾けるジャンにドキッと心臓が跳ねる。

その顔はずるいと思う。



「嫌じゃ、ないわ」

「なら良かった」


にっこりと微笑む彼に、私はきっと一生勝てないのかもしれない。

悪女も形無しだ。



「じゃあ、僕にたくさん怒っていいよ?」

「…怒ることなんてないのに」



「それじゃあ、こういうのはどう?」


怒りなんて微塵もない私に納得できないのか、彼はとある提案を持ちかける。


「リリス嬢のお願いを僕が一つだけ叶えるよ」

「素晴らしい提案だわ」


こうして、ジャンはモヤモヤを晴らし、私はすごく魅力的な権利を得られたという、両者が得をする形でこの件は終末を迎えるのだった。


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